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コラム「野球一考」WEB版 「指導者に必要な視点」赤池行平

【コラム】野球一考 WEB版
東京国際大専任講師 赤池行平
「指導者に必要な視点」

去る11月30日~12月1日に、法政大学多摩キャンパスで開催された「日本野球科学研究会・第7回大会」に出席してきました。ここには研究者だけではなく、現場指導に携わる多くの関係者が参加し、日ごろの研究成果の発表や意見交換を行う場で、非常に有意義な大会でした。
私も、今年度に投稿した研究「The Effect of Wearing a Baseball Helmet with a Brim and Ear-guards on Baseball Hitting Accuracy(2019年12月 日本運動生理学会査読審査済み)」に関するデータを発表し、様々な方から意見を頂だいし、今後の研究活動にも大いに参考になる時間となりました。
また、シンポジストには現役大リーガーのトレバー・バウアー投手も登壇し、一流メジャーリーガーの考え方に多くの関係者が耳を傾けていました。
この大会は年を経るごとに研究発表数も増え、会員登録数・大会参加者数も増えているようです。喜ばしいことは、研究者だけでなく、現場で指導に携わる方々の参加が増えていることです。参加者の中には、元大リーガーで現在千葉ロッテマリーンズ投手コーチの吉井理人氏、野球選手に対するコンディショングコーチの第一人者である立花龍司氏が熱心に聴講され、さらには巨人・横浜で活躍された仁志敏久氏も最終演題でシンポジストとして登壇するなど、まさに「研究と現場との橋渡し」的な役割を担ってきているのではないかと感じました。
一昔前までは(いや、今もかなりの人がそう思っていますが)、「現場は現場、研究で分かったことなんか現場で役に立たない」という考え方がまん延していました。しかし、前述の吉井氏、立花氏、仁志氏は筑波大学大学院で研究をし、日ハムの栗山監督などは白鴎大学の教授職に就かれている方です。ソフトバンクの工藤監督も、筑波大学大学院で研究に従事した時期もあるだけに、非常に理論的に話を進めていく方です。こうしてみると、やっと現場に携わる方々が、根拠に裏付けられた理論を学ぶ必要性を感じてきているということではないでしょうか。
確かに、頂点を争う勝負所では理屈を超越した要素が勝敗を分けます。そういう場面では、それまで培ってきた練習だけではなく、その人の生き様までが要因となって、勝敗の分かれ目が展開されていきます。
しかし、そこに至るまでの基本的な技術・日々の練習を繰り返せるだけの体力の獲得・体調のリカバリーなど、現在分かっている範囲での知識というものは、選手育成にとって絶大な武器となります。有名な指導者がやっている練習のまね事ではなく、身体に関する基本的な知識を土台にしたトレーニング・練習があってこそ、やっと確実にうまくなっていくというものです。
「野球は人間形成が第一であって、うまくなるためにやるものではない」とは、私は子供のころから言い聞かされてきました。しかし、そんなこと子供に言っても、誰も聞いてませんよ。だから野球やる子供がいなくなるんです。
「人間形成」は、指導する大人側が心にとどめておけばいい話であって、それを教わる側である選手に説いたところで、誰も耳を傾けませんよ。みんな、野球が好きで、うまくなりたくて、試合でボールを捕りたい、打ちたい一心で練習するのではないでしょうか?
「僕は人間形成のために野球やっています」なんて言う子供、見たことありますか?うまくなるために最善を尽くす、その行為を通じて、あらゆる壁を乗り越えようとする中から、生きるための術、知恵を学んでいくのだと、私は思います。自分の無知さ加減を、「理不尽なことに耐えるのが人間形成につながる」という都合のいい言葉を使って、選手から逃げている指導者こそ、どこかのお寺にでも行って「人間形成」から始めるべきですね。
ただこの大会で気になったことが一点ありました。それは、野球の指導者に対する資格認定制度に関することです。実際に全日本野球協会(BFJ)・日本野球協議会などが中心になって、野球指導者に対する指導資格制度の設立への動きはあるようです。ただし、それに関する話の後半に聞かれたのが、「できるだけ時間をかけずに取得できるような内容にする」という旨のことです。おそらく現場の指導者からの反発もあるのでしょう。「何をいまさら勉強しろなんて」、という方々も多いのでしょう。
しかし、そんな方々のご機嫌を伺いながら、付け焼刃的な資格制度を作っても、何も変わりませんよ。以前から言っていますが、これだけピッチャーの投球腕に関する故障が問題になっているのに、なぜ現場の指導者は肩・肘の解剖学的構造を学ぼうとしないんですかね?なぜ肩・肘を取り巻く筋肉の構造を学ばないんですかね?知りたいと思いませんか?これは、元プロの指導者にも言えることです。
毎日休まずに練習するのもいいですが、指導者がこのような会に参加して、様々な意見に耳を傾けることは必要です。研究をしろ、大学院に行け、と言っているわけではありません。ただ、そういった場に出向いて話を聞く、意見を交わすだけでも新しい視点が得られるはずです。
そして知識を得ても、それを伝える術を持たなければ意味がありません。そうです、いかに話して伝えるか、ということです。伝わってない責任は、伝える側にあります。学び続ける必要性は、知識獲得だけではなく、いかに伝えるかという一番根本の部分の改善にもつながると、私は思います。

<あかいけ こうへい>
長野市出身。長野高―慶大卒。早大大学院修了。トレーナー資格のCSCSとNSCA-CPT取得。セガサミー野球部トレーニングコーチ、東京国際大野球部コーチを歴任。

 

 

 

 

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