【指導論】国際コーチ会議から学ぶ正しい価値観を共有することの大切さ。DFBタレントサポートプログラム主任「多すぎる情報は選手にとってマイナスに作用」
▼ 指導現場のエトセトラ
フライブルクで開催された国際コーチ会議から今回はダミア・ドゥガンジッチの講義をご紹介したい。ドゥガンジッチはドイツサッカー協会タレントサポートプログラムの主任を務める人だ。
17年、DFBプロコーチライセンス講習会をベストの成績で卒業。それこそユリアン・ナーゲルスマンやドメニコ・テデスコといった存在になるのかと思われていたが、ドゥガンジッチが選んだ道はプロの世界ではなかった。
彼にとって興味と情熱の焦点は育成だった。どのような取り組みで、どのような仕組みを作り上げて、どのような指導者育成を求めていったら、理想的な環境は生まれるのか。
ドゥガンジッチの人間性を表す一つの物語がある。B級ライセンス講習会の時、1対1の対応をテーマとする指導実践の授業で、ドゥガンジッチは指導者役の仲間から「最初は部分アクティブ(50%くらいの力)の形で守備をして」という指示だったにもかかわらず、最初からガッツリボールを奪いに行き、そしてこう話したという。
「部分アクティブってなんだ?そんなのサッカーにはないし、サッカーにないことをするのは意味がないよ」
指導者講習会では徐々に負荷を高めることの大切さは学ぶ。その中の一つのやり方として《部分アクティブ》という関わり方があるということはその場にいる誰もが知っている。そしてライセンスを獲得するためにどうしたらというのを考えている中、平然とそうしたことを言ってのけるとは。
ドゥガンジッチにそうぶつけられた指導者役はどう思ったのか。怒り心頭でケンカになった?いや、むしろ逆だった。この講習会後に自分のアシスタントコーチになってくれないかとオファーを出したという。
指導者役だった人物はローランド・ライヒャル。当時ブンデスリーガ2部(現在は3部)のインゴルシュタットでU15監督で、現在は育成アカデミーのチーフを務めている。ライヒャルは「コーチに対してもまっすぐ意見ができる。自分の意見を口にできる」という点を高く評価したそうだ。
人はだれでも自分の視点ばかりで物事を観察しがちだ。でも指導者というのはそうではない視点、そうではない価値観にも気を配れる資質が大切になる。ドゥガンジッチは様々なポイントで《指導者とは?》という話をしてくれたので、特に興味深かった話を取り上げてみたい。
▼ どうしたらいいか?と聞かれたらどうする?
ジャスティンという選手がいる。世代別代表にも選出されている将来有望とされる若手選手だ。ある試合のこと。ジャスティンは見る者を魅了するプレーを次々とみせていた。軽やかにボールを扱い、守備にも奮闘し、見事なアシストでゴールもアシスト。
そんなジャスティンが試合後、ドゥガンジッチに次のように質問してきたという。
「コーチ、なんで僕はいつもGK正面にばかりシュートをしてしまうんだろう?」
外から見ていたらすべてがうまくいっているように思っていたのに、本人は全く違うところで悩みを感じていた。選手には選手の主観がある。自分で問題だと思っているポイントがある。
さあ、こんな時、あなたならどんな声をかけるだろう?
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