森マガ

【日本代表のトレーニング】岡田武史監督(2回目)の時代(4)

イビチャ・オシム監督からチームを引き継いだ岡田武史監督は、バーレーン戦の敗戦を受け、自分の色を急ピッチでチームに浸透させていた。トレーニングではよりハードワークが求められ、役割分担が明確になる。その中で、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いるコートジボワールと対戦する……。

5月も引き続き守備のトレーニングが続く。オシム監督時代からのリニューアルは急ピッチで進んだ。

ゲーム形式のサイドを使う練習が終わった後、残りの時間を守備の指導に付きっきりとなった。特徴的だったのは攻守に分かれた後、最初に守備側の練習で行ったのがボールを繋いで展開する場面だったこと。相手に詰められたとき、いかに展開するかということから始め最後は実践的なトレーニングにまで移行した。5月は型の練習から次第に実戦形式のトレーニングに変わってきていた。

まず図8のコートでのトレーニングが始まった。赤にポール、青にコーンが置かれており、ポール同士、コーン同士の間隔は約5メートルのゲートになっている。そしてポールとコーンの間隔は約10メートルほどだった。選手は4-3-2の形に分けられ、遠藤保仁または鈴木啓太はフリーマンとしてボールを持ったチームの選手としてプレーする。

ボールとコーンのゲートを2つとも通り、また、最初のボールまたはコーンを通った後に、味方が誰かプレーした後、もう1つのポールかコーンのゲートを通さなければならない。また2タッチ以下でプレーしなければならないが、インターセプトした場合は3タッチまで可能というルールだった。

ゲートを2つ通さねばならず、しかもその途中で誰かプレーしなければならないということで、必然的にゲートの付近に攻守の人数が集まる。そして攻撃側は片方に人数が集まったのを確認すると、逆サイドにパスを回せば局面を有利に導くことが出来、守備側は逆サイドに回させないようなコースの消し方をするようになる。
このトレーニングはさらにダイレクトプレー、ラストパスのみ2タッチ以下と制限を厳しくしながら続けられた。

本来ならば、これがチームコンセプトの確認であり、トレーニングとしては最後のメニューになってもおかしくない内容だった。だが、この練習の後に選手は攻守で分けられ、岡田監督は守備側について細かく指示を出した。

そこでは選手が4人のDF、2人のボランチという形に並べられ向かい合う。そしてボールを奪い合うのだが、CBがボールを保持したとき、SBはどちらかが大きくあがりスペースを作り出した。また、CBがボールを持ってあがることも許され、その場合はすぐにボランチがDFラインに入ってカバーする。

ボールを奪うだけでは無く、その先のボールをつなぐ部分までの確認だった。MFが入っていないため、組み立ての前段階と言えるだろう。ただ単に前線に蹴り出すだけではなく、きちんと繋いでいこうという意志がそこにはあった。

これが後のアルベルト・ザッケローニ監督、ハビエル・アギーレ監督、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のベースとなった。岡田監督の後の監督たちは、いつ、どんなタイミングで縦にボールを入れるかというポイントを考えれば良くなったのだ。その前段階までは岡田監督が基礎を作っておいたのである。

攻撃は図9のトレーニングが行われた。赤い▲にはダミー人形が立てられた。そこにボランチ2人、サイドMF2人、2トップの6人でシャドープレー。ここまでだったら、普通の練習だが続いて図10の練習に移ったことで意図がよりはっきりとした。

左のハーフコートに、ボランチ2人、サイドMF2人、2トップの6人で構成されるグループが向かい合う。それぞれ攻撃、守備と役割が割り当てられるが、守備側の両サイド、水色の2つエリアには追加でSBが1人ずつ入る。また、その水色のエリアにはサイドMFも一人ずつ入り、攻守が1対1となる。攻撃側には2人のSBが追加されるが、攻撃側SBは黄色のエリアを出ない。

これでそれぞれの担当エリアがハッキリした。特に水色は1対1で勝負せねばならず、SBが通常攻撃に参加するエリアもハーフラインから10メートル出たところまでということがわかる。そして赤いゾーンをどう攻めるかというアイデアが求められていた。

さらに中央突破の練習も行われた。5月25日、日本がヴァイッド・ハリルホジッチ監督監督率いるコートジボワールと試合をおこなった翌日のことだ。

図11で表されるコートが作られた。ダミー人形(赤い▲の部分)が置かれたのは、CB2人とボランチ3人の位置。そこにダイヤモンド型の配置からダイレクトでパスを繋ぎ、ゴールを目指す。コートジボワール戦の前のサイドを使った形から、サイドをまるで使わない形にトレーニングは変わった。

だがシャドープレーであること、ゴールできなかった場合は急いでコーンの位置まで戻らなければいけないというのは岡田監督流。控え選手を中心に、選手たちは必死のアピールを繰り返していた。

ここまでの岡田監督のトレーニングを取材して一番感じたことは、「岡田監督は日本人そのままである」ということだった。特に日本でのサッカー経験者は、どこかでシャドープレーを経験していることだろう。そのため、日本代表選手たちも岡田監督の練習を見て「懐かしい」と思うのと同時に「慣れ親しんだ」という感覚になったのではないだろうか。

もっともそれが面白いと感じたられたかどうかは別だった。岡田監督に代わった直後は、シャドープレーになると明らかに集中力を欠くプレーヤーもいた。しかし、そういう選手たちを厳しく追い込むことが出来るのも岡田監督の特徴だったのは間違いない。

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