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【アカデミーレポート】令和3年度長崎県高総体サッカーレポート~長崎総大附属が際だった強さを見せて、盤石の王座奪還~


6月5日から始まった令和3年度(第73回)長崎県高等学校体育大会サッカー競技(男子)は、11日の決勝戦で長崎総合科学大学付属高校が長崎日大を破り、4大会ぶり4度目の優勝を飾った。1月に行なわれた県新人戦で初戦となった2回戦での敗退のためノーシードの1回戦から出場となった長崎総大附属だが、初戦から圧倒的な実力を発揮。39得点無失点という文句なしの内容で、堂々の県最強王者の座を取り戻した。

【予測と準備が万全だった長崎総大附属】

「1回戦で大勝するような相手と対戦するときも、ちゃんとスカウティングをやるか?」
長崎日大の亀田陽司監督は、長崎総合科学大学付属高校を率いる小嶺忠敏監督と話しているときに、そう言われたことがあるという。
「相手によってはやらないこともありますね」
亀田監督がそう答えると、こんな返事が返ってきたそうだ。
「だから、お前は大事なところで勝てないときがあるんだよ」

その言葉が正しいかどうかはともかく、小嶺監督のスカウティングの熱心さは有名だ。次の対戦相手の試合はもちろんのこと、大会前の他校の練習にまで生徒を派遣してトレーニング内容をスカウティングすることもある。今年2月に行なわれた九州新人戦の会場にも小嶺監督の姿はあった。高総体前、他校の関係者も「長崎総大附属はかなりスカウティングしている」と警戒を隠さないほどだった。


もう一つ、長崎総大附属が徹底していたのがトレーニングだ。2月の九州新人戦会場を取材した帰り道、学校から7キロほど離れた道を走るサッカー部員の姿を見かけた。学校からの距離を考えれば、おそらく往復で15キロ弱走っている計算だ。国見・創成館といったライバルが他校と競っているとき、彼らもまた自身と競い合っていたのだ。

スカウティングを予測とすれば、トレーニングは準備である。その意味で、今大会の長崎総大附属は間違いなく、十分な予測と準備ができていたと言えるだろう。

圧倒的走力。それこそが今大会の長崎総大附属最大の武器だった。試合開始から走力を前面に出して相手を押し込み、そのまま得点を奪ってさらに攻め込んでいく。もともと児玉勇翔・別府史雅・竹田天満ら高い能力を持つ個がそろっているチームである。しかも彼らには「昨年の選手権県予選、新人戦と落としていた(竹田天満(長崎総大附属))」悔しさがある。今大会の彼らに一切の油断は感じられなかった。

初戦の口加戦を16対0、続く対馬戦を8対0、3回戦では優勝候補の一角で新人戦ベスト4の長崎南山に2対0。準々決勝でも県北最強校である佐世保実業を8対0。準決勝でも九州新人戦王者の国見に2対0。そして決勝では、日大の粘り強い守りに苦戦しながらも、中盤の底から竹田が冷静にボールを散らしながら機をうかがい、鋭い動きと得点力を持つ西岡紫音が先制ゴール。終わってみれば3対0と快勝し、大会を通じて、予測・準備・走力・気持ち、全てにおいて頭一つ抜けた強さを発揮した。優勝も妥当な結果と言えるだろう。

【夏に強い伝統を発揮した長崎日大】

準優勝の長崎日大は、シードながら初戦で海星・3回戦で鎮西と対戦するなど厳しいカードが続いたものの、しぶとい勝ち上がりで決勝へ進出。県高総体に強いという伝統を今年も発揮した。決勝戦でも前半から押し込んでくる長崎総大附属の攻撃を耐えきって、徐々にボールをつなぐなど、狙いどおりの展開に持ち込むうまさを見せた。準決勝の諫早商業戦で見せたようにこうちゃくした展開に持ち込み、右サイドバックの瀬崎耕平の攻め上がりからチャンスを作りたかったが、強豪との連戦だった疲労はやはり大きかった。それでも準優勝をいう結果が示したとおりチームの実力は高い。選手権の県予選でも必ず上位に進出してくるだろう。

【過渡期の国見と、諫早商業の手堅さ】

新人戦を制し、今大会でも周囲から優勝を期待された国見だが、現在のチーム状態は過渡期にあり、選手個々の調子も十分ではない面があった。それでも西海学園に3対0、諫早高校に5対0、島原商業に4対2と勝ち上がるあたり地力は高い。特に本川瑠空・中山葵ら攻撃陣には個で勝負できる選手がおり、準決勝もスタメン11名中6人を2年生で構成する層の厚さがあった。今大会の結果を踏まえて木藤健太監督がどういったチーム作りに舵を切るのか注目したい。

諫早商業は粘り強い戦いが目を引いた。決して戦力的に突出しているわけではなかったが、前線の森祐月をターゲットにしながら、守備では素早い寄せで簡単に攻撃させない手堅さを披露。準々決勝で優勝候補の一角だった創成館を破るだけのしたたかさも持っていた。鳥瀬太心・津島蓮音らの守備のカバーができる選手がおり、全体的に安定した強さを発揮していた。今年も県央の名門に相応しい力を身につけていると思う。

【CBに新戦力が見えた創成館、実力は高い南山・鎮西】

優勝候補の一角だった創成館は、中核となるメンバーがまだ固まりきっておらず、それがチーム力のムラとなってベスト8で終わった。その中で最大の収穫は、今大会からCBにコンバートされた西本準也で、空中戦の強さ・足下・フィードが光った。GKからコンバートされたばかりなため、経験不足や相手が足下に入ってきたときの対処に課題はあるが、今後が楽しみな逸材だ。GK永田健人も着実に成長しており選手権予選は期待が持てそう。


優勝した長崎総大附属と3回戦で激突したこともあって、早くに敗退した長崎南山は、終わってみれば大会中、最も長崎総大附属と接戦を演じている。準優勝した長崎日大に準々決勝でPK戦の末に敗れた鎮西学院とともに、本来の実力は間違いなく上位だろう。また準々決勝で長崎総大附属に大敗した佐世保実業も、そこまでは、着実に勝ち上がりを見せており今後の強化に注目したい。

コロナ禍によって会場非公表・無観客試合となった今大会だが、多くの関係者の尽力で無事に開催することができた。高体連・県サッカー協会・各校の努力に深く感謝をしたい。残念ながら九州総体はコロナ禍で中止となってしまったが、インターハイ本大会は開催される予定だ。そこで長崎県代表として、長崎総大附属が活躍することを期待しよう。

reported by 藤原裕久

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