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【アカデミーレポート】敗れざる強豪高2021:長崎日大~止まるのは褒めるとき。長崎日大が次へ向かうためのステップ~

県新人戦では初戦で長崎総大附属を倒してのベスト4、県高総体でも準優勝し「夏に強い」という伝統を守った。そして選手権県予選でもベスト4。普通に見れば十分な成績である。他校の関係者にもその実力を疑う者はいない。だが県選手権予選準決勝で長崎総大附属に敗れた直後、亀田陽司監督はこう試合を振り返った。

「完敗ですね。インターハイ(で長崎総大附属に敗れて)から差が詰まっていなかったなと。サッカーの本質・・長崎総大附属に比べてシュートで終わる、ゴールに向かう、そこのところでウチは線が細いというか、骨太じゃないと感じたと言うか」

確かに長崎総大附属との準決勝では相手の力強さが目立っていた。長崎日大にそれがあったかと言われれば難しい。だが、その中でも長崎日大らしいボールのつなぎや、崩しのアイデアは何度か見られた。何より選手権県大会での長崎日大は多くのレギュラーを故障で欠いていた。特にエース瀬崎耕平が故障でプレーできなかったという不運は大きかった。だが、そこについても亀田監督は「これだけ部員がいるのだから、それでもチームを仕上げるのが自分の役割」と言い、自戒を込めたようにこう続けた。

「どういうサッカーをやるかより、結局は戦うというところ。切り替えとかのベーシックな部分でどれだけ戦えるか」

ボールを動かし、主導権を握る攻撃的なサッカー。それが長崎日大の伝統的なスタイルである。ロングボールや徹底したハードなチェイシングが皆無というわけではないが、それはあくまでもオプションであり、基本のスタイルは、日大スタイルとも呼ばれる丁寧なボールのつなぎがベースだ。

今季の長崎日大もこの日大スタイルをベースにし、CBからボールをつなぎ、両サイドが積極的に攻め上がるチームだった。状況に応じて前線にターゲットを置くこともあり、相手が日大は足元で来ると思えば高さを使い、相手は高さを警戒すれば足元でボールを動かしていく。高村周太朗を中心とした守備にも安定感があったし、選手権県大会でも2年生の梅野雄大が得点力を発揮していた。確かに県選手権で力負けしたショックは大きいかもしれないが、長崎日大は弱いチームではなかったのだ。

そして、これら選手たちを伸ばすのが亀田監督の「褒める」指導スタイルである。

以前、長崎日大の取材をしているとき、トレーニング中に亀田監督が「おーい、みんなちょっと待て」と言って選手を止めるところを見た。これだけなら珍しいことではない。トレーニング中にミスが出たとき、その場でミスと認識させて繰り返させないようにするのは指導の常道である。だが次の言葉が意表をついた。

「今の●●のプレー、すごい良かった。試合であるシーンだぞ」

プレーを止めさせるのは、注意のためではなく褒めるときなのである。逆に注意するときはプレーを止めず「今のイージーだぞ」、「もっと意識しろ」と言うだけだ。もちろんミスを軽く流しているわけではない。集中してトレーニングをしているときにミスをした選手というのは、大抵の場合、自分でミスが出たこと、何をしくじったかを感じている。特に上を目指す選手は、次はどうすればミスをしないか考えているものだ。そんなときにプレーを止めてまでミスを指摘してもあまり意味はない。逆に良いプレーをしたときにプレーを止めて、そのイメージをチーム全体で共有させる方が何倍も効果的だ。

理不尽なほどの厳しさより、サッカーをする楽しさを。
ミスをしないサッカーではなくチャレンジをするサッカーを。

それが亀田日大であり、そういう楽しさを知っているからこそ、教えを受けた日大OBの多くが今もサッカーを続け、現在の県社会人チームで中心を担っているのだろう。

だが、ここ数年の長崎サッカー界は戦国期である。小嶺忠敏監督率いる長崎総合科学大学付属、新鋭の創成館、強者として復活しつつある国見、名門の島商・諫商、ライバルの鎮西・南山、着々と地力を増す佐世保実業・九州文化といった県北勢。この中で長崎日大がこれまで同様の強さを維持して勝ち抜くためには、さらに先へと進化しなければならない。選手権決勝後の亀田監督の弁は、それを感じたからこそだろう。

今年の選手権は故障者も多く、日大サッカー部にとっては悔しさの方が多い大会だったかもしれない。だが、そんな状態でもベスト4まで勝ち上がってきた彼らは決して弱くはない。そして選手権の決勝戦で感じた悔しさは、次の強さへ上がるための貴重なステップなのだ。

今回の経験を糧に日大スタイルがどう進化するのか、それがこれからの長崎日大のテーマである。あの大会があったから今がある・・数年後、サッカー部の関係者がそう言える日まで、亀田監督もサッカー部も歩みを止めないだろう。そして、目指すレベルにたどり着いたときに初めて立ち止まり、こう言って亀田監督は褒めるにちがいない。

「今の良かったぞー」

止まるのは褒めるとき。それが亀田日大のスタイルなのだから。

reported by 藤原裕久

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