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【高校】佐久長聖がノーシードから4年ぶり頂点 長野大会総評

第104回全国高等学校野球選手権長野大会
(7月9日~30日・長野オリンピックスタジアムほか)

「終わってみれば」「やっぱり最後は」。そんな声をよく耳にした佐久長聖の優勝で、長野大会は幕を閉じた。新型コロナのリスクを抱えながら、例年になく長い22日間にわたった長野大会を振り返る。

↓ ノーシードから頂点に立った佐久長聖

<急成長の佐久長聖>
昨秋は県16強、この春は東信初戦敗退。特段、主要選手が故障から戻るなど明るい材料もなく、長聖の下馬評はノーシードを差し置いても低かった。140㌔の速球を投げる投手はおらず、核となるスラッガーもいない。秋、春とも守備の乱れがあったチームが、長野大会では試合ごとに力を付け、チーム状態がどんどん上がっていった。多くのシード校が春よりも状態を上げ切れていないのとは対照的だった。

春先、コロナで対外試合や練習が満足にできず出遅れた分を、春敗退後の練習試合などで最も不足していた実戦経験を積んできた。

だいぶ前から「このチームはコツコツ1点ずつを取りいきます」と藤原監督が話していたように、打力のないことを受け入れ、犠打やバスターを徹底。以前から長聖はセーフティーやプッシュなどバントで揺さぶる攻撃を見せることはあったが、今大会は確実に送った。

またバスターも以前から追い込まれてから切り替えることは珍しくなかったが、非力な選手やここぞの場面では中軸でも初球から構えてきた。それが安打になるケースは少なかった印象だが、しつこく球数を放らせた。

なりふり構わない攻撃スタイルに見えるが、チーム状況や実力と照らし合わせ、勝つ確率の高い戦術を選択した。それが就任11年で6度(代替大会含め)県制覇した藤原野球と言える。

投手をはじめディフェンスの安定も大きかった。内野手、それから投手として、春までなかなか起用に応えられなかった廣田の成長なくして優勝はなかった。

春以降の成長に本人は、技術的な進歩よりも「気持ちの問題」と言う。しかし両サイドへの制球、落ちる系の変化球が有効で、130㌔前後の球速にも安心感があった。また捕手・寺川のリードも評価できる。

課題だった守備は、最後は二遊間を2年生で固めた。サードも含め線の細い選手となり打力への期待感は薄かったが、動きは素晴らしかった。守り勝つ野球を鮮明にし、それが7試合で失策2つ、打たせて取る投手陣をしっかり支えることとなった。

<都市大は2枚看板フル稼働も>
都市大は初優勝したとき以来、11年ぶりの決勝に進んだが、2度目の優勝はならなかった。今野、三澤と県内屈指の右左2枚看板を前面に、得点の少なさをディフェンスでカバーした。

しかし、決勝はまさかの4失策に表れたように、初回の先制もどこか浮足立ったまま。長島監督が「雰囲気に飲まれた。経験の差」と振り返るように、準決勝までの動きではなかった。

今野、三澤は1年秋から投手陣の軸として起用され続け、順調に成長。最後の夏に懸ける思いは本人も指導陣も格別だったはずだが、悲願はならなかった。

一方で野手陣は昨秋から、捕手の山田以外、なかなか固定できなかった。投手の今野が主将を務める中、野手のフィールドリーダー的な存在が劣勢の場面ではより求められた。

決勝戦は経験できた。この経験をこれからにつなげてほしい。

<シード校は順当も>
Aシード8校のうち7校がベスト8入り。昨年は全8校が8強に残ったほどではないが、波乱の少ない勝ち上がりが続いている。コロナの影響なのか、分析が難しい。

しかし、春の大会から状態が上がったチームは少なかった。そうした中で、第6シードから6年ぶりに4強入りした小諸商は、浅沼を軸にした継投で守り勝つ野球が確立し、春より1段ギアが上がった印象だ。

第1シードの上田西は、松商学園や長野日大など強豪校が入った最激戦ブロックを勝ち抜いたが、体調不良者が数多く出て、大会当初のオーダーを組めないまま敗れたのは残念だった。

第2シード篠ノ井は、28年ぶりにベスト8入り。春は34年ぶりに決勝に進出しており、新たなページを刻んだ。準々決勝では試合巧者の長聖の前に篠ノ井らしい攻撃をさせてもらえなかった。

第3シード岡谷南は圧倒的な打力で、組み合わせ的にも決勝進出の可能性は少なくないと見られた。しかし、自慢の打線が春ほどの威力を発揮せず、準々決勝で敗退。打撃の状態維持の難しさを感じさせた。それでも5年連続(代替大会含む)の8強入りは、公立では断トツの成績だ。

第4シード伊那北も、とりこぼしをせずに10年ぶりに8強入りした。2年生が多い中、4回戦では私立の長野俊英を力で押し切った。

第8シードの上田染谷丘は、エース市河を軸に2年連続の8強入りは見事。市河の負担を抑え準々決勝の上田西戦に臨んだが、層の厚い上田西に跳ね返された。

<波乱少なめも>
Aシードは7校が8強入り、Bシードは3校が16強入りとシード校目線では波乱は少なかったと言えそうだ。ベスト8には公立が5校残り健闘したが、2つのシードブロックは公立だけだったり、有力私立が固まったブロックがあったりしたことも影響した。

大会全体の展開を左右したとも言えるのが、Bシード長野日大と昨秋の県王者ながらノーシードの松商学園との2回戦(初戦)。総合力では松商が上と見られたが、日大が序盤のリードを継続試合になりながらしのぎ切った。1回に、急きょ2番手で登板した松商の2年生左腕・齋藤の打者1人負傷降板が誤算で痛かった。

近年強化が進むBシード長野俊英は初の4回戦進出。下級生が多く、今後さらに脅威になりそうだ。

2年連続16強の飯田OIDE長姫は、4回戦で都市大を延長まで苦しめた。初の8強へ着実に地力をつけている。

大会終盤、ある高校の指導者から「今年は打てる内野手がいないね」と言われた。佐久長聖、都市大、小諸商などは動きのいい二遊間だが、線が細く強打の内野手の印象はない。すぐに思い浮かぶとしたら、松商のセカンド鈴木だろうか。

また、140㌔を超えなくても140㌔前後をある程度コンスタンに投げる投手も少なかった。松商の左腕・栗原、松本国際の本間あたりがそういう力を持つが、故障明けで100%は求められなかった。

3年生は入学と同時にコロナで2カ月休校により出遅れ。その後もたびたびの休校や制限を受けてきた。チーム、選手それぞれに工夫はしてきたとはいえ、以前のようには練習できなかったのも事実。そうした影響も強いボールを投げる、強くバットを振る、といった根本的な体力に表れたのかもしれない。

力のないことを受け入れ、できることを徹底して持っているものを最大限に引き出した長聖の戦い方は、学ぶところが大きかった。まだまだコロナのリスクと隣り合わせの活動は続くが、新たな戦いは始まっている。
(nines編集長 小池剛)

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