フットボールフィリピン

インタビュー|フィリピン代表佐藤大介ムアントン・ユナイテッド移籍の真相(前編)

J論プレミアム(2020年1月14日)のインタビュー記事を再掲します

フィリピン、デンマーク、ルーマニアのクラブチームを渡り歩いたフィリピン代表の中心選手佐藤大介は今、チャナティップやティーラトンを輩出したタイのビッグクラブ「ムアントン・ユナイテッド」でプレーしている。多くの選択肢から東南アジアへの回帰を決断するに至った、その理由と経緯を聞いた。

取材・写真=池田宣雄(フットボールフィリピン編集長

photo by football philippines

▼ヨーロッパを経由して東南アジアのビッグクラブへ

浦和レッズユースでやっていた時の目標が「浦和レッズでプロになってインターナショナルな選手になる」だったので、ルーマニアとデンマークでプレーできたことは嬉しく思っています。ただ、プロになった後に「アジアの強豪チームからACL(AFCチャンピオンズリーグ)に出場する」と「フィリピン代表メンバーとして大きな仕事をする」のふたつが加わりました。

ティーラトンがレンタルで日本に行った頃に、左サイドが手薄になったムアントン(・ユナイテッド)から声を掛けてもらって、具体的なオファーがありました。タイの他のチームとか、JリーグとKリーグからのお話も実際にあったんですけど、ACLを狙える強豪という意味でムアントンへの移籍を決めました。

実は、タイリーグの移籍期間が終わる3ヶ月ぐらい前から、日本の代理人の方を通じてJリーグの左サイドバックを必要としているチームとも交渉していたのですが、最終的な返事がタイの移籍期間を過ぎる可能性が高くなって。僕には家族がいますので、もし返事がノーだったらその後の半年間はどうするんだということになって。ムアントンのオファーには満足していたので、返事を待つという賭けに出るのをやめてムアントン行きを選択しました。

ムアントンは、チャナティップとかティーラシンとか、それとティーラトンもプレーしていたこともあって、日本でもネームバリューのある東南アジア有数のチームです。2019年は無冠に終わりましたが、(アレシャンドレ・)ガマ監督が続投しますし、東南アジアではトップレベルの選手たちがいますので、2020年はタイ国内のタイトルを奪還して、2021年にACLの舞台に戻ることを、達成しなければならない目標としています。

▼ASEAN枠でプレーするフィリピン代表選手たち

タイは全体的にサッカーの環境が整っています。練習ピッチもスタジアムもちゃんとしていますし、ルーマニアやデンマークとの違いは、凍えるような日がまったくないことですね。フィリピンと気候が似ていますし、移動が楽になったことも好都合です。

ルーマニアでプレーしていた頃は、氷点下のリーグ戦を終えてから18時間ぐらい掛けて移動して、試合の前日ぐらいに代表チームに合流していました。30℃ぐらいの環境で1試合か2試合やって、そのまま空港に向かって氷点下のルーマニアに戻るような感じでした。これを繰り返していたら絶対に身体を壊すと思っていましたし、アスカルス(フィリピン代表)でも、帰った直後のクラブチームでも、正直パフォーマンスは良くなかったですね。

その点、タイでプレーすることで、気温差とか移動距離が苦にならなくなったので、パフォーマンスを最大限に発揮できるようになりました。タイとマレーシアのリーグにASEAN枠が導入されましたので、僕だけじゃなくて多くのアスカルスの選手たちが、良い環境と良い条件でプレーしているんです。

▼クラブチームと代表チームでの役割の違い

ガマ監督のサッカーは、基本的には3バックの3-5-2布陣なので、僕は左のウィングバックで出ています。僕は日本で4バックの左サイドで育ったのでどっちでもやれますけど、ムアントンは前の方でボールを保持する時間が長いのと、両ウィングバックが下りてくるシステムではないので、前に行ける時間が多くて本当に楽しいですよ。

(スコット・)クーパー監督のアスカルスでは、4バックの時も3バック(両ウィングバックが下りる5バック)の時も左サイドで出るのですが、代表戦ではどうしても引いて守る時間が長くなるので、前の方にはなかなか行けません。センターバックがラインを下げるクセがあって、間延びしちゃうのも問題なんですけどね。

アスカルスは今、W杯アジア2次予選を戦っています。中国とシリアと同組で最終予選進出は正直むずかしいと思いますけど、3位になればアジアカップの3次予選に行けるのでそこを狙っているところです。スズキカップも重要な大会ですけど、僕たちは2大会続けてのアジアカップ本大会出場をより大きな目標としています。

僕たちはまだまだ下の存在というか、東南アジアでもまだアンダードッグの立場です。でも毎年確実にステップは踏めているので、今後はコンスタントにアジアカップに出て、そこからステップアップして行けたらいいなと思っています。

いつか、アスカルスでも大きな仕事をしたいですね。

(つづく)

佐藤大介(Daisuke Caumanday Sato)
1994年生まれ、フィリピン・ダヴァオ出身。浦和レッズジュニアユース/ユースと仙台大学を経て、2014年に母親の母国フィリピンに渡りグローバルFCと契約し、同年にフィリピン代表初キャップを記録。その後はルーマニアとデンマークのクラブを渡り歩き、2019年途中からタイのムアントン・ユナイテッドに所属。フィリピン代表としてこれまで国際Aマッチ49試合に出場。

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