「ゼルビアTimes」郡司聡

【コラム】J2第8節・ジェフユナイテッド千葉戦/MF 8 谷澤 達也『フクアリへの帰還。万感の“古巣戦”』

■明治安田生命J2リーグ第8節・4月17日(日)16:00キックオフ
フクダ電子アリーナ
ジェフユナイテッド千葉 vs FC町田ゼルビア


▼主将の目に映った意外な姿

チーム主将のリ・ハンジェは、今季新天地に移ってきた谷澤達也の意外な姿に目を奪われた。


「これだけ守備を頑張る選手だとは思わなかった」

谷澤の代名詞と言えば、抜群のボールキープ力と独特な間合いから繰り出されるドリブル突破。オフェンシブな選手というイメージが強い。しかし、1月15日の始動日からリーグ戦を7試合消化した時点では、周囲のチームメートからも「ヤザは守備の選手だ」という冗談が飛び交うほど、球際の攻防で体を張り、相手からボールを強奪する場面も少なくない。コンパクトな3ラインと激しい球際の攻防は、“相馬ゼルビア”の生命線。チームに適合する意味でも、局面で体を張ることは大前提だが、本人にとっては至って自然なことであるようだ。

「プロに入ってから守備のことはずっと言われてきたので、それが自然と身に付いたんじゃないか」

プロのキャリアが始まった柏レイソルでは、マルコ・アウレリオ監督や“ハードプレス”で鳴らした石崎信弘監督の下で守備力の部分を鍛え上げられてきた。もはや“ハードワーク”はベースの中のベース。プロ1年目からの源流がいま、この新天地・町田で生きている。

▼指揮官の目線

プロ16年目のキャリアを誇るリ・ハンジェをもってしても、谷澤の選手キャリアには一目置いている。J1・通算164試合出場。J2・通算228試合出場。これだけのキャリアがあれば、どこか偉ぶった様子があってもおかしくはない。しかし、主将の目に映った谷澤は「あれだけのキャリアを持っていても偉そうにしないし、純粋にサッカーを楽しんでいる」。トレーニング中にはさりげなく若手選手にアドバイスを送り、「フォア・ザ・チームの選手」(リ・ハンジェ)として、チームのベースアップに一役買っている。「機転の利いた守備と攻撃ができる選手なので、サッカーをよく知っている」。取材を受けている主将に対して、ちょっかいを出すような存在だとしても、リ・ハンジェは谷澤のことをベタ誉めだ。

もちろん、谷澤は攻撃面でアクセントを加える存在としても異彩を放っている。奪ったボールを素早い攻守転換につなげる“相馬ゼルビア”では、縦一辺倒になりやすい傾向があるが、谷澤の“タメ”を生かしたプレーが攻撃に緩急をもたらしている。「なるべく流れを止めないようにすることを意識しながら、時間帯や状況によっては考えてプレーしたいと思っている」。前節・モンテディオ山形戦では、ハーフウェーライン付近でボールをキープしながら味方の追い越す動きを誘発し、鈴木孝司がシュートモーションに入る一歩手前の場面ではゴール前まで顔を出した。一見、巧みなワンタッチパスに見えたが、本人いわく、「あの場面はトラップミスが良い感じで……」。鈴木孝司が相手に倒されてPKを獲得したあのシーンは、ゴール前まで顔を出すことを意識付けられているチームコンセプトを忠実に表現していたことになる。

「得意なプレーだけではなく、もう一つ自分が変わろうと、ボールの出し手だけでなく、パスの受け手となるプレーにトライしてくれていることが大きい」

新天地でプレーヤーとしてもう一皮むけようと奮闘する背番号8の姿に、指揮官・相馬直樹監督も最大級の賛辞を贈る。

▼フクアリへの思い

今節は期限付き移籍元であるジェフユナイテッド千葉との“古巣戦”に臨む。昨季までホームスタジアムとしてピッチに立っていたフクダ電子アリーナにアウェイチームの選手として帰還を果たすーー。

「フクアリでプレーできることを楽しみにしていた。チーム自体はガラっと変わったけど、とにかくフクアリのピッチに立ったら、こみ上げてくるのがあるのかなと思う」

フクアリのピッチに足を踏み入れた自らの感情がどんな形で表出するのか。いま、それは分からないが、きっと万感の思いが谷澤の感情を支配することだろう。

谷澤の8番を受け継いだ井出遥也は、先輩との対戦を心待ちにしているという。さらに千葉の最終ラインにはかつて柏でチームメートだった近藤直也が君臨している。「まだまだ若い選手には負けていられない。今まで町田でやってきたことを出せればいい。ドゥさん(近藤の愛称)は対人に強いので、チームとして連動した動きで崩していきたい」。古巣戦でのターゲットは、かつての庭でのゴール。「近年はあまり点を取れていないので、ゴールにはこだわりたい」と新加入会見の日に話していた男にとって、移籍後初ゴールは待望久しい瞬間でもある。

「(同じ新加入選手の中島)裕希は4点も決めているので、早く決めたいと思う。点を決めたいという思いはすごくある。点を決めてパフォーマンスをしたい」

『俺たちジェフ!』のトラメガ・パフォーマンスでフクアリのゴール裏を盛り上げてきた男が用意している、ゼルビアでのゴールパフォーマンスのアイディアとはーー。まだその前に、彼にはやるべきことが残されている。それはもちろん、自らのプレーでジェフ・ゴールをこじ開けることである。

Text by 郡司 聡(Satoshi GUNJI)
Photo by ©FC町田ゼルビア

【プロフィール】
谷澤 達也(やざわ・たつや)
1984年10月3日生まれ、31歳。静岡県志太郡大井川町(現・焼津市)。174cm/75kg。静岡学園高校→柏レイソル→ジェフユナイテッド千葉→FC東京→千葉を経て、2016シーズンよりFC町田ゼルビアへ期限付き移籍で加入。J1通算164試合出場15得点。J2通算228試合出場25得点(2016年4月16日現在)。

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