中野吉之伴フッスバルラボ

【指導論】日本代表のベトナム戦をドイツで指導している僕の視点で分析してみた

▼ 日本代表って実際どうなの?

カタールワールドカップアジア最終予選のベトナム戦をネット配信で観戦した。試合結果や内容に関しては皆さんご存じかと思われるが、日本はこの試合を1-0で勝利し、同日中国と引き分けたオマーンを抜いて3位に浮上。さらにはサウジアラビアとオーストラリアが引き分けたことで、2位オーストリアとの勝ち点差は1に減っている。

とはいえグループ最下位のベトナムにアウェーとはいえ、《1-0勝利は少なすぎるんじゃないか》《そもそも試合内容的によろしくないんじゃないか》《メンバー構成・システムが固定されすぎじゃないか》という指摘がSNS上だけではなく、各メディアのいろんなところでにぎわっている。元日本代表OBからの結構ダイレクトな指摘も増えているようだ。

このベトナム戦に関しては自分のスケジュールの都合で後半途中までしかチェックすることはできていないので、特に前半の戦い方をみて、気になったところを取り上げてみたいと思う。

▼ 日本ってそもそもポゼッションチーム?

ボール保持率というデータそのものは、別に試合の流れを表さない。ベトナム戦でいえば、ボール保持率64%という数字が出ているが、だからといって日本が終始押し気味に試合を運べていたわけではない。

僕は別にポゼッション絶対論者でもないし、現在森保一監督が守備バランスを大事にしながらチーム作りをしているなら、それはそれで問題ない。好みや相性の問題はそれぞれあるだろうけど、大事なのはチームとして確かなビジョンがあり、そのために必要な課題があり、それを個人として、グループとして、チームとして実践できているかどうか、そしてそれが勝利につながる道なのかどうかなのだから。

この試合でいえば、幻に終わったけど伊藤純也の素晴らしいゴールシーンもあった。相手に危険なシーンはほとんど作られてはいない。ただ好みの範疇を超えて、物足りなさというか心配になる点も少なからずあった。

そもそも《危険なシーンがほとんどない=失点の可能性はないとはならない》のがサッカーだ。

一つのラッキーパンチ、一つのセットプレー、一つのミスからどちらサイドにも得点の可能性がある。だからこそ、ゲームの流れを確かに掌握し、相手の狙いをずらして、効果的に決定機を作り出し、得点機をものにしていくことが、どんなチームでも大切になる。

そうした点で今の日本代表は、自分達から得点を奪える可能性を高めるための準備が少なすぎないだろうか。この試合でいえば、攻撃面で伊東頼りが強すぎる。そこを止められたらどうするの?という動きもなかったし、伊東を生かすためのゲームコントロールもあまり見られなかったのが残念だ。

スタメンで誰を起用するかは監督それぞれビジョンがあるから、それはいい。でも起用されたメンバーの構成と組み合わせから、《どんなプレーだったらそれぞれが効果的に生きるか》《相手の弱点をうまくつきながら自分たちの強みを出せるのか》が見えてこないと、チームプレーは厳しくなる。

例えばこの日、大迫勇也がトップで起用されたわけだけど、《なんのために?どうやって生かすの?》というのはピッチ上の動きからはわからなかった。ベトナムの5バックは人数はかけているし、すごくアクティブでアグレッシブにプレスへくるけど、正直スペースへの危機管理能力はそこまで高くはないのだ。

前への動きは鋭い。センターのスペースにパスが入った時にはCBがぐっと前に出てそこでつぶそうとする。中盤の選手も日本のボランチにパスが入ったら複数選手が前へとダッシュで出てきてそこでブロックしようとする。

でも、前には出れるけど、後ろには下がれない。パスが自分を超えて、後ろのラインへ運ばれたら、そこをカバーする選手がいない。ベトナムの守備ラインと中盤ラインの間にはぽっかりとスペースができがちになる。

日本も確かにそこを狙ってはいた。南野拓実がフカしてしまったチャンスなんかはまさにそんな形から。そして似たような形はほかにもあったけど、でもその頻度と精度が…。

そうした点から個人的にこの試合前半でのベストプレーは、遠藤航からダイレクトで縦のスペースに抜け出した大迫へのパスだった。中盤センターで近い距離でパス交換できる状況を作り、前に取りに来る相手守備の動きの逆を取るパスで攻略し、起点を生み出した見事なプレーだった。

オフザボールの動きで大事なのはパスを受ける動きではなく、パスを次につなげるための動きだ。

どこで受けるかだけではなく、そこからどこへつなぐことができるか、だ。

どれだけフリーでボールを受けたところで、その先に攻撃への選択肢がなかったら、結局パスを戻してやり直しになるだけだから。

自分達がボールをもってパスを回すビルドアップの時間帯に、どのエリアでどんな状況を作ろうとしているのかが見えない。守備ラインでパスを回して、中盤センターの選手がパスを引き出すところまでは行けても、その先へのつながりがないから、パスを受けた選手はボールを収めて、ドリブルで運んで、それからパスの選択肢を探す。それでは遅すぎるのだ。

この試合で日本代表の選手がダイレクトパスでポンポンとシンプルに展開したシーンがどれだけあっただろうか?みんながみんな《次にどうしたらいいだろう?》と考えながらだとプレーは詰まる。SBが半ば強引にドリブルで突破を図るというのはチャンスメイクがうまくいっていない何よりの証拠だと思うのだ。

この試合だけではなく、硬直した試合で日本代表は意図的にチャンスを作り出せる機会が少ないのはやはり気がかりといえる。

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