長崎サッカーマガジン「ViSta」

【コラム】普段から平和を謳うクラブだから。「激しいけれど、フェアで相手をリスペクトしたプレーを見せて、勝利を届けて、見た方の心が晴れ晴れとなってくれれば(松田監督)」

サッカーを早くから知って、好きになって良かったことの一つに、世界を意識できたというのがある。サッカーを通じて世界中の色んな国に行き、いろんな国の事を知った。世界中のローカル都市の名前をサッカーを通じて覚えたなんて人もサッカーファンには多いかもしれない。キエフという名前を私が知ったのはFCディナモ・キエフを通じてだ。モスクワと聞いて最初に思い浮かぶのは「スパルタク・モスクワ」だったりする。

現在、世界を取り巻く情勢に陰鬱な気分の方も多いと思う。どちらがどうとか関係なくやるせない話題である。正直、サッカーライターがこういった話題を取り上げるのはどうかという気分もあった。一番無難なのはスルーすることだ。そうすれば安全だ。そうすることも考えながらSNSを見ていたとき、ある長崎サポーターの「映像を見て心が沈む」「憂鬱な気分になる」という投稿を見て、ライターの自分に何かできることはないか、こういうときにサッカーライターができる発信とは何だろうかと考えた。

クラブは平和について常に発信してきた。(画像は昨年7月の原爆資料館を訪問したときのもの)

たまたま今日はクラブのオンライン囲み取材の日だった。試合前のオンライン質問は一人三問までと質問数が限られる。この話題を聞けば他に質問したいことが一つ減る。ライターとしてそれは痛いが、普段あれだけ平和を謳っているクラブを取材している者が、こういうときに沈黙していてはいけないと思い、松田浩監督に質問することにした。

「少しサッカーの話と逸れてしまうかもしれない重い話題になるんですけど・・、普段から平和を意識している長崎サポーターの中には、現在のネガティブな世界の状況に心を痛めて落ち込んでいる方も多いと思います。そんな人にたちにこの週末どんな試合を届けたいと思いますか」

国名を挙げず、直接の話題に言及しなかったのは、松田監督を巻き込むような後ろめたさもあったからだ。松田監督は質問を聞いて「大きな話題ですね」と少し笑ってこう答えてくれた。

「僕自身もこの情勢はあまり気持ちの良いものではないですね。人は最悪のシナリオを考えてしまうことがあって、それが心の方に影響を及ぼしてしまうことがある。ちょっとわれわれの感覚と違うことがおこっている残念な状況ですよね。われわれは常にサッカーで競い合っているんですが、人を傷つけたり姑息な手段はしたくないと思っています。だから激しいけれど、フェアで相手をリスペクトしたプレーを見せて、勝利を届けて、見た方の心が晴れ晴れとなってくれれば、こういう仕事をしている身としてはとてもうれしいです。そういう姿勢で週末の試合に臨みたいと思いますし、力になれればなと思っています」

誰かを攻撃することなく、誰かを良い悪いと言うことなく、サッカー人としてできること、見せたいことを松田監督はそう語った。

 

サッカーというスポーツに限らず、エンターテイメントは全て平和な世界を土台に成り立っている。「娯楽」とは人の心を楽しませ慰めるものである。陰鬱な話題に心が疲れた方は、ぜひ週末にスタジアムに足を運んでほしい。そこではきっとたくさんのアスリートが素晴らしいプレーで心を支えてくれるはずだ。そしてあらためてネガティブなことに負けず、堂々とスポーツを愛し、発信していこうではないか。

reported by 藤原裕久

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