kumamoto Football Journal

【女子】サカ女 vol.4 「2023年の女子ワールドカップに出場して、結果を残すのが目標」(FIFA国際主審・小泉朝香さん/株式会社三勢)

 

男子のゲームでも、毅然とした態度と明確なジャッジで試合をスムーズにコントロール( 写真は2017年2月に行われたロアッソ熊本の練習試合から)

自動車整備士を志した高校時代

小泉さんが生まれたのは岩手県。大学で解剖学を教える父親の仕事の関係で、その後はオランダやドイツ、オーストラリアといった海外での生活を経て、小学2年生の時に熊本に越してきた。もともとスポーツに興味があったわけではなかった彼女とサッカーとの出会いは、小学3年生の時。仲の良い友達に誘われ、学校の女子サッカー部に入ったのがきっかけだ。

「当時、熊本市内で女子サッカー部があったのは健軍東小だけで、部活は男の子たちと一緒に練習するんですけど、女子だけで、ベンチメンバーも含めて十分1チームできるくらい人数が多かったんです」

言うまでもなく、この時点ではまだ審判員に興味はなく、Jリーグもすでに始まってはいたが触れる機会の少なさもあって憧れの選手がいたわけでもない。ただ単純に、サッカーをプレーするのが好きな女の子だった。

中学に進んでからはクラブチームでプレーを続けたが、進学した県立熊本高校では「別のスポーツをやってみたい」と硬式テニス部に入部。一時はサッカーから離れる。この頃に抱いた将来の夢は、なんと自動車整備士であった。

「高校の担任が物理担当の面白い先生で、物づくりに興味を持ち始めて、車の整備士になりたいと思うようになりました」

そうして選んだ進学先は筑波大学。サッカーの世界では数多くのプロ選手や指導者を輩出していることで知られる体育学部を有する国立大学だが、この時点でもあくまでエンジニアを目指していたことから、工学部に進むことにした。

ちなみに、「史上初の東大出身Jリーガー」としてファジアーノ岡山やザスパクサツ群馬でプレーした久木田紳吾は熊本高校の同級生。明確に定めた目標に向かって集中して勉学に励み、努力を怠らない我慢強さや自分を律する芯の強さは彼にも通じるように感じられるが、そうした土台があったからこそ、早い段階で自らの意思で進路を決めることができたのだろうし、ひいてはそれが、公正さが求められるレフェリーとしての活動にもつながっているのだろう。

推薦での筑波大学合格が決まったのは高校3年の11月ごろ。高校で取り組んだテニスには「あまり魅力を感じなかったというか、やっぱりチームスポーツの方が好きなことがわかった(笑)」と、サッカーへの熱が再燃、同時にこの時期、熊本で初めて女子1級審判員となった濱崎覚美さんのレフェリングを間近に見て、「審判ってかっこいいな」と感じた。

大学では、体育学部の学生に混じって女子サッカー部に入部する。

「私たちは『他学』と言っていたんですけど、体育学部以外の学生も半分くらいいて、1学年に2、3人はサッカー初心者もいました。その中でも私は選手としては全然で、大学でもずっとBチーム」と笑うが、練習や試合はもちろん、大会運営や帯同審判など何事にも積極的に取り組むサッカー部の仲間たちの姿に刺激を受けた彼女は、「選手としては上のレベルにいけなくても、審判でなら日本一とか、世界の舞台を経験できるかもしれない」と思い至る。

その後は、周囲にもその考えを伝えた上で、選手としてのゲームより審判活動のウエイトを少しずつ増やして、茨城県内で行われる中学生男子の試合などで経験を積み、大学在学中に日本サッカー協会2級審判員の資格を取得。そして大学2年生の頃、「23最以下の次の世代の国際審判員を発掘、育成する」目的でAFCが行っている「プロジェクト・フューチャー・レフェリー・コース」という取り組みの一環で、ベトナムで開催されたU-13のガールズフェスティバルにJFAの推薦を受けて日本の女性審判員でただひとり参加。この経験が、その後を決定づけた。

「真面目ではないんです」と笑うが、自分で決めた道を邁進するエネルギーや集中力は、プロサッカー選手をはじめとするアスリートと同じ

「大人になって初めての海外で、そこで知り合った同世代の人たちと身振り手振りでコミュニケーションしながら、2週間一緒に過ごしました。はじめのうちはぎこちなかったけれどだんだん打ち解けて、『大会を成功させよう』という団結力が生まれて、すごく楽しかったんです。試合ではミスや悔しいこともありましたけど、こういう世界っていいなと」

「こうと決めたら、のめり込んでしまう」と自己分析する通り、この出来事を機に、新たに芽生えた「審判として世界の舞台に立ってみたい」という思いが、それまで抱いてきた「自動車整備士」という夢をあっさり追い越してしまった。

 

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