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【アカデミーコラム】敗れざる強豪校2020 第3回(全3回) ~南山中最強世代の3年後(南山高校)~

創成館高校の初優勝で幕を閉じた2020年の全国高校サッカー選手権大会長崎県予選。その選手権県予選でベスト4まで進出した3校にスポットを当てる、長崎サッカー応援マガジンViSta(ヴィスタ)の企画『敗れざる強豪校 2020』。第3回目の今回は、南山高校について書いてみたい。

『敗れざる強豪校2020』第1回:~強者の伝統(長崎総合科学大学附属高校)~
『敗れざる強豪校2020』第2回:~復活途上の名門(国見高校)~

■南山高校~南山中最強世代の3年後~

今から3年前。2017年の南山中はとにかく強かった。県の新人戦を優勝し、県中体連でも長崎県サッカーリーグU-15でも優勝。中でも夏に行われた全国中学校サッカー大会では、1回戦で前年度準優勝の暁星国際中学を下して、最終的にベスト8にまで進出している。

その世代の主力だった浦達章・田川太陽・原輝夢らが3年生となった今年の南山高校は、関係者から好選手がそろっていると評価されていた。コーチから新たに監督となった野中祐樹監督の下、南山らしい攻撃的で素早いボール回しによる仕掛けは魅力的で、久しぶりに『攻撃の南山』と呼べるチームだった。

1月に行われた長崎県新人戦では、中地区屈指の強豪である日大を4-1で撃破。続く準々決勝で国見に0-1で敗れはしたものの、田川太陽と原輝夢を中心とした攻撃力は、大いに他校の警戒を集めていった。

「攻撃がハマれば南山もあり得る」
そんな声も聞かれる中で開幕した全国高校サッカー選手権長崎県予選。3回戦から登場した南山は初戦の瓊浦高校に5-0で大勝発進。続く準々決勝では、岩﨑雄永(創成館高校)、五月田星矢(V・ファーレン長崎U-18)とともに、県内トップのボランチとして高く評価されていた林田阿土夢を擁する島原商業を、PK戦の末に下し、2年ぶりにベスト4へと勝ち進んだ。

準決勝の相手は、前年度覇者の長崎総合科学大学附属高校。選手権予選においては、先制点を奪ってから一気にペースを奪って快勝するのが定番の強豪を相手にしても、南山は一歩も引かぬ激闘を演じてみせた。立ち上がりの前半7分に先制されはしたもものの、39分には、ロングスローから清原胡太郎のヘディングで同点とすることに成功する。その後も田川を起点とする攻撃で長崎総大附属ゴールを脅かし、ゴール前では体を張った守りで相手の攻撃を弾き返していく。過去10年で7度の優勝を誇る王者を相手にした、その戦いぶりに会場内にも「あわや・・」を期待する空気が広がる。

だがその流れを断ち切ったのが、再三に渡って右サイドから攻撃をリードしていた長崎総科大附属の背番号22、岩永空潤だった。51分に彼が右CKから放った一撃が、ダイレクトに南山のゴールネットを揺らす。彼は2017年の南山中で、原・田川らとともに南山中の攻撃を担った背番号9だった。長崎総大附属でも2年生がレギュラー入りしていた岩永だが、今年の選手権前には背番号なしとなっていた。小嶺忠敏監督も「当初は大会に起用するつもりじゃなかった」と語っている。その中で必死にサッカーに取り組んだ意地の一撃。それはそのまま試合を決定付けるゴールとなった。

かつて南山中で共に戦った仲間の一撃で突き放されても、南山は懸命に攻め続けた。原がドリブルで仕掛けようとし、田川がゴール前でボールをおさめて攻撃を作り、CBの清原と浦は必死の守備を展開した。何か少しのラッキーがあれば、あるいは同点という場面もあったかもしれない。だが試合はそのまま終了し、3年前に全国ベスト8に進出した選手たちの戦いは、かつてともに戦ったメンバーの一撃で涙を呑んだ。南山高校として全国へ出場する夢は叶わなかった。

それでも、大会を通じて見せた南山のの攻撃的なスタイルは本当に面白く、同時に南山らしさにあふれていたと思う。大会が終わったとき、前後半40分の試合中に長崎総大附属から得点を奪ったのは、南山だけだった。破れはしたが、彼ら自慢の攻撃力が県最強レベルであることを証明したのだ。伝統的に南山高は選手の強みを伸ばし、好素材のまま大学サッカー界へと送り出すことが多い。現在、V・ファーレン長崎でプレーする鹿山拓真などはその典型だ。恐らく田川も原も浦も同じ道を辿るのだろう。数年後、彼らの内で誰かがJリーガーとなっている可能性もあるだろう。だからこそ思う、荒削りだが、ハマったときの強さは手が付けられない。そんな彼らが集まったチームを、大舞台で一度見てみたかったと。2020年の南山高は、久しぶりにそう思わせてくれたチームだった。

reported by 藤原裕久

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