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【アカデミーレポート】昨年末の前橋育英ショックを超えて、V・ファーレン長崎が目指す次のステージ

昨年、初の九州プリンスリーグ優勝を達成したV・ファーレン長崎U-18。年末のプレミアリーグ参入戦では昇格こそ逃したものの、創設10年目で九州王者となり、高校年代最高峰のリーグまであと一歩と迫る快挙を達成した。

だが、今年もU-18を率いることになった原田武男監督は、参入戦について「あと一歩と考えることもできるとは思いますけど、僕はまだ大きな差があると感じました」とシビアに振り返る。参入戦でのU-18は、前橋育英高の前に個やチームとしてのタフさで力を見せつけられるシーンが多かった。自分たちのスタイルをほとんど出せずに力負けするという完敗に、チームは大きな衝撃を受けることになった。

昨年末のプレミアリーグ参入プレーオフでU-18は前橋育英に完敗

だがシーズン最後の公式戦で、過去に経験したことのない完敗を喫したことで、次に取り組むことが明確にもなったようだ。

「何が必要なのかを教えてくれた場所」

『前橋育英ショック』とでも言うべき、昨年末の完敗についてそう語る原田監督とU-18は今、『次のステージへ行くために足りないもの』の獲得に取り組んでいる。

まず取り組んだのが個の部分で、最もベースとなるフィジカル面の強化だ。

「今年は始動から筋トレは多めですね。トレーニングに入るときのアップも、今までのような準備運動としてのアップではなく、負荷をかけながらのアップにしていこうと考えています。」

前橋育英戦でのU-18は全体的に競り合いや球際で後手に回ることが多かく、チャンスシーンを潰され、ピンチのシーンでは相手にこじ開けられてしまうことが多かった。プリンスリーグでは感じなかったフィジカルの差が試合の局面を大きく左右したのである。そこを克服しよう、差を減らそうという取り組みだ。だが毎日のトレーニングの中では、筋トレだけに多くの時間を割くことはできない。ならば日頃から負荷を高めて、カバーしていこうという算段である。

当然、取り組むのは個の部分だけではない。去年からのストロングであった守備の部分に取り組むことからスタートした新チームは、2月末頃から攻撃のトレーニングに移行し、現在は攻撃のバリエーションを増やすことに取り組んでいる。16日のトレーニングでもボールを動かす部分、前にボールを運ぶ部分、ビルドアップの判断や意識を高めることに力を注いでいた。昨年末の前橋育英戦で感じた攻撃のオプション不足を受けての取り組みである。

U-18で県リーグ1部・2部・プリンスリーグ九州と戦った全てのカテゴリを制覇してきている原田監督

「昨年までずっとやってきたベースの継続をやりつつ、攻守でのアクションをこちらから起こすことで、足りない部分をカバーしていこうと考えています(原田監督)」

現トップチームの松田浩監督が作ったアカデミーのベースを継続しながら、プラスアルファを加えていこうという試みだ。攻守のバランスを崩さずにプラスアルファを加えていくことは難度が高いものだが、それでも踏み切ったのは、前橋育英ショックもあるがU-18のチーム事情も背景にはある。

昨年の基本的なスタメン11名の半数以上が卒業し、今年最上級生として主軸を担うと思われた安部大晴がトップ昇格したのだ。そのため今年のチームは、「単純な戦力では昨年の方が高い(原田監督)」状態だという。ボランチに至っては、昨年の主力2人(姫野晃竜・安部)が一気にいなくなってしまった。

エース候補だった安倍大晴はプロ契約でトップチーム優先が基本方針

このあたりについて、原田監督は「昨年のボランチは、攻撃を(安部)大晴、(姫野)晃竜が守備という形が多かったんですが、今年はどの選手も攻守両方をカバーして、両方のつなぎ役をやってもらわなければ」と考えているという。そこで期待しているのがチーム内の競争だ。

今年の新1年生は能力的にも戦術理解力の面でも好選手が多く加入してくると言われており、新2年生にもトップチームに2種登録された古田東也や七牟禮蒼杜、U-15時に年代別代表キャンプに参加した宮崎圭伸など楽しみな選手が多い。今後のチーム内競争次第で大きな伸びしろがある世代なのだ。

一方で気になるのが、昇格のかかったような大一番などで、安部がU-18に復帰する可能性だ。登録自体は残っているのでU-18でも出場は可能なようだが、原田監督は攻守でのアクションをこちらから起こす、攻撃のオプションを増やすことで安部の不在をカバーする考えのようだ。「大一番のときに彼の復帰を待つのではなく、彼を呼ばずに戦えるチームにしたい」という。

たしかにトレーニングを取財した限り、安部不在の不安は感じられなかった。攻撃のチャレンジについても、ボールを動かすときの立ち位置や、動き出しについて選手同士で活発に話すシーンも以前より増えていた。このあたり、創設して11年目を迎えるU-18にとって、新しいステージへ向かうチャレンジは上々の滑り出しというところだろうか。

「どのポジションでも、ここからまだまだ選手を見極める必要がありますし、新たに入って来る新一年生についても、力があると判断すればどんどん使うつもりです。競争の中で残る選手、調子の良い選手を使っていきたいし、学年とか関係なく、良い競争ができる環境を作りたい。」

間もなく新1年生が加わり、4月には連覇を狙うプリンスリーグも開幕する。いよいよU-18の新シーズンが本格スタートとなる。プリンスリーグ連覇、そしてさらに先のステージへ。今年も彼らの活躍を祈りたい。

reported by 藤原裕久

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