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【コラム】長崎サッカーの風景 『ミスター重工の日常。安部真一が現役を続ける理由(三菱重工長崎SC)』

ミスター重工。
長崎のサッカー界でそう呼ばれる選手がいる。

プロとしてプレーした経験はない。高校サッカーや大学サッカーで輝かしい実績を残したわけでもない。それでも長崎サッカー界の人間なら、誰もが彼に一目を置く。

「(三菱重工長崎SC)重工も、俺が現役だった頃からやっている選手はほとんどいなくなったけど、まだやってますよ。あれが本物のレジェンドですよ」

夏場に行われたV・ファーレン長崎U18と三菱重工長崎SCの練習試合を視察していたV・ファーレン長崎強化部スタッフ、神崎大輔はそう呟いた。視線の先には、汗だくになりながら必死にボールを追う選手の姿があった。おごらず高ぶらず、常に等身大。重工の背番号10。それが安部真一である。

華麗な技術で軽やかに相手をかわしたり、一撃必殺のキラーパスで相手の背後を突くようなプレーが持ち味の選手ではないが、運動量と粘り強さを前面に、シンプルながらも的確なプレーで攻守を支えるのが安部の真骨頂だ。90分×2本で行われた練習試合の2本目に出場した安部は90分に渡って走り、体を張ったプレーを披露した。

「今日、試合の終盤にちょっと動きが落ちたんですよ。自分なりに何でかなって」

試合後に話を聞くと、今年で43歳になる安部はそう言って笑う。普通なら年齢のせいにしそうなものだが、8月の雲も風もない中で90分プレーしてこのセリフである。だが、安部がフル出場して90分走り続けるのは、特別な話ではなく普通の光景だ。


社会人チームである重工では、公式戦にレギュラーメンバーをそろえるのは容易いことではない。ちょうど世代交代に入っていた2年前の2017年に、重工は23年間在籍した九州リーグから降格し、現在は長崎県1部リーグに所属しているが、どの公式戦であっても安部は常にフル出場を狙うし、出場すればフルに走りきろうとする。

重工でも国体の成年男子チームでも、そうやって周囲の信頼を勝ち得てきた。V・ファーレンの歴代OBの多くは、安部と九州リーグや長崎県選手権で対戦したり、国民体育大会の長崎県サッカー成年男子チームでともにプレーした経験を持つ。当時を知るV・ファーレンOBに会うと、「ミスター重工は、まだ元気にやってますか?」と今でも聞かれることが多い。その人間性とプレーこそ、彼がミスター重工と呼ばれる所以なのだろう。

高校卒業後に重工に加入して以来28年、安部は重工と国体でプレーし続けてきた。県1部リーグから九州リーグへの昇格も、九州リーグから県1部リーグへの降格も、天皇杯でのJクラブとの対戦を経験し、ライバルチームの選手として、県初のプロクラブ、V・ファーレン長崎の誕生を知り、競ってきた経験は長崎社会人サッカー界の歴史そのものと言って良い。それだけ長くプレーいるのだから、当然の話だが、かつて九州リーグで共にプレーし、競い合った選手の大半は、すで現役での第一線から退いた。

それでも安部は、現役を退こうとは思わないと言う。

「全然レベルが違うんですけど(笑)、遠藤(保仁)さんやカズ(三浦知良)さんなんかも一緒だと思うんですよ。普通通りに当たり前のことをやっているつもりなんですよね。辞めるきっかけはいつか来ると思うんでよ。それが何なのかも分からないけれど。でも自分の中で辞めるつもりはないんですよね。毎年やっていることを、いつものように当たり前をやっているだけなんですよ、今も。普通に練習して、炎天下でも試合して、体力が落ちたら何でかなって考えて。だから46歳になった今も、それをやっているのが自分にとっては普通のことなんですね」

今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で十分にサッカーができず、県リーグや昇格を狙う九州リーグの参入条件も変更となった。それでも安部の日常は変わりそうにない。安部にとって、46歳になった今もサッカーをやっている日々が日常で、現役を退くことの方が非日常ということなのだ。

だから、次にV・ファーレンのOBに会ったとき「ミスター重工は、まだやってますか(笑)」と聞かれても、私はこう答えることができるのだろう。

「普通にやってますよ。当たり前でしょう」

そう、安部真一が長崎でサッカーをやっているのは、日常のことなのだ。

reported by 藤原裕久

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