中野吉之伴フッスバルラボ

【無料コラム】楽しいことも余裕がなければ続かない。古き良き伝統が復活するにはもう少しかかるかも

フッスバルラボをお読みくださっているみなさん、こんにちは。無料コラム【ゆきラボ】です。

2年ほど前ですが、こんな記事を書いたことがあります。

修学旅行、合宿、遠征、演奏旅行。ドイツの子どもは自分で旅費をかせぐ?

ざっくりまとめると、

・ドイツでは調理・衛生の資格者や保健所のチェック等がなくても、素人が調理した飲食物をイベントなどで販売し、売上を公益のために使うことが、社会通念上かなり広く認められている

・販売目的例:「サッカークラブでゴールを新調したい」「アマチュアオーケストラの演奏旅行費に充てたい」「修学旅行資金の一部にしたい」「災害に遭った地域の復興のために寄付したい」などなど

・大人だけでなく、子どももこのような活動に積極的に参加する

・ドイツにも経済格差が広がっている中、一人一人から一律に費用を徴収するのではなく、全体が協力し合って全体のために必要なお金を稼ぎ出すということは意義があると思う

・学園祭のようなこの販売活動、事前準備から当日の調理販売、後片付けまでかなり疲れるけれど楽しい

というようなことをご紹介させていただきました。

ただ、もちろん素人のすることではあるので、夏場に販売した食品が傷んでいて集団食中毒に……という話も時々聞かないではありません。それでも古くから続く良きドイツの互助の伝統ということで続いてきたこの習慣。

子どもとクリスマスに焼いたクッキー。確かこのときの売り上げは生活困窮者の炊き出し費用に寄付したような記憶があります

しかし、2020年春からのコロナ禍に伴って、このような食品の販売は一切禁止になりました。そもそも多くの来場者が集まって飲食を楽しめるようなイベントの開催自体が長い間制限されていましたし、イベントが部分的に解禁されても、飲食物の販売にはプロの販売業者ですら高い衛生基準が課されていました。いわんや素人をや、です。

この秋から、少しずつ様々な行事やイベントも再開され、それに伴って2020年以前のように各自が手作りした飲食物を販売することも徐々に許可されるようになってきつつあります。今年5年生になった次男の学校では、毎年11月末に学校でクリスマスバザーが行われ、子どもや保護者が協力して作ったクリスマスのデコレーションや焼き菓子などを販売していたのですが、次男のクラスでは保護者会で話し合った結果、この販売イベントへの参加を辞退することになりました。

理由としては、今年の秋冬のコロナの感染状況がどうなるのか、まだ多くの人が慎重であること。そんな中で再開されるイベントなので、入念なコロナ対策が求められ、作るのにも売るのにもハードルが高いこと。それに加えて今年の保護者会、なんとなく参加した保護者のみなさんの顔には私自身も含めて精神的な余裕がなく、疲れているような雰囲気が漂っていました。

規制だらけだったコロナ禍から、紆余曲折を経てようやく日常が戻ってきつつあるものの、気持ちの上で正直まだそれほど余裕がない……というのが、おそらく多くの保護者の正直な実感なのではないかと思います。ホームスクーリングと仕事をどうにか両立させていた日々も大変でしたが、学校も仕事も元に戻ったら戻ったで慌ただしい。みんなで協力し合ってイベントを盛り上げる達成感や、少しずつ労力を提供し合って利益を生み出そうとすることはとても貴重な経験だけれど、今はそれを楽しめるような状況ではない、といったところが本音なのではないでしょうか。

ということで次男のクラスでは今年度のイベントに必要な実費をその場で現金で徴収して保護者会解散となりました。

個人的には、子育てがより負担が少なく、より合理的なほうへ変化していくのには基本的に賛成です。専業主婦/主夫家庭や、祖父母世代の手を借りられる家庭も減る一方なので、手間や時間をかけるよりも、お金で解決できることはお金で解決、というのは1つの賢い選択肢でしょう。ただ、子どもたちにとっては「みんなで協力して集めたお金で手に入れたもの」という喜びは間違いなく格別なもの。この持ち寄り屋台文化を過去のものにしてしまうのではなく、いずれもう少し状況が落ち着いて、無理なく開催できるようになったら、みんなでこの屋台運営を楽しめるようになればいいなと思います。

今週もお読みくださりありがとうございました!次回のゆきラボもよろしくお願いします。

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