ニイガタフットボールプレス

【アルベルトアルビの軌跡】② ~スピード、リズム、テンポ~

2年に渡るアルベルト監督の時代から、松橋力蔵監督の新時代へ。それは断絶ではなく、継続であり、さらなる発展と進化を意味する。チームの新たな挑戦をより深く理解するために、『ニイガタフットボールプレス』で語られた前監督の“ことば”を再読する。

■なぜ速さにこだわるのか

2019年11月、スペインのバルセロナから新たな指揮官が来ると分かったとき、「もしや新潟でバルサ化が?」と色めき立ったとしても、不思議ではないはずだ。ただ、それまでの新潟のスタイル、アイデンティティからすれば、一からことは成し遂げられる必要があった。

降格から3シーズン、J2を戦ってきたチームは、監督が次々と代わる不安定さで、昇格争いにもまるで加われない低迷が続いていた。降格以前、13シーズンにわたってJ1で戦い続けたことは、地方都市の中小クラブであることを考えれば誇るべき事実ではあったが、強敵揃いのトップリーグで生き残るため、堅守速攻に活路を見いださざるを得なかった。

そんな新潟が、自分たちでボールを動かし、主導権を握って、試合をコントロールして攻め勝つスタイルに転身したい、と?

年が明け、バルセロナから二日がかりで新潟までやってきたアルベルト監督は、新天地に降り立ったその足で会見に臨んだ。長旅の疲労はさすがに感じられたものの、信念とともに新たなスタイルを新潟に打ち立てようという意欲とエネルギーが、言葉の端々からほとばしっていた。

高知キャンプでのチームづくりは、パスのスピードを上げるところから始まった。速いパスはウォーミングアップのロンドから求められ、プレーのスピード、テンポが強調された。

ボールを保持し、ゲームをコントロールして攻め勝つスタイルの追求が始まった。1カ月に及ぶキャンプの終盤、アルベルト監督はもっと鋭くゴールに向かう意識と姿勢を選手たちに求めるようになっていた。

「私はキャンプの途中まで、ボールを大事にすること、パスを大切につなぐことを強調してきた。そのために相手ゴール前でもパスをつなぐという拡大解釈が、選手たちの間に生まれたのかもしれない」(2020年2月18日の監督インタビュー

“拡大解釈が起こらないように”と配慮するあたりに、スタイルを熟知していると感じられた。ただ速いだけではない。そこには強弱が求められ、だからリズムとテンポが生まれるのだ。

「よりボールを大事に、パスを大切につなぐ必要があるのは、後ろからビルドアップして前線に至る局面。なぜそのようにボールを運ぶかというと、相手ゴール近くでリスクを負ってプレーし、得点するためで、その前提としてボールをつなぐ大切さを選手たちに話している」

相手ゴール前では、より強い『前へ!』の意識が必要で、豊かなイマジネーションとスピーディーなプレーが求められる。それは、「できる限り早く、シュートチャンスを探し出すため」だ。

「相手は自分たちのゴール前では時間もスペースも与えてはくれない。しかしチームには技術レベルの高い選手がたくさんいるので、イマジネーションを発揮してワンツーで崩したり、(本間)至恩のドリブルのように持っている良いものをゴールへとつなげてほしい」「相手ゴール前でボールを失うことを気にする必要はない。奪われたら、ただちに奪い返せばいい。切り替えられればしっかり回収できる。ボールを失うことは気にせず、リスクを背負うべきだ」

勝敗がまだかかっていないキャンプ中だからこそ、より純度が高く、スタイルの落とし込みが進められていた段階での“ことば”だ。

「ビルドアップの最初、後ろでパスを回すときのテンポに関しても、もっと上げなければならない。そしてボールを前に運び、フィニッシュを狙うべきエリアに入ったら、さらにギアを上げて攻撃する」「理想は90分続けたい。ただし私が求めるスピードは、走るスピード、足の速さではない。あくまでプレーのスピードとテンポ。そこは90分落ちないよう、選手たちに求めたい」(2020年2月19日の監督インタビュー

速さとテンポへのこだわりは、自ずとインテンシティ、プレー強度へとつながっていく。インタビューしながら連想したのが、アルベルト監督が着任する前年のシーズン終盤、激しい攻防が繰り広げられたアウェイの柏戦(第30節△1-1)だった。

「結果的にJ2チャンピオンになった柏とのアウェイでの対戦。ということは、そのプレースピード、リズムはホームである柏が求め、作り上げたものであった可能性がある」「それに屈せず獲得した勝点1は、とても意味があると思う。そしてこれから私が選手たちに求めるのは、『相手の速いテンポに負けなければオーケー』というのではなく、私たちが作り上げたテンポ、リズムでゲームを支配すること。そのために、プレースピードをもっと速くしたい」

バルセロナにルーツを持つアルベルト監督。そのサッカー哲学と美意識は、着任直後からしっかりと新潟に注入され続け、やがてピッチで存分に表現されるようになったのである。

2年目の後半、相手の新潟対策によってプレーを“減速”させられ、思うように攻撃力が発揮できなくなってしまった。それはチャレンジの限界といえるが、間違いなく到達点を示してもいた。

reported by 大中祐二

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