【頼もう、感想戦!feat.島田徹】~明治安田J2第15節・アビスパ福岡戦vol.1~「バルサ印の今季のアルビ」
ピックアップしたゲームを選りすぐりの論客と語り尽くす、この企画。第四の論客として登場するのは、サッカーマガジン時代の先輩で、現在は福岡を拠点に活動するライターの島田徹さん。島田先輩のもう一つの担当チーム、北九州の話から始まる第15節・福岡戦の感想戦は、実質、3回連載の1回目の今回限り!?
■俺たちも突き抜けたい
――お久しぶりです。どうですか、ギラヴァンツ北九州は?
「研究され始めたね」
――なるほど。
「君は今年、アウェイは行かないの?」
――行けないです。その代わりのこの企画でして。何とかしないと、という。
「いいんだよ。そういう苦し紛れっぽいのが、得てしておもしろいんよ」
――ありがとうございます。ここまで成岡翔さん、小川佳純さん、それからサッカーマガジンで一緒だった平澤大輔さんと感想戦をやってきて、第4の語り部として、福岡を拠点とする島田徹さんにご登場いただこう、という趣向です。
「そうそうたる顔触れやないか。俺はたいしておもしろくはないと思うけど」
――そんなことないですよ。島田節を期待してます。
「成岡くんは今、何してるの?」
(※島田さんはサッカーマガジン時代、磐田、福岡担当として、たびたび成岡さんを取材していました)
――東京にジュビロOBも関わっているサッカースクールSKY(https://www.sky-soccer.net/)というのがあって。そこでの指導が今年はメインになるそうです。
「へえ、そうなんだ」
――何、むしゃむしゃ食べてるんですか?
「スコーン」
――スコーン! 英国人!
「牛乳と一緒に食べてる」
――最高の組み合わせですね。
「試合は思ったより面白かったわ」
――急に始まりますね。状況を説明すると、島田さんは当日、もう一つの担当チームである北九州対千葉の取材に行かれていたんですよね。で、後から映像で見ての、この感想戦。
「そう。福岡は調子が悪いからさ。今回も結果は先に分かってて、0-1やったやん?」
――はい。
「その前の栃木戦、福岡は勝ったんだけど、早い時間(17分)のサロモンソン選手のFK一発のあと、ずーーーっと守りっぱなしで。トータルのシュート本数2本、という」
――真夏の苦行ですね。
「アグレッシブな攻守を実現する、っていう長谷部イズムをまったく感じられないサッカーだったんだよ。1-0で勝ったけどね」
――なるほど。
「新潟との試合は0-1で負けてるっていうのが先に分かってたから、栃木戦と同じような展開になっちゃったのかなと思って見たら、意外にアグレッシブだった」
――長谷部イズムの復権!
「そこまでは行けてなかったけどね。今日もさ、アビスパはZoom取材があったんよ。それで、長谷部(茂利)監督と田邉草民選手が取材に応じてくれたんだけど。長谷部さんは、『新潟戦はここ最近の試合ではアグレッシブさを出せたけど、まだまだだ』って言ってた」
――うんうん。
「突き抜けることができなかった、って。そう言われると、確かになあ、と」
――突き抜ける。
「象徴的だったのが、新潟の渡邉新太選手のゴールと、そこまでのプロセス。『あれが素晴らしかった。自分たちも、ああいうのをやれるようになりたい』と言ってた」
――なるほど。
「あの場面のように、ゴールに直結するプレーにみんながチャレンジして、ボールを持ち上がる選手を後ろから追い越したり、裏に飛び出す選手がいたり。そういうパワー、エネルギーを、どんどんゴールに向けていくプレー、要するに水戸でやってきたサッカーをやりたいんだよ、長谷部さんは」
――それはそうですよね、やはり。
「だけど今、福岡ではそれができていない」
――新しいことをやるには時間が必要ですから。
「最初は、割と早くできるようになると思って俺は見てたんだよ」
――そうなんですか?
「だけど、長谷部さんがやろうとするサッカーは、まず足が動かないといけない。そして今、出ている選手はそんなに若くない。そこにジレンマがある」
■試合で合わせる積極さい配
――そうですか? 期限付き移籍で加入している上島拓巳選手(23歳)や遠野大弥選手(21歳)、増山朝陽選手(23歳)、夏に加入したばかりの松本泰志選手(22歳)と、若手の有望株がたくさんいると感じましたが。
「でもフアンマ選手は11月で30歳だし、田邉草民選手も30歳。右サイドバックのサロモンソン選手は31歳で。新潟と対照的なんだよ。俺は新潟があんなに若作りしてるチームだとは思わなかった」
――いや、決して若作りしてるわけじゃないですよ、新潟は。ただ、当初のチーム編成の流れから、さらに若返ったところはあります。期限付きで中島元彦選手(21歳)や荻原拓也選手(20歳)が加入することによって。
「中島選手はね、去年、北九州がJ3のときに、セレッソU-23 の一員としてプレーするところを見てる。めちゃくちゃ効いてたよ、当時から」
――本当にいい選手ですからね。
「ボランチもやってたし、サイドハーフもトップもやってて」
――新潟でもそういう感じです。
「伸二さん(小林伸二監督)もべた褒めだった」
――へえ!
「どのポジションでもプレーできるのがいい、って。伸二さんが特にいいと感じたのは、ボランチでの中島選手のプレーだったみたい。ボールを前に持ち出せるし、そこからパスもシュートも打てる。対戦相手からすれば、すごく嫌な選手だった、って。
だから今回、『ああ、新潟に移ったんだ』と思ってね。福岡戦を見て、連係のところはまだまだなんだろうけど、ここからどんどん良くなっていくんじゃないかな」
――そうですね。福岡戦はファビオ選手が1カ月ぶりに出場して、当然のように練習で合わせている時間はないから、ほぼぶっつけ本番だったと思います。新太選手とか、シーズン最初からファビオ選手と一緒にやっている選手は違和感なくプレーできたと思いますが、中島選手、荻原選手は、少しやりづらそうなところはあったかな、と。
「まあね。それに、そういう選手をいきなり試合で組み合わせるってところに、アルベルト監督の積極さい配を読み取れる」
――そうそう。そのあたり、アルベルト監督はなかなかアグレッシブだと思います。試合をやりながら、連係を合わせていく。
「福岡も、松本選手がいきなり2試合先発してフル出場したけど、広島から来て1週間だからね。長谷部さんも積極的ではあるんだよ」
――今年の福岡は、現在、上島選手をゲームキャプテンに抜てきしているところが象徴的で、期限付きで獲得した若手を多く起用しながらチャレンジしている印象です。ただ、チャレンジして結果が付いてこないと、チームの雰囲気が悪くなったり、こじれる心配がありますが。
「うん。こじれるんだけど、長谷部さんはぶれずにやろうと言っているし、実際、がんばっていると感じる」
――そこで監督が日和(ひよ)っちゃうと、チームはすぐぐだぐだになっちゃいますからね。あとは今年のレギュレーション的に、ひたすら上を目指して、チャレンジの1年と位置付けることもできるし。
とはいえ、バンディエラ的な城後寿選手や鈴木惇選手がベンチスタート、っていうのは、ちょっと寂しいです。
「まあでも、長谷部さんがやろうとするサッカーの中で、その2人はちょっとパワー不足なんだよ」
――パワー不足。
「前へのパワーが。城後選手とか本来、そういうのが得意なんだけど、もう34歳だからさ」
――城後選手は、それこそ相手からすると嫌な選手なんですけど、アビスパの魂を体現するかのようなあのプレーが何とも魅力的なんですよね。実年齢は、いかんともしがたいものがありますが。
「で、鈴木淳選手は本来、配球タイプだから。だけど、それは長谷部さんが求めるボランチじゃない。理想は走って前に行って、そこでラストパスを出せるボランチ。それができるのが、広島皆実高校出身の京都から来た重廣(卓也)選手なんだけど、けがをしているようで。もう1人、水戸から加入した前(寛之)選手も期待されているんだけど、新型コロナウイルスの感染から、ずっと出られていない。だから鈴木惇選手が10試合連続で先発して、ヘロヘロになっているというのが現状でね」
――だけど福岡、悪くなかったですよ。新潟が楽に勝ったかというと、全然、そんなことはなくて。特に後半は、福岡にボールを動かされる時間も多くなって、なかなか難しい対応を迫られました。連係面でこちらに細かいミスが出て、そこでボールをかっさらわれてカウンターを受けたり。ただ、ゴール前での怖さはそんなになかったかな。
「そう。そこが課題なんよ。ペナルティエリア手前までは行くんだけど、そこからのアイディアがないし、突き抜け感がない」
――たとえば前半の段階で、何度かいいところでボールを持つことができていた増山選手に鋭いシュートを1本でも打たれていたら、新潟は少しビビっていたと思います。
「福岡はなかなか勝てていないから、どうしても勝点を落としたくないっていう発想になる。そうすると、局面でのプレーが鈍っちゃう。そんな負のループに陥っているのかな、と俺は見てる」
■新潟には希望がある
――前半の途中くらいから、フアンマ選手のポストプレーと、特に左サイドの遠野選手、石津大介選手が絡みだして、ちょっと嫌な気配が漂い始めました。特に石津選手が、いい意味でクセのあるプレーをしていて厄介だなあ、と。
「けがから復帰したころは、なかなかプレーが安定してなかったんだよ(昨年7月、全治8カ月の右ひざの大けが)。判断が遅いし、全部自分で何とかしようとするから、球離れが遅くなってボールを取られちゃうし。だけど新潟戦は、だいぶコンディションが上がっていると感じられたよ。最近ではいいプレーをしていたと思う。
ところで新潟も若いから、守備に関しては勢いだけで行ってる感があるね」
――そうですか? その中で、福田晃斗選手はさすがの存在感だと感じました。
「頭がいい選手なんだよ、おそらく。周りに気を使える選手。俺が感じたのは、渡邉新太選手がすげえなあ、ということ。顔つきがいい。力のある眼つきだし、生意気そうだし。もちろんプレーも含めて、めちゃめちゃストライカーっぽい」
――あれでだいぶ大人になったんですよ。
「そうなん? 入らなかったけど、前半の終わりにジャンピングボレーで合わせたじゃん」
――はいはい。左のアウトサイドで。
「あのプレーとか、感心したよ。左利きなの?」
――いえ、右利きです。
「へえ、そうなんや。得点も左足でのシュートだったよね?」
――そうです。いいシュートでした。
「へたにボールをこねないのがいいよね。相手からすると、そこが怖い」
――基本、シュートは足を振り抜きます。でも合わせたり、コースを狙うのもめちゃめちゃうまいです。
「俺はゴール前では絶対パスなんか選択しない、ってタイプ?」
――いやいや、そんなことないです。すごく柔軟です。
「ちょっと新潟のカラーと違うなあ、とも感じたり」
――生え抜き中の生え抜きでして。
「そうだなんよね。調べたんだけど。渡邉新太選手、なかなかいい選手だよ」
――島田さんは今年の新潟に注目していましたか?
「いや、そこそこ、かな。村松さんが行ったなあ、ってくらい」
(※村松尚登通訳がF.C.バルセロナ・オフィシャルスクール福岡校のスタッフだったとき、島田さんはしばしば取材をされたそうです)
――なるほど(笑)。
「もちろんスペイン人監督になった、っていうのは知っていたけど、すでにJリーグにたくさんいるじゃん、スペイン人監督」
――まあ、そうですね。
「で、Jでめちゃめちゃすごいことをやってるスペイン人指導者ってまだいないから、新潟もそこまでは注目してなかった」
――とはいえバルサ印ですよ。
「確かにね。その匂いはちょっとしたけど。ボールの回し方とか、ポジショニングとか」
――ゴールシーンで持ち上がった本間至恩選手がメッシに見えませんでしたか?
「ドリブル中に全然、ボールを見てない。あれだけスピードを出してるのに、ヘッドダウンしない。だから、あのタイミングであそこにパスを出せたんだと思う」
――新太選手との抜群の連係でしたね。生え抜きライン。
「なかなかやるな、と。新潟は希望があるなあ、と思ったよ。そういうチームは見ていておもしろい。これを続けていけば、新潟は来年もっと強くなる。今年の北九州がそうなんよ」
――へえ!
「去年、J3だったけど、監督として伸二さんが来て、若い選手でチームを作り始めて。それで、攻撃も守備もがんがん前に行くサッカーを徹底的にやらせた。今年、選手が多少変わったけど、去年のベースがあるから、攻撃も守備もやろうとしていることの質が高い。なかなか強いチームになってるよ、今」
――怖いなあ、マジで。この5連戦の最後に当たるのが。
「若手中心のチーム同士の対決、ってことで注目していいんじゃない? 両チームとも有望株が何人もいるから」
(つづく)
【プロフィール】島田徹(しまだ・とおる)/広告代理店勤務の後、1997年にベースボール・マガジン社に転職。サッカーマガジン編集部、ワールドサッカーマガジン編集部で2006年まで勤務した後、07年より福岡にてフリー活動を開始。サッカーマガジン時代に担当を務めたアビスパ福岡とギラヴァンツ北九州をメインに、ほぼサッカーの仕事だけで生きつなぐ。現在はエルゴラッソの福岡&北九州の担当に。現在、選手と同様に過密日程でヘロヘロ状態にある。北九州の公式HPで、インタビューシリーズ「シマダノメ」を連載中。