【育成論】世界は広い。サッカーは奥深い。まだ知らない世界へチャレンジできる喜びとともに。危機感よりも好奇心!
前回のコラムはこちらから「オリンピックから考察する。世界基準を超えていくために《トレンド》を《スタンダード》に」
▼ 日本人選手には戦術理解がない?
サッカーのメカニズムや戦術に関する知識として《やらなければならないこと》《こうしたらこんなプレーができるよ》というところでは、日本の指導者だって、日本の選手だってだいぶ勉強してるし、だいぶ練習で落とし込んでいる。
特に2010年以降、僕はブンデスリーガで数多くの試合を取材してきたし、数多くの日本人選手と言葉を交わしてきた。ドイツ人選手や外国籍選手の受け答えも知っている。彼らのプレーを見て、試合後に話を聞いて、見えてきたものもたくさんある。
世間的に「あの選手は戦術理解がない」って言われる選手は、知らないからやっていないわけではないということがたくさんあるのだ。
「セオリーだとこう。でもあの場面ではそれをやっても意味がないし、逆にピンチになるから、あえて違う判断をした」
「ここでボールが出てきたらこんなプレーができたけど、あのシーンだと僕を見るのが難しいから次に備えて上がるのを控えた」
例えば内田篤人とか、酒井高徳とか、細貝萌とか、他にも本当にいろんな選手が試合後にそんな自分の狙いを言葉にしてくれていた。内田なんかはあえてセオリーではない立ち位置や距離を取って相手を誘い込み、ボールを奪い取るという芸当をよく見せてくれていた。
日本人選手だから、外国籍選手だからというところで見ていたらわからないことだらけだ。そういえば、元日本代表FW岡崎慎司はシュツットガルトでプレーしていたころに、こんなことをつぶやいていた。
「トレーニングとかで汲み取るじゃないですか、日本人は。まあ、オレだったら汲み取るんですよ、《ああ、こういう狙いがあるんだな》って。ちゃんと最後まで後ろ戻ってっていう練習なのに、(ほかの選手は)こう前目に行ってしまって。トレーニングなのに、(そのゲームを)勝つためにやるっていうか、あんまり意味を分かってない」
スポーツの世界では監督が求めるプレーをして、戦術理解があることを示すだけでは試合に出られないこともある。ゲームの性格との相性もあるのだ。サッカーはゴールを決めて、ゴールを守るスポーツだ。
そのための手段としてここのスキルや戦術との兼ね合いを考えて監督はだれを起用するかを考える。チームによってはゲームインテリジェンスのある選手より、《ボールを奪いきる》《独力で持ち込む》《ゴールをこじ開ける》という実行力を優先されることだって普通にあるわけだ。
どこのチームも、どの選手も、僕たちが夢のように思い描いているクオリティを備えているわけではないのだ。ドイツ人でもスペイン人でもイタリア人でも、なんとなくの感覚でプレーしている選手だって、僕らが思っている以上にたくさんいる。
例えば2014年ドイツ代表がワールドカップで優勝したら、世界中の人がドイツサッカーを絶賛した。日本もそうだ。その流れの中で僕もものすごい沢山の記事を書かせてもらったし、本も出した。
「ドイツってすごいね」「育成改革って大したもんだよね」「やっぱりサッカーってインテリジェンスが必要だよね」
ある日、ドイツ留学歴のある人が日本代表の試合を見てかみついていた。
「グループ戦術の基礎である動きができていない。誰かがボール保持選手に当たったらほかの選手は自動的にカバーとサポートの動きをしないと。ドイツだったら誰だってわかってる動きだよ」
その通りなんだけど、本当にそう?
ブンデスリーガを見ても、ドイツ代表を見ても、戦術本の一番基本とされる動きができずに失点に絡んだり、ボールロストをしているシーンって結構ある。知ってるのに、だよ。普段はわかっているし、何度も子供のころからやってきたことなのに、だよ。
今現在のドイツ代表は正直よくない。では現ドイツ代表選手は戦術理解がないから、戦術的なプレーができないの?そんなことはない。バイエルンやチェルシーでCL優勝に貢献している選手があれほどいるのだから。
でも試合になったら、大会となったら、チーム状態、大会までのアプローチ、背景、相手との駆け引きや試合の流れ、精神状態いろんなことが影響してくる。だからそんな初歩的なミスをしてしまうことだってあるんだ。
アーセン・ヴェンゲルがこんなことを言っていた。
「11対11でプレーしていたらね、何十億もの異なるシチュエーションが出てくるんだ。全く同じシチュエーションなんてありえない。選手はいつでもそれぞれの状況を認知し、その状況下で決断し、実践することが求められる。世界中のどんな指導者でも、選手に《君はこうプレーすべきだ》と明確に伝えることなんてできないんだ」
?️ "When you play 11v11, there's a billion of different situations possible and no situation is exactly the same. So the player always has to perceive a situation, make a decision, and then execute. No manager in the world can tell them exactly what to do."
Arsene Wenger pic.twitter.com/bYbDANvYUw
— Modern Soccer Coach (@msceducation) August 10, 2021
ここにサッカーの本質がある。
《監督の采配が》《チームとしての戦術が》《日本人の戦術理解が》
そんな指摘や批判をすることはできる。いくらでもいえる。そしてもっといいプレーができるように分析して、トレーニングに落とし込んで、指導者育成に反映させて、グラスルーツの環境を改善してと働き替えていくことはすごく大事。
でも、じゃあ、いろんな識者が言うような采配や戦術や個々選手の戦術理解があったら、もっといい試合運びができていたかというとそんな保証もないんだ。だからサッカーは面白い。
選手だけではなく、指導者だって、まだまだ知らない世界がたくさんある。まだまだ改善できるところがたくさんある。それを喜びに感じて、どんどんいいサッカーができるように、どんどん人間的に成長できるように、学びを深めていけたら最高じゃないか。
危機感よりも好奇心!
(残り 3035文字/全文: 5387文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ