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【頼もう、感想戦!feat.小川佳純】~明治安田J2第9節・栃木戦~vol.1「もう少しポジショニングの工夫が必要だと感じました」

ピックアップしたゲームを選りすぐりの論客と語り尽くす、この企画。今回は第9節・栃木戦を、小川佳純さんと語り尽くします。9試合目にして、初めて無得点に終わった栃木戦。チームが次の段階に進むための、ズミさんの提案とは?

■1を積み上げた新潟、2を落とした栃木

――今シーズン、初めて無得点に終わり、スコアレスドローとなった第9節の栃木戦。まず、全体の感想から聞かせていただけますか?

「ゲーム展開としては栃木のゲームプランで進んだのかな、と思います。ボール保持率は新潟の方が高かったですが、ボールを持たされている感が否めなかった。新潟からすれば、後ろからボールを回しながら前に運ぶという、自分たちのやりたいことがあまりできませんでしたね。

後ろでしっかり回そうという意識はあるんだけれど、結局、ロングボールを蹴ることになりがちで。そして前線にはファビオがおらず、ペドロ・マンジーと(渡邉)新太のところに放り込まざるを得ない状況に、栃木に持っていかれた。やりづらさを感じながらの試合だったんじゃないでしょうか」

――対新潟というところで、栃木にうまく試合を運ばれましたね。

「栃木戦もそうなんですけど、新潟は回すときに後ろに人数が多いと感じるんですよ。それで、2トップが孤立気味で。ボールを回すときのバランスが、2トップと後ろの8人みたいな感じに偏っていると思います。

新潟のCBがボールを持ったとき、縦パスのコースが少ないから、そこに栃木の2トップも勢いを持ってプレッシャーを掛けてきていました。相手ボランチも新潟のボランチにどんどん来ていた。その間にサイドハーフがポジションを取るとか、ボランチの1人が前に出て縦関係になるとか、相手ボランチがケアせざるを得ないようなところでパスを受けようとする選手がもう少しいたら、栃木の前の選手も『このままボールに行っていいのかな?』と迷ったんじゃないでしょうか。

栃木が、新潟の戦い方を相当、研究していたと思います。マウロやゴンサロ(・ゴンザレス)がボールを持ったときのプレッシャーの掛け方に、かなり統一感があった。

栃木のプレスに対して、新潟はビルドアップの中で効果的な縦パスとか、サイドチェンジが少なくて、ボールの出し入れはするんだけれど窮屈そうだし、結局は栃木のプレスの勢いを削ぐことができず、まともに受ける形になっていました。栃木からすれば、狙いをすごく出せた試合だったと思います」

――栃木のプレスは非常に強烈でしたが、取り分け矢野貴章選手ですよね。ポストプレーでも、非常に厄介な存在でした。

「貴章、効いてましたねえ。すばらしかった。栃木のスタイルに合っていますね」

――本当にそう感じました。

「栃木にとって、とてもいい補強になりましたね」

――貴章選手と2トップを組んだ明本孝浩選手や、2列目の森俊貴選手といった若い選手が、一瞬、『貴章選手?』と見間違えるような強烈なプレスの掛け方だったり、裏への抜け出しを見せていて。とにかく勢いがすごかった。

「栃木の攻撃は高い位置でボールを奪ってカウンターか、自陣から貴章のところにアバウトなボールを入れるかの二つ。そして、貴章が高い確率で競り勝つから、周りも信頼してセカンドボールを拾おうと反応できていましたね。明本選手とか、周りの動ける選手たちが。

新潟も前からプレスに行ってはいたけれど、それをロングボールで越されて貴章のところにボールを入れられ、結局、ディフェンスラインだけで対応しなきゃいけなくなっていた。セカンドボールも相手の方が拾えていたから、栃木は手応えがあったと思います。チャンスも栃木の方が多かったし。

新潟からすれば、攻めまくって、チャンスもいっぱい作ったけれど、決め切れなくて引き分けたというより、アウェイで、うまくいかないなあ、という中での引き分け。ピッチも水がまかれていなくてボールが走らなかっただろうし。勝点1でしょうがないかな、という試合だったのでは。それに対して、栃木は勝点2を落としちゃったな、という受け取り方の差がある試合だったかもしれないですね」

――42試合中にはいろいろな試合がありますし。

「中3日とはいえ、連戦でもあったし、体が重そうな選手もいました。逆に貴章は前節、スタメンじゃないですよね? それもあって、コンディションがいいのかな、と見ていて感じました。90分、最後まで動けていたし。栃木の方がフィジカルコンディション的にもうまく持っていけていた印象です」

■大阪からコーチング!?

――今季の新潟はつなごうとしますから、相手は前からどんどんプレッシャーを掛けてきます。栃木戦では、それを回避しようと長いボールを蹴ってもはね返され、拾われ、さらに長いボールを蹴り返されて、貴章選手に当てられて展開されるという悪循環でした。

「貴章のところで競り合う場面に関しては、システムというか、戦術的な対応が必要です。相手にロングボールをまったく蹴らせないというのは、不可能だから。

で、ロングボールを蹴られたとき、もちろん状況によってはCBが競る場面もあるけれど、その前にゴンサロを常に置いて、彼に競らせる。そうすれば、競り負けても後ろにCB2人がいるし、そこの三角形があればセカンドボールも拾えると思います。ボールにどう競りに行くかを工夫すれば、ロングボールには対応できると思います。

気になるのは、ボールの動かし方ですね。栃木戦も後ろでボールを回してはいるんですよ。GKを使いながら。それで、3分の1からちょっとは進めるんですけど、そこから先にどう持っていくか。ゾーン2止まり、というか。

前から感じていたんですけど、ビルドアップのときに後ろに人が多すぎるんです。ボランチの2人、島田(譲)くんとゴンサロとか、(秋山)裕紀とゴンサロとかのコンビの場合、後ろで回すのはゴンサロに任せて、もう一人のボランチは前に行く。もう少し前に人数を掛けないと、なかなかチャンスにならないと思います。

栃木戦でもサイドからボールを運んでクロスを上げても、中はマンジーと新太だけということが少なくなかった。相手のサイドバックが新潟のクロスを上げる選手に対応したとしても、ゴール前にはDF3人とボランチ2人の5人がいて、こちらは2人だけ。そういう状況でクロスを上げても、なかなかチャンスにはならないですよね。

攻撃に厚みを出すためにも、もう少し中盤の真ん中の選手が関わっていく必要があるんじゃないかな。今のままだと、攻撃がちょっと手薄な印象です」

――ボランチの1人が攻撃参加してほしい、と。

「後半は大本(祐槻)くんが右サイドバックに入って、サイドハーフといっていいくらい、高い位置を取って、ゴンサロを落として3バックみたいな形で回すようになった。それでだいぶ状況は変わったと思います。3人と、その前のもう1人のボランチの『3-1』の形でボールを回せるから。それで左の(本間)至恩と大本くんが両サイドに張って、(新井)直人が気を利かせて中にポジションを取って間でボールを受けたり」

――はいはい、そうでした。

「あれは俺のアドバイスなんですけどね」

――何ですか、そのとっておきのエピソード、みたいなのは。

「今でも俺は、けっこう新潟の若い選手たちとはLINEでやり取りしているんですよ」

――おおっ、そうなんですね!

「遠隔操作しています(笑)。『お前、もうちょっとこうした方がいいよ』、みたいなメッセージを送って」

――まさかの大阪からのコーチング!

「直人も、『左サイドに回って至恩と組むとき、どうしたらいいですか?』とか聞いてくる。直人とは、去年も練習試合で一緒にやってるときに、『いつ、中にポジションを取るか』『外に取るか』という話をよくしていたんですよ。あいつも、『それを思い出しながら、今、やってます』と言ってました。

その辺りのポジショニングに関して、アルベルト監督は、あまり細かく言わないみたいですね。そこは自分で考えてやっていい、という。

だったら、至恩には外にポジションを取らせて、直人は思い切ってインサイドハーフくらいのところまで行ってもいいんじゃない? といったことを伝えています。

特に後ろでゴンサロが落ちて、舞行龍、マウロの3枚になったときは、至恩が中に入るのもありだし、そのときは直人が外を取ればいい。至恩が外に張っているんだったら、直人はボランチとかインサイドハーフくらいにポジションを取って、そこでボールを受けられれば一番いいよ、みたいな話をしています。

中島(元彦)くんも中でボールを受けられるし。そういうイメージで『3-1』になれると、前にかなり人数を掛けられるはずです」

――3-1の効果を、もう少し説明していただけますか?

「後ろからビルドアップするとき、ボランチの1人がCB二人の間に落ちて3枚になって、もう1人のボランチが前にいますよね。それで、『3-1』になる。

新潟は、基本的に4-4-2じゃないですか。4-2-2-2というか。この形のままだと、相手は守備をしやすいんです。栃木がそうでしたが、真ん中を締めてボールを外に追いやればいいし、中を締めた状態でCBのところ、特にマウロにプレッシャーを掛ければロングボールを蹴るだろうし。そういうスカウティングだったと思います。

相手の2トップがこちらのCBにプレッシャーを掛けてくるのに対して、ボランチ2人が同じ高さのままボールを回そうとしても、相手は守りやすい。向こうのボランチが、こちらのボランチにプレッシャーを掛けやすいですから。そこでボランチの1人が落ちて『3-1』になって、さらにこちらの中盤のサイドの選手が中にポジションを取れば、相手の2トップは4対2の状況でプレッシャーを掛けに来なきゃいけなくなるし、相手ボランチは絞ってきている選手をケアしなきゃいけないから、『3-1』の『1』に強く来れなくなる。

後半、3枚替えしてから新潟のペースになったのは、サイドの中島くんや至恩が中にポジションを取るようになって、『3-1』の『1』、アンカー的なポジションを取る島田くんへのプレッシャーが弱まり、彼が前を向いてボールを持てるようにことが大きいと思います」

――全体で高い位置を取れるようにもなりました。

「栃木の体力が落ちた面もあると思います。それで、ようやく新潟のペースになったし、試合の終盤にペースが握れたかな、と。ボールを動かすときのポジショニングは、もう少し工夫するといいんじゃないかな、と思って試合を見ていました」

(つづく)

【プロフィール】小川佳純(おがわ・よしずみ)/1984年8月25日生まれ、東京都出身。現役時代はサイドハーフ、セカンドトップ、トップ下といった攻撃的なポジションに加え、ボランチでも抜群のサッカーセンスを発揮するMFとして活躍した。市立船橋高3年時に選手権で優勝、決勝の国見戦で決勝点を挙げた。明治大に進学し、07年に名古屋に加入。11得点を挙げた08年、ベストイレブンとリーグ新人王をダブル受賞。10年、J1優勝。17年、鳥栖に移籍し、17年8月、新潟に期限付きで加入した(18年に完全移籍)。19年いっぱいで現役引退、20年から関西1部のFC枚方監督を務める。

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