大宮花伝

【★無料記事】鳥栖入り内定の梶谷政仁(国士舘大学)と孫大河(立正大学)。“サッカーの原点”母校・正智深谷高校の総体予選初V &全国出場 を後押し。


J1鳥栖に内定した梶谷政仁(左)と孫大河

 

後輩たちを献身サポート

全国高校総体サッカー大会埼玉県予選で初優勝し、本大会(8月14~22日・福井)切符をつかんだ正智深谷。快挙を後押ししたOBが来季、Jリーガーになる。J1鳥栖に内定しているFW梶谷政仁(かじや・ゆきひと=国士舘大学4年)とDF孫大河(そん・たいが=立正大学4年)だ。2人は6月中旬にそろって母校で教育実習。懐かしいグラウンドで汗を流して後輩たちの頑張りを支えた。

梶谷は「後輩がかわいいのもあるので全国大会に出たらすごくうれしい。誇りになる。全国大会に出てほしい」と願っていた。左足を痛めているため練習参加はできないものの、リハビリ組を手伝い、県予選メンバーらにアドバイスを送るなどして献身的にサポート。自身は高校2年時に全国高校サッカー選手権に出場し、創造学園(長野)との3回戦ではゴールを決めて8強入りに貢献した。

当時を振り返り、梶谷は「上の舞台を経験できて緊張などがだんだん和らぎ、関東大学1部リーグでやっていても自分の力を発揮できるようになった」と動じない精神が養われたとする。大舞台で活躍したことは「すごくいい経験だった」と後々のプレーにも好影響を与えた。だからこそ、後輩たちにも全国を味わってほしい思いが「間違いなくある」とアドバイスなどに愛情も注いだ。

元気な孫はライバル対策で一役買った。県予選の2回戦は成徳大深谷高校、3回戦は西武文理高校で、それぞれヘディングの強い選手が在籍。187㌢、78㌔の孫は練習相手にうってつけだった。さらに、DF森下巧(3年)は「体の入れ方、使い方と細かいところまで指導してくれた」と感謝。頼りになる先輩からの言葉は、全5試合を1−0の無失点で初の栄冠を勝ち取る力になった。

また、孫は教育実習で“教える側”に立ったことで「人に教えることで準備の大切さをあらためて感じた」と初心に。「サッカーも一緒だが試合に出るために準備する、授業で教えるために準備する。似たところというか、つながる部分があった」と学びが多かった様子。また、孫も梶谷も教育実習を通して、サッカー部の小島時和監督の“偉大さ”を再認識。授業や部活動を精力的にこなす恩師の姿を見て舌を巻いていた。

 


教育実習のためスーツ姿の2人(小島時和監督提供)

 

公私ともに阿吽の呼吸

2人にとって高校時代が原点だ。

正智深谷はプレーの判断は選手に委ねられており、いい意味で自由なところがある。梶谷は「正智の良さは自分たちでいかに考えて、相手に勝つかという部分。その考える力、自分で行動する力は正智の時代に培った」と話す。孫も「『自分がやらないといけない』というのは自分でやらないと成長できない、考えないといけない。そういう力はついたというか、考えさせられた」と同調。より自由さが増す大学でキャプテンに上り詰めるなど活躍した2人は「それが生きた」と口をそろえる。

来年はプロの世界に羽ばたき、大学で一旦は離れた2人が再び鳥栖でチームメートになる。互いに他クラブからの誘いもあったものの、梶谷が「こいつが俺のことを好きすぎて(笑)。マジで寄ってきた」と言えば、「逆ですね」と孫。続けて梶谷は「やめろよって言ったが一緒がいいって」とニコニコ顔だ。オファーをもらった順番は梶谷が先で、返事をしたのは孫が早かった。

会話の掛け合いも阿吽の呼吸で、もちろんプレーも分かり合う。鳥栖でも仲の良さを見せたいところだろう。孫は5月19日のルヴァンカップ福岡戦で鳥栖デビュー済み。75分にピッチに立ち、技術面は「通用すると確認できたが、ヘディングの強さは活躍するなら足りない」と実感。「ディフェンダーとしてはやられない、点を取られないってところが本当に大事。一人ひとりと対峙するところの強さ、速さはまだまだ」と成長を誓った。

ゆくゆくは日本代表を目指す2人。先輩の日本代表FWオナイウ阿道(J1横浜M)は6月15日のカタール・ワールドカップ(W杯)アジア2次予選のキルギス代表戦で日本代表初ゴールを含むハットトリックを達成している。オナイウと同じストライカーの梶谷は「(将来は)海外に行って、もっと上のところでやって、日本代表に入って活躍することが今の目標」と目を輝かせた。

曽祖父が韓国人の孫は韓国籍。現在、日本への帰化申請中で鳥栖入団前には取得予定だ。「先輩の活躍はいい刺激になるし、身近に同じ仲間(梶谷)がいるので負けずにやりたい」。当面の目標は「J1での活躍。それをすることによって家族に喜んでもらえるとか恩返しになれば。安定したポジションを奪う、活躍することが夢」と笑顔。一歩、一歩と着実にキャリアを重ねた上で、その先を見据えた。

 

恩師の小島時和監督(中央)を囲む2人(同監督提供)

 

そろってのプレーを周囲も期待

小島監督は喜びの声を挙げる。「Jリーガーや代表が出てくれるとすごくうれしいし、楽しみがどんどん増えてくる。とにかく2人は誠実で素直でいろんなことを聞き入れて、努力もする。だからこそ、卒業して各大学でキャプテンに任命されて、人間的な部分がしっかり成長してくれたんじゃないか」

新井章太(J2千葉)や内田航平(J1徳島)ら「過去のOBたちもそうだが、卒業生だとドキドキして見ちゃう。安心して見られる試合をしてほしいな」と小島監督。若松徹朗コーチは「Jリーガーを何人出すかというよりも行った先でみんなが活躍してくれて、レギュラーポジションをつかんでいるのが一番」と梶谷と孫にも期待を寄せた。

ライバルにも刺激を与える。昌平高校から一足先にプロに進み、同級生のFW佐相壱明(J2大宮)は報道で2人のJ1入りを知った。高校時代の対戦を思い返し、「孫は左利きで、でかかったのでシンプルに嫌だった。(自身と同じFWの)梶谷には負けたくないって感じ」と懐かしむ。「僕も頑張らないとな。負けてられない」とプロでの対戦も心待ちにした。

家族も2人の活躍を楽しみにする。梶谷と孫が仲良いように、それぞれの祖母も大の仲良し。祖母たちは応援席で出合い、梶谷は「3年のときに一緒に試合に出ていたので、おばあちゃんがきているってなかなかいなくて意気投合したみたい」と笑う。孫は「自分のおばあちゃんとカジのおばあちゃんがめちゃくちゃ仲いい」と、とてもうれしそうだ。

孫同士、祖母同士で気が合うのは血なのだろうか。孫は言う。「高校時代も一緒に試合を見ていて本当に仲が良くて。(今回)どっちもプロに行く雰囲気があったんで、両方、喜んでいる。一緒のチームになるって知ってから余計に喜んでいました」。プロになって、また同じピッチに立てる。梶谷はそれを「2人で見せたい」と意気込んだ。

たくさんの人に見守られ、注目される梶谷と孫。残りの大学生活を存分に楽しみ、パワーアップして、来年は憧れたプロの世界への一歩を踏み出す。

Photo & Text by 松澤明美

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