中野吉之伴フッスバルラボ

【指導論】共通認識を持ちやすい《僕らの》言葉を生み出そう。育成コンセプト再構築プロジェクトの様子をご紹介!

フットボリスタWEBより転載

▼ 育成コンセプト再構築プロジェクト

僕がU-12監督を務めるフライブルガーFCではコロナ禍のロックダウンを利用して、自分達クラブの育成コンセプトをより具体化するためのプロジェクトを進めてきた。

もともとはブンデスリーガ2部に所属し、1906年には当時のドイツ全国大会で優勝した古豪クラブ。だが80年代後半に3部リーグへ降格すると、そこからの失墜を食い止めることができず、一時は8部リーグにまで落ち込んでしまっていた。自分たちのスタジアムは資金難から2000年にライバルクラブのSCフライブルクへ売却せざるを得ず、その後しばらくはフライブルクのアマチュアクラブにグラウンドを借りながら転々とするジプシークラブとしての活動を余儀なくされてしまっていた。

2007年にフライブルク市内のとあるクラブからグラウンド施設を買い取りようやく新しい本拠地を手に入れたものの、育成コンセプトやクラブフィロソフィといったものはしばらく手付かず状態。

僕は当時、一度フライブルガーFCのU-16とU-18で監督を務めていたことがあったが、あの頃クラブから求められていたのは勝利だけ。“いい選手を集めて、リーグで勝て”という雰囲気しかなかった。セカンドチームの残留が少しでも危なくなると、「トップチームからいい選手を借りればいいだろ」とか、「下の年代のトップチームで試合に出ればいいだろう」と育成部長が言ってくる。

それが本当に嫌で、僕は抵抗をし続け、自分のチームの選手一人ひとりを大切にし、自分たちのチーム作りを進め、結果としてリーグで好成績も残した。クラブからはU-17トップチームの監督オファーをもらったけど、僕はクラブを去ることを決意した。

あれから10年以上が経った。今、僕らのクラブには優秀で情熱的な若い指導者が多く集まってくれている。きっかけを作り、クラブフィロソフィと育成コンセプトの礎を作り、僕にクラブに戻ってきてほしいと声をかけてくれたのが、まさに当時僕のチームでプレーしていたルカとヨシュアの2人だ。

今2人は成人トップチームの監督を務めている。またGKコーチのマルコも当時のメンバーで、セカンドチームの監督は3年前僕がU-16監督を務めていた時のアシスタントコーチ。少なからず僕が関わったみんなが、このクラブの根幹作りに関わってくれているのがとてつもなく喜ばしい。

選手のサッカーに取り組む姿勢とクラブが求める共通理解の言語化との関係とは?

自前の選手を大事に育て、自前の選手中心に成人セカンド・トップチームを形成する。今ではトップチームは5部リーグにまで戻ってきた。5部と聞くと結構下のリーグだなと思われるかもしれないが、3部までがプロリーグのドイツにおいて、5部はいわばアマチュアリーグ2部。

僕らの他にかつてギド・ブッフバルトもプレーしていたシュツットガルト・キッカーズという古豪クラブも所属しているリーグだ。それで言ったら、フライブルガーFCは元ドイツ代表監督ヨアヒム・レーフも、現SCフライブルク監督クリスティアン・シュトライヒもプレーしていたクラブだったりする。

でも僕らの現在地は地域クラブの一つでしかない。プロクラブではないからお金はない。指導者を雇おうにも支払えない。もらえるとしてもちょっとしたお小遣い程度しか手にできない。でも、だ。それでも週に3度の練習+週末の試合とフル稼働したいといってくれる指導者が集まってくれているのはすごいことだと思うのだ。

今の育成部長は、「私も含めてこのクラブに関わる人みんながここで喜びを感じてほしい。強制ではないし、義務もない。このクラブのサッカーのフィロソフィに共感し、ここで指導できること、ここで指導者として学べることを楽しんでほしい。私にとってフライブルガーFCのサッカーはブンデスリーガのサッカーよりも魅力的なんだ」とことあるごとに話している。

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