長崎サッカーマガジン「ViSta」

【コラム】高校サッカーの名将、小嶺忠敏さんの訃報に寄せて

2022年1月7日、高校サッカーの名将として知られる小嶺忠敏さんが亡くなった。

ここ数年の小嶺忠敏さんは、昔に比べてずいぶんと痩せ、声も細くなっていた。その間に極秘で手術をしたという話も聞いていたし、一昨年くらいからはスタッフやサッカー部の生徒が傍らに付いていることも増え、誰の目から見ても体力的な限界が近づいている・・そう思わせる状態が続いていた。特に2021年の選手権予選長崎県決勝の後からは会うたびに一回り痩せられていて、「先生、大丈夫ですかね」と地元の取材者や他校の関係者と話すことが常となっていた。いつ体力の限界のために現場を去ってもおかしくはない。誰もがそう思っていたはずだ。同時にそう思いながらも、往年のパワフルさを知る人は皆、まだ大丈夫なのではないかと考えてもいた。

そんな心配がごく近い未来に訪れると知らされたのは2021年最後の日である大晦日、小嶺忠敏さんが入院されている病院にご家族が呼ばれたという話だった。教え子の中で特にかわいがられた大久保嘉人さんも、先生の容体が相当に悪いとは知っていたそうだが、それ以上は何も聞いていなかったというから、おそらくご親族以外は、長崎総大附属高校サッカー部の関係者しか本当の状態を知らなかっただろう。

そんな中で1月2日に長崎総大附属は選手権の3回戦を戦い、敗れはしたがベスト16という歴代の成績と比べても遜色のない結果を残した。翌3日には、元教え子である国見高校のサッカー部OBたちが、現役を引退した大久保嘉人さんをねぎらうために遊学の里に集まって、お疲れサッカー会で旧交を温めていた。それは例年と大きくは変わらない年始の光景のはずだったが、同時にいつもと違う年始になるのではとも誰もが感じていたのだと思う。

そして正月を終え、皆が日常に戻った1月7日にその日が来た。

訃報の第一報は、長く全国高校サッカー選手権の中継を手掛けてきた長崎国際テレビ(NIB)だった。年末からサッカー部に迷惑をかけないようにずっと情報を抑えるなど、精一杯の配慮をした上での報道である。個人的に、高校サッカーと小嶺忠敏さんを最も身近に取材をしてきたNIBと長崎新聞のどちらかに一報を任せたいと思っていたので、第一報を聞いたとき、最初に感じたのはこれで良かったのだという安堵感だった。次の瞬間、何とも言えない喪失感と寂しさを感じた。

思い起こせば、私の高校サッカーに関する記憶にはどこかに必ず小嶺忠敏さんの存在があった。別記事に書いたが、小嶺忠敏さんとはいろんな立場で関わらせてもらい、いろんな思いも持っていたが、それらがごちゃ混ぜになった揚げ句、最後に残ったのが喪失感と寂しさだった。やはりその存在感は大きかったのだ。

2021年12月18日のプリンスリーグ参入戦がベンチ入りした最後の公式戦となった

「生涯を閉じるまで全力を尽くす。そういう姿が子どもたちの人生にとって大きな教育になるんじゃないかと思っているんです。僕はそういう教育者でありたい」

亡くなる約1カ月前の取材で語ったこの言葉は、そのまま覚悟の表われであり、小嶺忠敏さんの願いだったのだろうか。この言葉を語ってから2週間後のプリンスリーグ参入戦で、試合前にあいさつをしたのが、生前の小嶺忠敏さんと話をした最後であり、試合後にコーチとご家族に付き添われながら、駐車場まで歩く姿を見たのが監督として見た最後の姿となった。

小嶺忠敏さんが亡くなった翌日、国見高校は鹿児島実業高校と練習試合だった。鹿実と言えば、小嶺忠敏さんのライバルであり友人であり、ともに地酒を酌み交わしながら九州サッカーの発展を語り合った、故松澤隆司さんが指揮を執った国見最大のライバルにして盟友校だ。

長崎と鹿児島2人の名将は酒を飲み交わしながら、教え子が率いるチームを見たろうか。いや小嶺忠敏さんは、来週末から開幕する長崎県新人戦を戦う長崎総大附属高校サッカー部を見ているだろうか。それとも、落ち着いた今ようやく家族のそばにいるのだろうか。

「何でサッカーにこんなに夢中なのか?わからんねぇ。わからん。難しいこと聞くな、おい(笑)。そうだねぇ、考えて考えて、こいつは駄目だなと思いながらも指導した生徒たちが頑張って、それで俺が驚くようなプレーをしてね。それで勝ったときの嬉しさね。これが実に良いんですな。優勝でもしたら、そりゃもう最高だ。まぁー、それをいっぺん経験したら忘れられるもんじゃない。でもね、そう思うのは一晩だけ。一晩寝たらね、また勝つにはどうすれば良いかなって考える。もう1回、勝ったときの気持ちを味わいたい。それを繰り返して、この年までだよ(笑)」

以前に取材したとき、そう言って笑っていた顔が今も思い出される。

そして、同じように毎年選手権の時期になると、多くの人が在りし日の名将を思い出すのだろう。

不世出の名将、小嶺忠敏さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

reported by 藤原裕久

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