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【無料記事】ワールドカップ開幕直前連載01・列強国のプロフィール『ブラジル』(2012/09/18)

レポート◆座間健司


2008年、母国のワールドカップで3大会ぶりに王座に返り咲いたブラジル代表。華麗な攻撃ばかりが目立つが、実は守備意識の高さが勝因だった。写真左から3人目がペセ監督。

2008年のセレソン

2008年のブラジル代表は3大会ぶりの王座奪還を成功させた。
2000年、2004年とスペインに敗れていたブラジルは決勝でそのライバル国にPK戦の末、勝利し、自分たちの“指定席”を奪い返した。

そんな2008年のセレソン(ブラジル代表)には大きな特徴があった。まずひとつは国内組と海外組の2チームを編成し、継続した強化を行なった点だ。2005年にブラジル代表監督に就任するとペセは2つのチームをつくった。ひとつは国内のクラブに所属する選手たちを中心に編成したチーム。そしてもうひとつはスペインやロシアといった海外のクラブに所属する選手たちを中心としたチームだ。ブラジルリーグは3月に始まり、12月にシーズンが終わる。一方の欧州のリーグスケジュールは9月に始まり、翌年の6月に終わる。
この両者のスケジュールに合わせて、より継続的に多くの親善試合が組めるように2つのチームで強化を進め、ワールドカップの1年前に行なわれたリオでのパンアメリカーノ(全米選手権)で初めて国内組と海外組を融合させて、挑んだ。欧州の強豪クラブに所属する選手を多く輩出するブラジルならではのやり方だが、監督がマルコスになった今でもこの強化方針は変わっていない。

2008年のセレソンはブラジル史上最強だったといっても差し支えないだろう。レニージオ、ファルカンといった国内組に加えて、ヴィニシウス、シュマイケル、マルキーニョ、ガブリエルらが欧州での経験を手にし、まさにキャリアの絶頂期を迎えていた。さらにそんな才能ある彼らがチームプレーに徹し、全員がみなディフェンスをこなしたのだ。
2008年のチームには約束事があった。ボールを奪われた瞬間、必ず全員が帰陣をすること。そして誰ひとりサボることなく必ず全員でディフェンスをすること。この大会、ファルカンは主にセカンドセットでプレーをし、ジョーカーのような使われ方をしていたが、それはディフェンスが不得意な彼がこのチームの鉄則を守れているとはいえなかったからだ。

準決勝のロシア戦。多くのタレントをそろえ、攻撃に華麗なフットサルを見せてきたセレソンが“知られざる顔”を見せた試合だった。

先制点はガブリエルが前線からのチェイシングをし、ボールを奪ったところから始まった。追加点もそうだ。相手が自陣深くでパスを回してるところをウィルデがカットし、すぐさまゴール前にいたファルカンにパス、セレソンの名手は強烈なシュートをロシアゴールにたたき込んだ。
それでも食らいついていくるロシアに決定的なダメージを負わせたセレソンの4点目もディフェンスから始まっている。相手のパスをレニージオがインターセプトし、カウンター。数的優位な状況でセレソンのエースは左サイドを駆け上がってきたガブリエルにパス。ガブリエルはそのボールを見事なコントロールシュートでゴールに沈めた。この得点後にペセ監督がその決定的なゴールを演出したレニージオをうれしそうに迎える姿を僕は今でも鮮明に覚えている。あのゴールには「全員が守備をする」というチームのコンセプトを体現したものだった。あのゴールでペセは監督として忘れがたい快感を覚えたのではないだろうか。

一見すると華麗だが2008年のセレソンの勝因は攻撃ではなく、ピッチにいる選手たちの守備意識の高さだったのだ。華麗でありながらも泥臭く、洗練された組織を持つチームだった。

2012年のセレソン

タイでワールドカップ連覇に挑むセレソン。2008年のチームと大きな違いは選手の顔ぶれだ。レニージオ、シュマイケル、マルキーニョといった、そのプレーでチームを牽引する選手たちが代表を引退。彼らに代わるリーダーシップを持つ選手たちがまだセレソンに現れていない。キャプテンのヴィニシウスやファルカン、ガブリエル、シソ、ウィルデ、ベットンらは健在だ。そして若く才能あふれる選手も出現している。またラファエル、フェルナンジーニョ、前大会負傷で欠場したネットらが円熟期を迎えている。だが、やはり上記した偉大な3人の不在を感じずにはいられないだろう。

ただ2012年のワールドカップに挑むマルコス監督が創ったチームは2008年に比べて走量が増えたように感じる。パスワークの中でフリーランニングがこのチームは多いのだ。

2011年にブラジル国内で行なわれた国際グランプリ大会決勝戦でのブラジルの同点ゴール。相手はロシアだった。欧州の強豪国に先制点を奪われたブラジルだったが、ヴァウジンのゴールで同点に追いつく。

ヴァウジンのゴールはヴィニシウスの仕掛けから始まった。相手陣内ピッチ中央でセレソンのキャプテン、ヴィニシウスが左サイドにいるヴァウジンにボールを預け、そのまま前線にダッシュし、右へ抜けていく。対峙するディフェンスは慌ててヴィニシウスを追いかける。パスを受けたヴァウジンは中央にボールを持ち出すと右サイドにいるネットへパス。するとヴァウジンもパスと同時に前線へダッシュ。そしてゴール中央から左サイドへフェルナンジーニョが同じくディフェンスを引き連れ、移動していた。ゴール前のスペースはフェルナンジーニョのフリーランニングでがら空きだった。ヴァウジンはその空いたスペースを見逃さなかった。パスを受けたネットはトラップをするとすぐさまゴール前に走り込むヴァウジンへピンポイントのパス。ヴァウジンはそれをダイレクトで合わせるだけでよかった。今やすっかりブラジル代表の司令塔になったネットのパスも素晴らしかったが、ヴァウジン、そしてヴィニシウスのフリーランニングがなければこの得点は生まれていない。

1対1を仕掛けることができる選手も多いが、ボールが足元になくてもプレーに関与し、決定機をつくることができる選手もそれと同じくらい多い。それが2012年のセレソンだ。


今年行われた親善試合に出場したブラジル代表。このときはファルカン(写真左から3人目)ら国内組で編成されたが、2008年の“ディフェンスのチーム”に比べて、巧みなフリーランニングで“攻撃に幅を持たせたチーム”の印象がある。その修正が果たして吉と出るのか。

写真:Zerosa Filho/CBFS www.futsaldobrasil.com.br

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