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【ユナパな話】VOL.24「アルゼンチンのお勉強(前編)」(取材・構成:西部謙司)

●まず「守備ありき」の哲学
沖縄キャンプもスタート。JリーグDAZNニューイヤーカップ沖縄ラウンドの緒戦はFC琉球に完敗[1●3]しましたが、まだ何も気にすることはありません。昨年、これに優勝したけどシーズンとは何の関係もなかったでしょ? ニューイヤーカップについては後日まとめます。

さて、監督がスペインでプレーしたアルゼンチン人のフアン エスナイデルということで、どんなサッカーなのか興味津々の今日この頃。琉球戦は前からのプレスに取り組んでいたようですが、まだ全容はよく分かりません。シーズン前ということもありますし、ちょっとここで予習というか復習というか、アルゼンチンとスペインのサッカーについて予備知識を仕入れておきましょうか。

というわけで、まずはアルゼンチン編です。

アルゼンチンといえばリオネル メッシ、ディエゴ マラドーナ、アルフレード ディステファノと史上最高級のアタッカーを輩出した国でありますが、その哲学は「まず守備ありき」なんです。

一時期はメノッティ派、ビラルド派というように、攻撃型と守備型の対立みたいな構図もあり、攻撃型のアルゼンチンも確かにあります。ただ、全体的には守備型優勢のようで、友人のアルゼンチン人は「イタリアに近い」と言っていたものです。1930年の第1回ワールドカップでアルゼンチンは準優勝していますが、その時のメンバーはイタリアのクラブへ移籍して第2回大会ではイタリア代表選手として優勝しています。当時は代表間の“移籍”はありだったんですわ。そのころのイタリアは特に守備的というわけでもないのですが、友人が「近い」と言っていたのはメンタルの部分なんですね。考え方が似ているとサッカーも似てくるみたいです。

●メディア・ルーナ
メディア・ルーナとは「三日月」のこと。その形からパンのクロワッサンもメディ・ルーナと呼ぶそうです。で、アルゼンチンのサッカーでは守備陣形を指します。

メディア・ルーナ

簡単に図にしたのでご参照ください。ね、クロワッサンぽいでしょ。アルゼンチン通でビエルサおたくの都並敏史さんが現地で「メディア・ルーナ」という言葉を初めて聞いた時、

「アルゼンチンでは子供でも知っているよ。え? 日本にはないの??」

と、言われたそうです。そのぐらいアルゼンチンサッカーでは浸透しているみたいです。これの特徴はボールから遠い方のセンターバック(CB)のポジションの深さと、逆のサイドバック(SB)のポジションのハネ上がり具合です。CBの方は一発のロングボールで裏を取られないため。体の向きは必ずナナメ、裏へ走られたらそのまま下がってヘディングで跳ね返します。体を回すのはロスになるからダメ、というところまで徹底するそうです。SBの方は、それでCBがクリアしたボールを拾うために少し前にいます。逆サイドまで振られた時には下がらなければいけませんが、ボールの滞空時間が長いから間に合うでしょ? という理屈です。

全体のデザインが独特で、英国式の「ライン」とは違いますし、イタリア式の「L字(または逆L字)」とも少し異なる。ブラジルのナナメラインとも違います。とにかくアルゼンチンではメディ・ルーナで守るのが伝統。まあ、現在は必ずしもメディア・ルーナ一辺倒というわけではありませんが、これが基本のキということですな。

●サイド攻撃とエンガンチェ
攻撃の特徴は2つあります。1つはサイドから行く。サイドチェンジはしない。サイドを攻め切る。これは「まず守備ありき」だから。ボールを奪われてもサイドならカウンターを食らいにくいからです。ディエゴ シメオネ監督のアトレティコ・マドリーはこれを忠実にやっております。アジアだと韓国がこれですね。ずーっとサイドでゴチャゴチャやってるんで、あんまり見栄えはしませんが何となく押し切って勝つ。

もう1つのアルゼンチンらしさは10番ポジション、エンガンチェです。

FWとMFの間にいる、いわゆるトップ下ですね。英語だと「フック」、ここにいったんボールを預けておくという感じになります。典型的なのはフアン ロマン リケルメ、マラドーナ、メッシもこれに入るかもしれません。相手MFとDFの間で受けて、スルーパスやシュートという仕上げの仕事になります。

エンガンチェは現在では絶滅危惧種、というか事実上絶滅しているわけですが、ちょっっとやり方を変えて生き残っている選手はいます。センターフォワード(CF)やウイングのポジションからエンガンチェ仕事をやるメッシがそうですし、セビージャでのサミル ナスリもサイドに流れたり引いたりフラフラしながら、最後はインサイドハーフ的な場所でラストパスの仕事をしています。現在セビージャの監督をやっているホルヘ サンパオリ監督は、チリ代表で真性エンガンチェのホルヘ バルディビアを使っていました。

攻撃はサイドからなんですが、オランダみたいに縦にドリブルで破ってクロスをバーンというイメージではなくて、サイド起点からちょい中へつないでエンガンチェ登場という流れがアルゼンチンぽいわけです。

次回は「後編」、攻撃型と守備型の2つの顔を持つアルゼンチンについて。そこから派生した革新勢力としての「ビエルサ派」について言及します。

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