ニイガタフットボールプレス

【レディース】上尾野辺めぐみ選手が語る新潟と女子サッカー「みんなでゴールを、勝利を目指す。それが楽しいんです」

この街で、もっともっとサッカーを楽しむために――。ニイガタフットボールプレスがお届けする「ニイガタフットボール夜話(やわ)」。その第三夜に、アルビレックス新潟レディースの上尾野辺めぐみ選手にゲスト出演していただきました。14シーズン目となる新潟でサッカーをプレーする喜びややりがい、現在のチームについて……たっぷりお話をうかがいました。

■たくさん試合に出たいのに

――今回、上尾野辺めぐみ選手に来ていただいたのは、8月3日に行われるニイガタ・フットボール映画祭で上映される3作品のうち、『ピッチの上の女たち』というフランス映画が女子サッカーの物語であること、そして『蹴る』が電動車椅子サッカーのワールドカップを目指すドキュメントで、上尾野辺選手には難聴のチームメートとサッカーをした経験があることが大きな理由です。

何よりこの街でプレーし続け、世界の頂点にも立った、まさにニイガタフットボールの象徴的存在。アルビレックス新潟レディースは、何年目になりますか?

「14年目です。最初、新潟に来たときは、ここにいるのは1、2年かな、と思っていたんです(笑)。とにかく、寒さが辛くて。でも、本当に新潟の街並みだったり、人の温かさ、サポーターのみなさんの中でサッカーをやることの充実感ですよね。気がついたら、あっという間に今になっていたという感じです。

新潟のみなさんの温かさは、試合会場、練習場はもちろん、普段、街を歩いているときも励ましや応援の声を掛けてくださる。そういうのは正直、関東ではなかなか味わえないうれしさですよね」

――サッカーをする環境として、新潟はいかがですか。

「練習場もしっかりしているし、クラブハウスの施設も充実しているし、加入した当初から女子サッカーの中でトップレベルだと思います」

――サッカーを始めたきっかけは?

「幼稚園の年長から始めたんですけど、もともと体を動かすのが好きで。それで男の子と一緒に、最初は男の子のチームに混ざってサッカーをやっていました」

――サッカーの一番の魅力は。

「当時はゴールを決めることでしたね」

――当時は、というより、当時から?

「今も魅力ではあります(笑)。でも今は、もちろんゴールすればうれしいですけど、みんなで力を合わせてゴール、勝利を目指すというところ、そこがサッカーをやっていて楽しいところです。子どものころは何も考えず、ただ点を取ろうとするばかりでしたけど」

――途中までは混合チームでのプレーだったのが、女子チームに移ったのはいつごろですか?

「小学校3年生くらいですね。今は当たり前なんでしょうけど、当時は男子の中に女子が混ざってサッカーをするというのが本当に少なくて。サッカーをやる難しさは全くなかったんですけど、女子は大会に出られなかったんですよ。合宿にも自分だけ参加できないし、練習試合しか出られない。たくさん試合に出たいのに。それが悔しいというか。そういうときに女子サッカーチームから声を掛けていただいて、移らせていただきました」

――移ったチームは。

「林間SCレモンズという女子チームで、私は横浜出身なんですけど、チームが活動する大和市まで通っていました」

――そしてチームメートに、難聴の佐藤愛花さんがいらっしゃったんですね。

「補聴器を付けないと私たちとの会話を聞きづらいというのもあったんですけど、本当にそんなことは関係なく、いつも元気で明るくみんなと話をしていたし、一緒にサッカーをしていました。障がいを何かの理由にすることは、全くなかったですね」

――佐藤愛花さんのポジションは?

「ゴールキーパーでした。すごく反応が良くて、耳が聞こえづらい難しさはあったと思うんですけど、しっかり指示も出していて。とてもクレバーなキーパーでした」

――みんなでプレーする上で、工夫が必要だったと思います。

「私たちが手話をしながら、というのはさすがに難しかったですけど、ジェスチャーを駆使したり、話すにしてもできる限りゆっくり、口を大きく開けてコミュニケーションを取っていました。でもプレーに夢中になると、どうしても早口になっちゃうんですけど(苦笑)」

――レモンズでの一番の思い出は?

「6年生のときに、(静岡市)清水である草サッカー大会に優勝したことです。全国大会で優勝するというのは、なかなか経験できないですから、本当に嬉しかったですね」

■奥山監督は少し優しくなりました(笑)

――時計の針をグッと進めて、新潟Lでプレーする2011年、女子ワールドカップで優勝。世界の頂点に立ちました。

「ドイツのワールドカップのときは、正直、自分がそこにいるのが不思議な感覚がありました。すごい雰囲気、すごい大会であるのはよく分かったんですけど、優勝の実感が湧いてきたのは、ずっと後になってからです。私自身は、なかなか試合に出られませんでしたが、こんなにレベルの高いサッカーがあるんだ、と。日本では味わえないものを体験して、でも優勝メンバーに自分が含まれているのはちょっと信じられなくて、日本に帰ってきてみんなからおめでとうという声を掛けてもらって、ようやく優勝したんだな、と感じました」

――もっと広い世界で戦いたい、という気持ちが湧いてきたのでは。

「世界で戦うこともそうだし、何よりワールドカップでなかなか試合に出られなかった悔しさが強くて、もっとやってやるという思いになりました」

――そのための選択肢もいろいろあったと思います。新潟以外で、という選択、可能性も。

「何回もありました(笑)」

――何回も!

「だけどこれまでを振り返ると、アルビレディースで最もタイトルに近づけたのは皇后杯で、でも決勝まで行って勝てなかったとき、このチームで優勝したい、という思いが一番で。正直、それが何回もあります」

――皇后杯は、これまで準優勝4回です(2011年、13年、15年、16年)。

「そして、今に至ります」

――2011年の皇后杯で準優勝をしたときにチームを率いていた奥山達之監督が、7年ぶりにアルビレックス新潟レディースの監督として復帰されました。上尾野辺選手を、来年の東京オリンピックの女子日本代表にすると意気込んでいらっしゃいますよ。

「初めて聞きました(笑)。頑張ります」

――以前の奥山監督を知っている上尾野辺選手だからこそ、変わらないところ、変わったところ、両方が分かるのでは。

「相変わらず、練習はしんどいです(苦笑)量のところもそうだし、頭を使ってサッカーをするところも。私自身そうだし、チームのみんなが、すごく良い経験ができていると思います。

でも、少し優しくなりました(笑)。例えば走りのメニューで、これまでは『まだ走るの?』というくらい走っていたのが、今はギリギリ、何とか頑張れる、という範囲で」

■月曜の日テレ・ベレーザ戦は大事な試合

――チームは7月15日(月・祝)に、2019プレナスなでしこリーグカップ1部10節、日テレ・ベレーザ戦を戦います(新発田市五十公野陸上公園競技場、16時半キックオフ)。予選リーグの最終節で、現在、新潟LはAグループ3位。準決勝に勝ち上がるためには2位のノジマステラ神奈川相模原が敗れ、ベレーザに複数得点差を付けて勝利することが必要です。

「確かに予選突破は他力なんですけど、でも可能性はゼロではない。いずれにしても、勝利を目指して戦うだけです。それが、さらに先にもつながっていきますし、モチベーションを下げずに戦っていければ。

試合を重ねるごとに連係も深まっていますし、やりたいサッカーを発揮できています。前節は長野と引き分けてしまいましたが(予選9節△2-2)、勝ち切る強さを付けたいですね。そうすることが、9月に再開されるリーグ戦にもつながるし、しっかりとチームで追及していきます」

――今シーズン、新たに加わった選手たちも、しっかり持ち味や特徴を発揮し始めていますね。

「リーグの最初は緊張や不慣れなところもあったと思います。それが経験を重ねて、本当に戦力になってくれています。あとは、さらに経験をしながら結果を伴わせるだけだし、自然にそういう流れになっていくとも思います。本当に楽しみです」

――男子もそうですが、一体感を出したときのアルビレックスは力を発揮しますからね。レディースの強み、武器でもある。

「チームの一体感は、本当に自分たちの強みなので。見ているみなさんに、それを感じていただければ、私たちもそれがやりがいになります」

――そして、このチームで優勝を果たす、と。

「そうですね」

――それも二度、三度と。

「うーん、そこは年齢が……(苦笑)」

――まずは奥山監督の胴上げですね。今、奥山監督が作ろうとしているチームは、どういう特徴がありますか。

「一体感はもちろんですけど、奥山さんのサッカーで大事になるのは、味方をどれだけ助けられるか。それはボールを持っている人がどうこうというよりも、いかにカバーするため、サポートのために走れているか。そこがおろそかになっていると、厳しく指摘されます。攻撃も守備も、みんなが助け合うことで、結果的に一人一人の良さが引き出されることにもつながっていると思います」

――僕は東京の出版社を辞め、フリーランスのライターとなって新潟に移住して11年目になるんですけど、新潟で男子チームを日々、追いかけるということは、自然に女子チームにも接する機会が増えて。で、こちらに来たばかりのころ、上尾野辺選手が練習で蹴るCKを目の当たりにして、「何と素晴らしいボールを蹴るんだろう」と感動したのを今でもよく覚えています。

その感動はウソではなかったし、でも同時に「サッカーは男子のもの」という偏見につながりかねないところがあったかもしれません。もちろんそんな消極的な見方はすぐに消し飛んで、レディースのサッカーに対する尊敬の念がすぐに湧いてきましたが。

「男子と比較してどうこう言うつもりはないんですけど、でも正直、スピードやフィジカル面では劣ってしまいます。一発で逆サイドに蹴ったりとかは、難しい。だから、それを補うための連係だったり、しっかりボールをつないで展開する、みんなでボールを運んでゴールを決める。そういうところは、女子サッカーならではと思います」

――上尾野辺選手がボールに触るとき、スーパープレーは約束されたようなものですからね。リーグ6節ノジマ戦(○1-0)のジャンピングボレーは、マジでビビりました(客席から「キャプつばでした!」の声)。キャプテン翼的であり、映画『マトリックス』的であり。空中で止まりましたからね、上尾野辺選手。しかも、背後からのボールを頭で合わせるより、ボレーの方が簡単だった、と。

「そうなんです(笑)。難しいボールの方が、けっこう決めやすいんですよ。決めて当たり前、みたいな場面の方が、逆に絶対に外せないし、慎重になり過ぎて難しい」

――素晴らしい個人技、チームワークが見られるアルビレックス新潟レディースの試合に、より多くのみなさんにぜひ足を運んでいただきたいです。まずは来週月曜、16時半キックオフの日テレ・ベレーザ戦ですね。

「今日は本当に短い時間でしたが、ありがとうございました。リーグカップは厳しい状況ではありますが、全力で勝利を目指しますし、チームとしてもっと強くなるためにもとても大事な一戦です。ぜひ、新発田市五十公野陸上公園競技場まで、応援に来てください。みなさんの声援が、それだけ私たちに力になります。アルビレックス新潟レディースの応援を、よろしくお願いします」

[プロフィール]かみおのべ・めぐみ/MF、1986年3月15日生まれ、神奈川県出身。原FC、林間SCレモンズ、大和シルフィード、武蔵丘短期大学を経て、2006年、新潟Lに加入。抜群の技術とセンス、リーダーシップを備えたレフティーで、FW、攻撃的MF、ボランチと複数のポジションでプレーし、チームを勝利に導く。女子日本代表として2010年アジア競技大会優勝、2011年FIFA女子ワールドカップ優勝、2014年AFC女子アジアカップ優勝。

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