中野吉之伴フッスバルラボ

【無料コラム】大丈夫ってなんだろう?普通ってなんだろう?

こんにちは!今週の「ゆきラボ」一日遅れの更新となってしまってすみません。先週から新学期が始まり、次男の入学式のことも少しご紹介しましたが、そこから始まった新しい生活のペースに慣れるのにはまだもう少し時間がかかりそうです。

日本の家族や友人と近況の報告をし合い、子どもたちの新生活のことも伝えると「ずいぶん普通の生活に戻ったんだね。もうそっちは大丈夫なの?」というリアクションをされることがあります。

一時の厳しいロックダウンに比べると確かに比べ物にならないほど生活は自由になりましたし、私自身、先週のコラムでは「学校生活がずいぶん通常化してきた」と書いたばかりではあるのですが、ではそれがイコール「大丈夫」なのかと言うとなんとも答えづらい状態です。

確かに、通常の授業だけでなく、これまでオンラインだった保護者会や教職員との面談、修学旅行や林間学校のような宿泊を伴う学校行事なども復活してきており、学校でやっていること自体はほとんどコロナ前の「普通」の内容に戻ってきている面もあります。

が、一方で子どもたちは体育と食事休憩以外はずっとマスクをつけたままですし、週2回の全員のコロナ検査も継続して行われており、これを受けないと授業には参加できません。学食も閉鎖されたままです。学校の中には未だにマスクをした顔しか知らない人もたくさんいるでしょう。それがはたして「普通」なのかな?とついつい思ってしまいます。

「普通」って何だろう?「大丈夫」ってなんだろう?

欧州選手権、優勝に沸く在フライブルクのイタリアファンたち

似たようなモヤモヤは、少し前の欧州選手権の時にも感じました。過去大会に比べて今一つ盛り上がりに欠けたとはいえ、有観客で大規模なスポーツイベントを開催し、スタジアムではアルコールを含む飲食が提供され、観客がマスクなしで声を張り上げて声援を送り、抱き合って勝利を喜ぶ姿が連日中継されていました。観客数が制限されていることを除けば、それは一見かなり「普通」のサッカーの試合の光景で、ヨーロッパはもうユーロを開催しても「大丈夫」なんだ、というふうに見えていたと思います。

ただご存じの通り、入念なコロナ対策を行ってはいても、大会に参加した各国チームにも観客にも感染者は出ましたし、決勝後のイングランドでは新規感染者が大幅に増加しました。

現在の子どもたちの送る学校生活にせよ、夏のユーロにせよ、全く・あるいはほとんどコロナの新規感染者が出ない状態をもし仮に「大丈夫」と呼ぶなら、「全然大丈夫ではない」というのが正直な答えになるのでしょう。今も相変わらず身近なところでコロナに感染した人の話は頻繁に聞きますし、それがいつ自分たちの身に降りかかってきても不思議ではありません。

9月22日現在、集中治療室の使用率を示すグラフと地図。赤丸が満床、黄色が残りわずか、グレーが空きあり

ただ、新規感染者のうち重症化する割合・亡くなる割合はかなり低く抑えられています。集中治療室も大都市圏を中心に満床が目立ってはいますが、実はこれ、コロナ以外の重症患者さんによる使用も含まれており、ベッド数全体のうちコロナ患者の占める割合は1割未満。ドイツ全体で見れば3分の1以上のベッドに空きがある、という状態でもあります。現在は、単なる感染者数の増加だけでなく、地域ごとの医療機関のひっぱく度合いに合わせて行動が制限されるという新しいルールが導入され、先週からスタートしたばかりです。

私たちが今受け入れている「大丈夫」は、今後もコロナの感染者は出続けるだろうし、重症化する人も亡くなる人も残念ながら出るだろうけれど、その数をなるべく少なくしながら、なるべくコロナの社会への影響を軽減して「普通」に暮らしていくことができる状態のことで、決してコロナに打ち勝つことや、コロナ前の世界に戻ることではあり得ないのです。

とはいえ、フライブルクでは先週末に集団接種センターが閉鎖されました。私もここで接種を受けましたが、元々はコンサートや展示会などに使用されるホールで、接種会場の撤収後は本来のイベント会場としての役割に戻ります。

大丈夫といえば、とりあえず大丈夫。だからといってコロナ前のように安心して暮らせるかというと、そこまでスッキリ割り切ることはできない。でも、コロナがあるという前提で生きていくために必要な一つのステップはどうにかこうにか乗り越えた。今、ドイツで私たちが立っているのは、そんなところなのかもしれません。

今週もお読みくださりありがとうございました!次回のゆきラボもよろしくお願いします。

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