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【無料記事】ワールドカップ開幕直前連載03・列強国のプロフィール『ロシア』 (2012/9/27)

2012年2月クロアチアで開催された欧州選手権決勝ではスペインに残り18秒で同点にされ、延長戦の末に敗れたロシア。ブラジル、スペインと優勝を争うポテンシャルを持つ強豪国だ。

ロシア国籍を持つブラジル人ゴレイロ、グスタボ。今季開幕前に欧州ナンバー1クラブを決めるUEFAフットサルカップの昨季のファイナリスト、ディナモ モスクワに移籍。欧州選手権決勝でもスペインの決定機を防いできた。

ロシア代表のアタッカー、フキン。体が強くスピードがあり、そのドリブルで状況を一変できる。過去にはスペインのエルポソが獲得に乗り出したこともある選手。ディナモ モスクワに所属している。

ロシア代表のピヴォ、シリロ。左利きのピヴォがピッチに入るだけでロシアの攻撃は一変する。ブラジルのベットン、スペインのフェルナンダウに並ぶ世界屈指のピヴォだ。

 

2008年のロシア

ロシアは前回のワールドカップで準決勝でブラジルに敗れ、そして3位決定戦ではイタリアに敗れた。

UEFAフットサルカップという欧州ナンバー1のクラブを決める大会では2006、2007年とロシア代表の主力が所属するディナモ モスクワとヴィズ シナラがいずれも決勝でスペインのクラブを破って王座に輝いている。クラブレベルの成功が代表チームにも大きく作用するのではないか。東欧の大国はスペイン、ブラジルの牙城を崩してもおかしくないチームと見られていた。そのくらいポテンシャルがあるチームだと。タレントもそろっていた。攻撃の軸には世界でも3本の指に入るピヴォがいた。ロシア国籍を持つブラジル人、シリロだ。ゴールマウスにはヴィズ シナラ欧州制覇の立役者、セルゲイが堅実なセービングで相手の決定機をスコアボードの数字に変換することを阻止した。レフティーのマジェスキーはその丁寧なパスでゲームをつくり、カウンター一辺倒になりがちな代表チームに変化を加えていた。そして全てのロシア代表選手に当てはまることだが、体は屈強で球際に強い。そしてチーム力は高かった。

ロシアを戦術的に進歩させた監督セルゲイ

ベンチにはロシアのクラブで仕事をした全てのスペイン人が「戦術、戦略を知っている。彼によってロシアは戦略的に進歩した」と評していたセルゲイが座っていた。2007年に監督としてヴィズ シナラを欧州の頂点に導いた人物だ。彼は外国人選手を補強せず、ロシア人だけでチームを構成するという信条を持つクラブを欧州王者に押し上げた。クラブチームと兼任しながら、ロシア代表監督に就任した彼の手腕は高く評価されていた。

クラブチームの躍進、人材、そして監督の指導力。ブラジルやスペインにも劣らないチーム力を持っていたロシア。

しかし、彼らは2大国が主役となっている近年の歴史を書きかえることはできなかった。

ロシアはグループリーグでブラジルに0-7で敗れ、2次リーグで相見えたスペインとは2-5、そして準決勝ではまたもブラジルに2-4で敗れている。彼らが手にしたのは4位という戦績とロシア国籍を持つブラジル人アタッカー、プーラが手にした得点王という個人タイトルだけだった。

彼らは勝負を分けるディティールの部分で詰めの甘さがあった。例えば準決勝のブラジル戦では同点にできるという雰囲気が支配していたときに“フェノメノ”レニージオに甘いパスをインターセプトされ、ガブリエルに決定的な4点目を奪われている。この場面はカットしたレニージオを褒めるべきなのだろうだが、ロシアの甘いプレーが失点の起因となっていたことも確かだ。2大国とロシアの差は本当にわずかだが、振り返ってみるとそういう勝負どころでのプレーでブラジルやスペインよりも真剣味を欠いていたのではないだろうか。

2012年のロシア

ロシアはあと34秒耐えしのげば欧州王者になっていた。UEFA欧州選手権決勝のことだ。決勝でスペインと相見えたロシアは膠着した試合で33分に2008年のワールドカップ得点王のプーラが個人技から持ち込み、ミドルシュートを決めて、待望の先制点を奪う。35分にシリロがシミュレーションで2枚目のイエローカードを受けて退場となってしまうが、セルゲブやプルニコフらがシュートを顔で止めたりしながらもやり過ごした。スペインがパワープレーを始めて、ロシア国籍を持つブラジル人ゴレイロのグスタボを中心に守りきっていた。

ロシアが実に13年ぶりに欧州王者に返り咲くかに思われたが、その願いは残り34秒、スペインのセルヒオ ロサノのシュートによって打ち砕かれた。ロシアはスペインにとっては起死回生となったシュートにもしっかりブロックに入っていたが、ディフェンスに当たってコースが変わり、ゴールネットは揺れてしまった。延長戦、追いついたスペインとシリロを欠くロシアの勢いの差はっきりしており、スペインがセルヒオ ロサノの1得点とブザービートで2点を奪い、大会4連覇を果たした。

2008年のチームをさらに成熟させたロシア。ゴールマウスにロシア国籍を持つブラジル人グスタボが立つようになったが、それ以外ほとんどメンバーは変わっていない。

カウンターを得意とするファーストセット

キャプテンのセルゲブを中心にしたファーストセットは縦に速いまさにカウンターを得意とする。そのメンバーのほとんどがヴィズ シナラに所属するメンバーだ。セカンドセットはシリロをピヴォに置き、積極的なシュートを放つプーラとドリブルで違いを生み出せるアタッカーのフキンらディナモ モスクワの選手たちが中心となっている。ロシアを代表する2大クラブがそれぞれのセットの主役となっている。

近年のロシア代表はスピードだけでなく、スタミナも武器だ。彼らが他のチームに比べて体力を消耗ずる事態はワールドカップでは起こらないだろう。なぜならロシアリーグは2010-2011シーズンから25分ハーフという独自のルールを取り入れてる。ゆえに選手たちは必然的に25分を戦う体を手に入れなければならず、彼らの肺は25分ハーフを戦うように仕立てあげられている。彼らのスタミナは20分ハーフでは底をつかない。

2011年にはブラジルで開催される国際フットサル『グランプリ』決勝でブラジルに延長戦の末、1-2で敗れ、2012年のUEFA欧州選手権ではスペインに延長戦の末、敗れている。2つの国際大会でロシアは2大国と接戦を演じ、あと一歩のところで敗れている。

この結果が示すようにロシアは2大国に肉薄している。そして国際大会の決勝を戦ったことでチームとして経験も手にしている。条件は整い、そして機は熟した。

ロシアはワールドカップで常に主役を張ってきたブラジルとスペインを脇役へと追いやることができるのだろうか。今大会こそ東欧の大国は準主役ではなく、主役を演じきる実力を手にしている。

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