中野吉之伴フッスバルラボ

【ドイツ便り】僕らはサッカーより大切なことがあることを知っておかなければならない。「私は疲れ切ってしまった」エッベルSD退陣から考える人生との向き合い方

▼ サッカーがすべてじゃない

サッカーにおける成功とは何だろう?
人生において大切なものって何だろう?

そんなことを深く考えさせられるニュースがドイツであった。

クラブとの契約を26年まで残すボルシアMGスポーツディレクターのマックス・エッベルがシーズン途中にも関わらずに退職を決断。ドイツに激震が走った。

エッベルは選手時代、育成ダイレクター時代を含めて23年間ボルシアMG一筋の人であり、どんな時も正直でオープンで、その場に流されずに将来を見通した確かな哲学と論理性をもとに決断をすることができると内外で高く評価されている人物なのだ。

今でこそボルシアMGはヨーロッパリーグ、チャンピオンズリーグに常時出場するクラブだし、黄金時代の70年代はそれこそバイエルンと雌雄を分ける存在だったわけだが、そんなボルシアMGも不振に苦しむ時期もあった。

最近であれば06-07シーズンにリーグ18位で2部へ降格。翌シーズンに1部復帰を果たしたが、しばらくは下位から抜け出すことができないでいた。チームとしてのカラーも魅力も見えてこない。そんな不遇の時代を乗り越え、ボルシアMGを今のような強豪へと復活させたのには、エッベルの貢献が非常に大きい。

明確なアイディアと健全な経営対策。エッベルは監督や選手をいつでも心から信頼し、逆に監督や選手にはクラブへのアイデンティティを求めた。クラブのために、ファンのために力を出し切れる人材が集まらなければ、クラブはその存在意義を失ってしまうのだから。

ブンデスリーガにとってエッベルは《いて当たり前》《いなければならない》人という認識さえあったと思われる。

そんなエッベルが自分から辞めるといったのだからみんなが驚いた。だが、記者会見で自分の口で正直に、実直に語られたその理由を聞いて、みんなが押し黙った。そして多くの人が、冒頭の問いと向き合ったのではないかと思うのだ。

まずはそんなエッベルの言葉を順不同で紹介したい。

エッベル 私は疲れ切ってしまっている。この仕事に必要な力は私の中にない。誇りも、フラストレーションも、愛情も。マックス・エッベルという人間は疲れ果てているんだ。

エッベル これまで私が取り組んできたすべてのこと、我が子のように情熱的にこのクラブのためにすべての力を注いできた。その力が、もうない。

エッベル 私の人生そのものだったものを終わりにする。喜びと楽しさをもたらしてくれたものを。サッカーは私の人生そのものだった。でも、今そのサッカーで楽しみを感じることができない。

エッベル ここで辞めるという決断をしなければならない。ここから抜け出さなければならない。自分の健康を第一に考えなければならない。

記者会見の間にエッベルは涙をこぼしながら、それでも話を続けた。僕らはそのメッセージをしっかりと受け止めなければならない。ドイツで起こったことだけど、ドイツでだけで起こることじゃないのだから。

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