長崎サッカーマガジン「ViSta」

【ViStaレポート】神崎大輔監督と鎮西学院大学サッカー部の挑戦(第1回)~たかが6人、されど6人からスタートする鎮西学院大学サッカー部の未来~

神崎大輔 鎮西学院大学サッカー部監督

それを見て、全体練習と思う人は多くないだろう。

12月某日、夜の諫早市『スポーツパークいさはや』の人工芝サッカー場。ピッチの半面だけを使用して彼らはトレーニングをしているが、実際に使用しているのはさらに半分、つまりフルコートの4分の1程度の広さだけである。

「こいつらに今、俺の持っている全部を教えてますよ(笑)。昔、スクールで4~5人の子供を教えていたときの経験が生きてますね。あのときのまんまですよ(笑)」

そう言って笑うのは、ヴァンフォーレ甲府やV・ファーレン長崎、ギラヴァンツ北九州でプレーし、現役引退後はV・ファーレン長崎強化部を経て、今年から鎮西学院大学サッカー部の監督に就任した神崎大輔監督である。

視線の先では鎮西学院大学サッカー部の1年生が、2対2や3対3でトレーニングを続けている。この日のトレーニングが4分の1サイズで十分なのは納得である。なぜなら神崎監督の率いるチームは、6人しか選手がいないのだ。


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2021年4月に監督就任したとき、神崎監督の下には十分な数の選手たちがいた。サッカー部の母体となったサークル時代からの部員たちだ。彼らは自らの手でゼロからチームを作り、2年前にサークルから部に昇格。大学名が長崎ウエスレヤン大から鎮西学院大へと改称した今年4月に大学の強化指定部となり、そこへ神崎監督が就任した。彼らと若干名の新一年生を融合させて、サッカー部を強化・発展させていこうというのが当初の方針だった。

そこへ向けての話し合いや説明は、事前にある程度はやってきていたが、実際に活動をしていく中で路線が2つに分かれるようになっていった。サッカー部をゼロから作ってきた部員たちからすれば、急速に進む部の変化には戸惑うことが多かったことだろう。一方で高校時代そのままに意気高くサッカーを続けたい部員もいる。夏場に取材に行ったときは、ちょうど選手同士が今後について話し合っているときで、その様子を見ながら神崎監督は「お互いに言いたいことを言って、話し合いをさせて、自分らでどうしたいかを決めさせます」と語っていた。その理由としては、路線が分かれる可能性を以前から考えていたことが大きい。

「できるだけ配慮はするつもりですけど、何かが変わるときは必ずこういうことが起こるだろうとは思っていました。常にそうなる方向を考えていたところもありますね。お互いに我慢してやっていくより、自分たちで話し合って決めた方が良い。だからお互い同士で話し合いをさせました」

数度に及ぶ話し合いの結果、サッカー部内は元からのサッカー部員たちと、上を目指してサッカーをやるつもりで入学してきた1年生6人のグループに分かれることになった。だが6人では試合はおろか、トレーニングも十分にできなくなる。1年生に対して、神崎監督はそのリスクやデメリットも話したというが、彼ら6人はそれでも上を目指したいという気持ちが強かったそうだ。

わずか6人のリスタート。
少しでも効果的にサッカーができるようにと、工夫の日々が始まった。社会人チームに参加させてもらったり、また別の社会人チームと合同で練習をさせてもらったりもした。

「あるとき『スポーツパークいさはや』の人工芝サッカー場で半面を借りて練習してたんですよ。そしたら残りの半面で練習していたのが大村市の社会人チーム『FC KOOL大村』さんで、「一緒にトレーニングしませんか」となって、その後も一緒にトレーニングさせてもらったりしています。他にもアリさん(有光亮太 九州文化学園サッカー部監督)の社会人チーム『Club Atletico CELESTE』さんで登録してもらって試合に出させてもらったり、いろんな人に助けられています。本当にありがたいですよ」

人数が少ないながらも協力者が多いせいだろうか、たった6人でも部員たちがトレーニングしているときの表情は明るく、充実しているように見える。

「来年はあいつらも大変ですよ。競争が待ってますからね」
神崎監督がそう言うとおり、来年の鎮西学院大学サッカー部は大変なことになる。現時点で、離島を含む県内外の有力校を中心に県外も含めて20名超の特待選手の加入が決まっているのだ。いずれも各校のレギュラーや主力級である。

今年1月の県新人戦にも神崎監督は選手をチェックしに各会場へ足を運んだ

「こちらから強く勧誘した選手は一人くらいですね。あとはありがたいことに、検討してくれないかって言ったら「来たい」って言ってくれたんです。こちらは話をするときに、来年はこういう子たちが入ってきて競争がすごくなると言っているんですけど、特に長崎出身の子は、高校に入る前に一緒にやっていた子も多いらしくて「あいつも来るんですか!」って逆に喜んでくれますね。そのぶん、今の1年生は危機感を持ってますよ。でもこないだ「今は週2のバイトを来年は週1にしなきゃ」って言ってて、「今からやれよ(笑)」って思いましたね」

そう語るときの神崎監督の表情はひときわ明るい。当然だろう、そうやって長崎サッカー界の力や可能性を結集させて長崎全体を盛り上げる『オール長崎』こそが、神崎監督が鎮西学院大学で最も実現したい夢なのである。そう言って笑う先にいるサッカー部の6人は、さしずめ『オール長崎』の土台となる6人だ。高校卒業後に高いレベルでプレーできる機会が少なく、中学卒業と同時に県外のチームへ進む子どもたちの流出が続くという長崎の現状を変えるという『オール長崎』の一期生というわけである。

取材したときの彼らはまだ練習着がないため、それぞれ自由な格好でトレーニングをしていたが、来年からはサッカーファンなら誰もが知るサッカーアパレルブランドが手掛けるのだという。年明けには、今年の関東大学リーグで優勝した流通経済大学などが参加するサッカーフェスティバルへの参加も打診されているそうだ。

「何とか試合できる人数をそろえてフェスティバルに参加したいですね。すごい良い経験になると思うし、こうやって声をかけてもらってありがたいですから。でも、それとは別に特待生のうまい子ばかりじゃなく、一般からもどんどん入部してきてほしいんですよね。初心者も歓迎です。今は部員が少ないんで、今回は特待をたくさん取りましたけど、次からは少なくなると思うんで、一般からもたくさん入部してほしい。ちゃんとサッカー教えますから大丈夫です(笑)」

そう言って神崎監督はまた笑った。どうも部員の数と充実感や楽しさ、夢の大きさは単純に比例するものではないらしい。確かにまだ彼らには何もない。だが何もないからこそ、彼らは何にでもなれるのだ。たった6人、されど6人。神崎大輔監督と鎮西学院大学サッカー部の『オール長崎』への冒険はようやく始まったばかりである。

(神崎大輔監督と鎮西学院大学サッカー部の挑戦(第1回) 了)

*第2回は有料記事の予定です。

reported by 藤原裕久

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