長崎サッカーマガジン「ViSta」

【コラム】大久保択生、FC東京移籍。~GKという特殊性~

サッカー選手の中にあってGKというポジションは飛び抜けて特殊なポジションである。手を使って良いため、足でボールを触るというサッカーの最も基本となる部分ですら、他のポジションとは大きく異なる。
「だから、GKコーチっていう専用の指導者が必要なんですよ」
以前、大久保君にGKというポジションについて話を聞くとそう答えてくれたのをよく覚えている。「GKの練習だけはGK経験者にしかできないんですよ。蹴るボールも経験者とそうでないかに出るんです。それで練習に大きな差が出ることもある。」そう続けて語った大久保君は、「だから、GKはサッカー選手というより、GK選手って言った方が良いかもしれませんね、それくらい特殊なんです」と言って笑っていた。

当然、それだけ特殊なポジションなので、そのプレーはパッと見てすぐに評価を下すのが難しいプレーも多い。相手シュートをファインセーブで止めるよりも、味方を上手く動かして相手に良い態勢でシュートを打たせずに簡単にキャッチする方が良いこともあれば、判断の難しいボールをパンチングで弾き出すことが実はピンチを防いでいることもある。
ゴールキックにしても同様で、前線に競り合いの強い選手が少ない場合、確率の低い競り合いに賭けて蹴るよりも、タッチラインを割りやすいキックを蹴る方が守備を構築する時間を作りやすいことだってある。

「そういう所を見てほしいんですよ(笑)。」
以前、相手が有利に攻める中で受け身に回らず、前に飛び出していく果敢な守備を見せたことを伝えたら、こう答えが返ってきた。ファインセーブのシーンより、とても嬉しそうに笑っていたのが印象的だった。どうしても失点の責任を問われることの多いポジションだが、確固とした理論を持って戦うGK選手だからこそ、その責任も背負えるし、ファインセーブという派手さに浮かれることもないのだろう。

オフに入り、択生君のところには幾つかのチームからオファーがあった。第1GKとしてオファーしてきたチームもあった中、彼が選択したのはFC東京。「チャンスはあると思うんですよね。」択生君がそう言えるのは、長崎で着実に出場試合数を増やし、今季はついにリーグ全試合出場を達成した自信なのだろう。その言葉にはレギュラー争いに臆するでもなく、初のJ1クラブへの移籍に浮かれるようでもなく、驕りも侮りも感じることはなかった。きっと、長崎でそうであったように1番早く練習場に現われ、練習をして、練習後は1番早くクラブハウスから出てくるのだろう。東京でも長崎でもJ1でもJ2でもそれは変わらない。そして、責任を背負い、浮かれることもない・・。
当然だろう、彼は確固とした理論で戦うGK選手なのだ。

reported by 藤原裕久

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ