ニイガタフットボールプレス

【アルベルトアルビの軌跡】③ ~スタイル~

2年に渡るアルベルト監督の時代から、松橋力蔵監督の新時代へ。それは断絶ではなく、継続であり、さらなる発展と進化を意味する。チームの新たな挑戦をより深く理解するために、『ニイガタフットボールプレス』で語られた前監督の“ことば”を再読する。

■より高いレベルを目指して

スペインの、それもバルセロナという世界屈指の本場でもまれた“サッカー的知性”と日常的に関わり合える。この2シーズン、新潟を取材するとき、たとえようのない喜びと幸せであり続けた。J1昇格こそならなかったが、アルベルト監督の下、明確なスタイルを打ち立てようと奮闘し、課題をクリアしながら前進しようとチームが全力を尽くすさまは、実にエネルギッシュでエキサイティングだった。

バルサのアカデミーダイレクターなど、育成部門で要職を務めたアルベルト監督はもちろん、新潟に在籍したのは昨年のみだったが、バルサのアカデミー・コーチだったオスカルコーチも、“バルサ的サッカー知”を新潟に持ち込んだキーパーソンである。昨年3月、新型コロナウイルスの感染拡大により、開幕戦を行ったのみで突如、リーグが中断してしまう緊急事態にも、不透明な先行きを何とか見通してチームづくりを進めようと頭脳をフル稼働させていた。

取材していると、どうしても新潟とバルサを比べたくなる。端的にいえば、新潟のバルサ化はあるのか? ということだ。その問いに答える形での、オスカルの新潟の位置づけ方は実に明快だった。

「リーガにおけるバルサは、他のチームに比べると常に格上の立場にある。だから攻撃が目立つ。だが、守備もしっかり準備されている。すばらしく攻守のバランスが取れている」「今のわれわれはJ2の格上チームではない。ならば、バルサがそうであるように、リーグにおいてより高いレベルで攻守のバランスが取れたチームを目指さなければならない」(2020年3月6日のオスカルコーチ・インタビュー

高いレベルでバランスの取れた攻守。それはもちろん、得失点差が“プラマイゼロ”になることではない。

「サッカーにおいて得点することと失点しないことは、ほぼ同じレベルで重要だ。先日のクラシコ、サンティアゴベルナベウでバルサはレアルマドリードに0-2で負けたが、試合はサッカーの本質を物語る。いくらバルサが長い時間ボールを保持してもチャンスで決められず、逆に少ない得点機をマドリードに決められれば、試合には負ける」「ボールと共にプレーし続けたいという思いがわれわれにはある。同時に、攻守のバランスをより高いレベルで維持し続けたいという思いもある」

昨年の開幕戦で群馬に3-0で勝利し、『さあ、これから!』というところでリーグは中断、再開のめどが立たない中で発せられたオスカルの“ことば”は、2021シーズン後半のチームの苦しみをすでに言い表していたといえる。同時に、ブレてはいけない方向性も示されている。攻守の高いレベルでのバランス。これからも、新潟が進む道を教えてくれる指針だ。

4カ月の中断を経て、超過密日程で再開されたリーグを戦う昨年のチームは、なかなか高いレベルでの安定を得られなかった。7節を終えた時点で15得点はリーグ2位。一方で、12失点は4番目の多さだった。もちろん、アルベルト監督は攻守のアンバランスの解消に取り組むことになる。

「得失点差を考えるとき、当然ながらもっとゴール数を増やしたい。それこそがチームに推進力を生むからだ」「もちろんトレーニングによって守備も改善する。公式戦で出てくる課題をその都度、解決しながら、チームの能力を高めていく」(2020年7月27日のアルベルト監督インタビュー

最終的に2020シーズン、チームは11位。55得点55失点の得失点差0は、リーグ11位タイだった。これが6位となった2021シーズンは61得点、40失点の得失点差は+21へ飛躍。より多くゴールを奪い、失点の少ないチームへと変貌したのである。パス数、パス成功率、そしてポゼッション率の向上により、アルベルト監督がこだわった「ボールを握りながら守備をする」力が増したことがポジティブに作用したのは間違いない。

だが、得失点差+21はリーグ6位で、優勝した磐田が+33でリーグトップ、2位の京都が+28で2位。昇格2チームが出した結果を考えても、さらなる高いレベルでの攻守のバランスを追求しなければならないことは明らかだ。

昨年、「バルサをコピーしようとはまったく思わない。私はアルビレックス新潟のスタイルが構築されることに貢献したい」「これから新潟がバルサに似るということではない。ただしバルサが、特に多くのタイトルを勝ち得た時期に重視したプレーのエッセンスを新潟に浸透させ、高いレベルで表現したい」(2020年4月10日のアルベルト監督インタビュー)と意気込みを語ったアルベルト監督。一つの区切りに際して、次のような言葉を残している。

「われわれが今、表現しているサッカーのスタイルは、新潟のサポーターが過去、出会ったことがないものだと思う。そして新たに出会ったプレースタイルと新潟の人々は恋に落ちたと私は信じている。今後、過去のプレースタイルに戻ることがあっても、かつてほどの熱狂、支持は生まれないのではないか」「もちろん、このスタイルを定着させるにはさらに時間が必要だ。ただ、最も難しいのは特定のスタイルから劇的に別のスタイルに変更すること。その点に関し、この2年で達成できたと思う」(2021年10月7日のアルベルト監督インタビュー

バルセロナから新潟の地に降り立ったサッカー知との冒険は、ひとまず終わりを迎えた。だが物語に続きがあることを、誰もが期待している。

reported by 大中祐二

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