長崎サッカーマガジン「ViSta」

【アカデミーレポート】創成館、10年目の選手権初挑戦。得たもの・感じたもの・受け継ぐもの

「今年の3年生は、良くない時期が続いていてのこの状況(選手権出場・3回戦進出)、よく成長してくれたと思います。だから彼らには感謝していると伝えました」

監督として初めての選手権を戦った久留貴昭監督

1月3日、埼玉県の浦和駒場陸上競技場で行われた第99回全国高校サッカー選手権大会3回戦の昌平戦に0-3で敗れたあと、創成館高校の久留貴昭監督はそうコメントした。初めての全国、初めての選手権、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため、スタンドには父兄のみしか応援が許されず、高校サッカー名物である独特のチャントも歌われないという特殊な環境。その中で全国1勝をもぎ取り、3回戦ではJ内定4選手を擁する昌平相手に敗れたものの、後半は互角の戦いを見せたのだ。健闘したと言っていいだろう。

【全国1勝をあげた学法石川戦と、その先の道が見えた昌平戦】

緊張するかと思われた全国初戦の学法石川戦だが、「硬さが出るかと思ったが、良くやってくれた(久留監督)」というとおり、創成館の選手たちに緊張して舞い上がっている感じはなかった。確かに前半途中までは長いボールが行き交う落ち着かない展開で、アタッキングサードからのミスも目立ったが、学法石川が高さのある倉島聡太にボールを集めてきても、江崎智哉・吉谷武のCBが冷静に対応してしっかり守ることはできていた。

2021年1月2日 選手権2回戦:学法石川(石川)1-1(PK3-4)創成館(長崎)

52分に先制ゴールを許しても、チームの落ち着きは揺るがない。試合前の時点で「失点されても慌てるな(久留監督)」と話していたチームは、すぐさま新川翔太がサイドをえぐって、最後は岩﨑雄永が同点とすることに成功。1-1からのPK戦でも、「練習でよく止めているの見ていたので、自信を持ってやれました(岩﨑)」という言葉通り、トータル4-3で勝利してみせた。

55分、創成館は失点からわずか3分後に同点に追いつく

敗れてしまった昌平との一戦でも、「思ったような展開にならず引いてしまった。悔やまれる(久留監督)」という前半に3失点を喫したが、後半は互角の戦いを展開した。たしかに、前半は昌平をリスペクトし過ぎて、攻撃はほとんど機能しなかったが、統制の取れた守備は見せていたし、互角に戦えた後半も得点を与えなかった。3点差をつけて昌平がペースを落した部分もあった。それでも選手やシステムを変えながら、ハーフタイムで試合を修正できたのは間違いない事実だ。力差があったのは確かだが、全国優勝を狙えるチームと戦う糸口も見えたのではないだろうか。

2021年1月3日 選手権3回戦:昌平(埼玉)3-0創成館(長崎)

1年間、チームを引っぱってきた岩﨑は、昌平との個の差について、「止めて蹴るの技術の差や、状況に応じた個人戦術に差は感じたし、何より駆け引きがうまかった」と認めながら「後半は積み上げてきたものが出せた」と語った。久留監督も「この舞台でサッカーをするために鍛えてきたけれど、実際に出てみて、戦うのも同じ高校生だし、どんな展開になるかかわらない。そういう舞台なんだと思いました」と語っている。方向性は間違っていないことが見えたようだ。

昌平戦後にコメントする、キャプテンの岩﨑

【受け継ぐもの】

久留監督就任10年の集大成とも言えた、2020年度の創成館高校サッカー部の戦いは選手権3回戦で終わった。CBの江崎は上背がある方ではないが、そのぶん先を読んで相手の嫌がる位置を取り、エース岩﨑へのマークが厳しいときは、彼が最終ラインからボールを散らしていた。新川はボールを前線で持てる選手として、相手にとって厄介な選手であったと思う。吉村大和は中盤でバランスを取り、1年生FW波多野太一は、久留監督が初戦終了後「起用が当たりました」という働きを見せた。

初戦では「余りなれないグラウンドで距離感をつかめずに(ハイボールで)かぶってしまった」という2年生GK永田健人もPK戦では鋭い読みを見せ、2回戦でも3失点したが良い反応を見せていた。同じく2年生の村田颯や石橋廉太と今後の主力としての一層の期待がかかる。

新チームで中心として期待されるGK永田

昌平に敗れたあと、創成館の選手と監督は試合後のオンラインでの会見になかなか出て来なかった。「試合が終わったとき、ベンチで泣いているやつもいて、何泣いてんだって少しイジリました」と笑った久留監督だが、その表情には、充実感・悔しさ・感謝などいろいろな思いが交錯しているようだった。

「(次のエースナンバー8は)、プレーでも示さなければいけないし、責任やプレッシャーを抱えながらプレーしなければいけないので、創成館サッカー部を引っぱっていけるような選手につけてもらいたい」

エース、岩﨑は自らの番号を引き継ぐ選手への期待をそう語った。同じようにさまざまな感情が詰まった3年生の番号は、次へと引き継がれていく。それを伝統というのだろう。そして創成館よりもっと早く、選手権県予選終了後から引き継ぎを進めることになった各校でも、新たなチーム作りが進んでいるそんな彼らの戦いをまた1年間、楽しんで追いかけていきたい。

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