【ドイツ便り】存在しない町として陰謀説まで流れていたビーレフェルトを訪れてみた
▼ ビーレフェルトなんて町はない?
ビーレフェルトの陰謀という噂話がドイツでは根強く人気がある。
最初はある学生グループが飲み会のノリで始めただけだった。1993年北ドイツにあるキールでのことだ。学生グループが参加していたとあるパーティで知り合った相手の一人が《ビーレフェルト》出身だった。ただビーレフェルトという町をそのグループの誰も訪れたことがなかったので、1人の学生が冗談っぽくこう口にした。
「ビーレフェルト?そんな町はないよ」
ここまでだったらちょっとした冗談で終わっていたのだろう。爆笑必死の話ではないし、ちょっとした酒の席での小ネタ。
ただその学生は1週間後に友人と車で移動中に、さらに重なった偶然と遭遇する。高速道路からビーレフェルトの町へ降りる出口があるのだが、その時たまたま工事中だったため、「この道は使えません」の意味で標識に書かれた《ビーレフェルト》が横線で消されていた。
普段であればただそれだけのことなのだが、その時の学生たちにはまるで「ビーレフェルトという町はありませんよ」のように見えた。
学生はこの件からインスピレーションをえて、SF小説をネットで公開した。「ビーレフェルトという町は実は実存せず、誰かの陰謀によってまるで現存するかのように思い込まされているのだ」と。
これがきっかけとなり、ドイツ中の人が様々な《陰謀論》を唱えだす。
「ビーレフェルトは実在せず、アトランティス大陸への入り口となっている」
「ビーレフェルトには緑色の人型宇宙人がいて、ビーレフェルト大学がその基地になっている」
などなどロマン大爆発だ。
こうした噂話は拡散が速い。ネットの普及がさらに拍車をかけた。ビーレフェルトという町にあまりこれといった特徴がなかったことも影響したのかもしれない。信憑性のほどどうこうではなく、ビーレフェルトはこの噂話の枕詞のような存在ともなっていった。
それこそ元ドイツ首相アンゲラ・メルケルも、とある式典でビーレフェルトを訪れた際に、「あったんですね。私は《そこにいた》という印象を受けましたよ。そしてまた行けることを祈っています」というスピーチを残しているほど。
2年前の2019年は陰謀説誕生25周年のイベントさえあった。ビーレフェルト市はこの《自虐》をさらに楽しもうと、《ビーレフェルトの陰謀説コンクール》まで開催。市民権をガッツリえている。「ビーレフェルトが実存しないという論拠」を募集したのだが、優勝賞金はなんと100万ユーロと報じられていたからさあ大変。ドイツだけではなく、ロシア、インド、日本などなど世界中から応募が殺到したという。
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