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無料:2004年世界選手権/「僕たちの目的は常軌を逸したフットサルを披露することだった」ブラジルのエース、ファルカン[フットサル史探訪]

 

2004年11月21日~12月5日 台湾大学体育館、林口体育館

 

スペインは、2000年に続いてFIFAフットサル世界選手権を制した。にもかかわらずストレートな賞賛ではなく記事のタイトルは「功罪」となっている。なぜか。ここにこの大会の歴史的意味が込められている。それを解きほぐすために当時のフットサル専門誌から該当する記事、「世界選手権レビュー」を再録する。この大会がフットサルの世界史に刻んだものは、「勝利か、スペクタクルか」。

日本のフットサルメディアにとってこの大会には2つの側面があった。1次リーグ突破に汲汲(きゅうきゅう)とする母国のナショナルチームの実情と、頂点に立とうと強い意志を持って大会に臨む世界の列強の戦いの姿だ。ここからは、敗れたりとはいえ存分に存在感を示したブラジルのエースの言葉を借りながら、後者に触れる。

まとめ◆デジタルピヴォ! 山下浩正

 

 

[スペイン連覇の功罪]

負ける雰囲気

台湾大学総合体育館に最後のブザーが鳴り響き、赤い歓喜の渦ができようとしていた。一方、沈痛な面持ちで立ち尽くす“白い”アズーリ。イタリアとの決戦を制したスペインが、2000年グアテマラ大会に続き、世界選手権連覇を成し遂げた。

両者は2次リーグで1度対戦し、このときはイタリアがスペインを3-2で退けている。実力はほぼ互角。ややスペインに分があったとしても、試合の流れによって、彼らの力関係は容易に覆るほど拮抗していた。2次リーグ、5人しか前回大会を経験した選手がいなかったスペインに、王者の風格はなかった。

今大会2度目の対戦となった決勝も、2-1という接戦。試合データは、むしろイタリアの攻勢だったかのような数字を残している。

しかし会場では、前半を0-0で終えても、イタリアがスペインに勝利する気配はなかった。絶対的な力関係の優劣から「勝ち目がない」というものとは違う。イタリアには「負ける雰囲気」が漂っていた。決勝のスペインは、もはや2次リーグでイタリアに敗れたスペインではなかった。

そう思わせた背景には、王者ブラジルの存在があった。

常軌を逸したフットサル

今大会のブラジルはスーパーチームだった。王国の熱狂的なファンを満足させ、フットサルを知らない台湾人たちまでを虜にする、華々しい“フットサルショー”を展開した。国外選手は呼ばないという不文律を破って集められたタレントは、その誰をとっても他国のエースになる実力を備えていた。その中でも一際異彩を放つ男、大会MVPと得点王を獲得したファルカンは、チームを象徴する言葉を残している。「僕たちの目的(のうちの1つ)は、常軌を逸したフットサルを披露することだった。そして僕たちはそれができていた」。

ブラジル代表は常に“美しく”勝つことが求められる。それは舞台が世界選手権になっても同じだった。予選1次リーグ、彼らは美しかった。オーバーヘッド、ヒールリフトという曲芸のような個人技や、素早いパスワークで相手をずたずたに切り裂き、最後はインサイドキックで無人のゴールにパスするという、超人的なボール回し。観衆の想像をはるかに超えたフットサルは、衝撃的でさえあった。

2次リーグ以降、相手が次第に強くなってもブラジルに戦術的な変化はなかった。むしろ、エースのファルカンに頼った采配が目立つようになっていく。

準決勝、ブラジルに戦術はなかった。フェレッチ監督の最も信頼する選手だけがピッチ上にいた。プレーする人数は限られ、使い分けもなかった。宝の持ち腐れという言葉がこれほど当てはまる状況はない。何しろ各国エースクラスの選手がベンチを温めているのだから。ブラジルの敗北は、フェレッチ自身がファルカンの魔術にかかってしまった結果によるものかもしれない。

王者になる条件

準決勝で、総力戦を仕掛けたスペインはPK戦の末ブラジルを退けた。この勝利がスペインに与えた影響は計り知れない。「大会前にスペイン代表の質に疑問を感じたことがあったが、今我々は非常に高いレベルでプレーできている」(ロサノ監督)。準決勝後に発せられたこの言葉は、ブラジルを倒したことから得るロサノの自信の大きさを物語っている。

それから2日後、決勝のピッチに立ったスペインは、実に悠然としていた。「常軌を逸した」ブラジルのフットサルによって肩身の狭い思いをしていた前回王者は、ついに王者たる自信を取り戻していた。

イタリアとの実力差はない。それでもブラジルを破ったスペインに「負ける雰囲気」は微塵もなかった。

ロサノは言う。「イタリアはおそらく経験が足りていなかったのだろう。世界選手権を戦うという経験がね。世界選手権で優勝するには、まずは決勝で他国に負けなければならない。スペインが1996年にブラジルに負けたように」。

もう一言付け加えたい。“世界選手権で優勝するにはブラジルに勝たなければならない。スペインが2000年と2004年にブラジルに勝利したように”という言葉を。

他国の指標となるスペイン

スペインの優勝は、圧倒的な力を持ちながら準決勝で敗退したブラジルと比較して、組織の勝利という意見がメディアの大半を占める。

優勝を決めた後、今大会のシンデレラボーイとなったマルセロについてコメントを求められたロサノは、こう言い切った。「(彼は確かに活躍したが)それはチームがあってこそのものだ。彼の活躍は“集団”がもたらす特性をチーム全員が実践したから起こったいい例だろう。わたしにとって、個人の能力はどうでもいい。チームがすべてだ」。

スペインにはキャプテンとは別に、エースがいる。しかし、ブラジルのファルカンのようなスーパースターが、アルゼンチンのサンチェスのような大黒柱が、スペインにはいなかった。そのことが奏功した。

1人の選手に頼ることなく、選手がそれぞれの仕事をこなす。監督というオーガナイザーに与えられた役割を個々のプレーヤーが確実にこなしていった結果、優勝という1つの答えが導きだされた。ロサノ率いるスペインは、他国とは一線を画す非常に高いレベルで組織されているのだ。

この出来事は示唆に富んでいる。フットサルという競技は個人能力差を組織力で埋め合わせることができる、ということを世界王者が立証しているのだ。ロサノも「選手1人1人の能力を見た場合、スペインが最高ではない。ただ、チームで見た場合、我々は非常に強い」と語っている。

大会1次リーグ、2次リーグのブラジルとスペインを見比べて、誰がブラジルの敗退を予想できただろう? 個人能力において、ブラジルは依然として他国の追随を許していない。しかし、相対する国に勝利する能力という意味においては、ブラジルとスペインは同等のレベルにある。今大会のベストゲームとなった準決勝では、守備的で地味な組織力のスペインが、攻撃的で派手な個人技のブラジルを凌駕したために衝撃が大きかった。だがそれは、冷静に総合力を見比べれば決して番狂わせではないのだ。

もう1つ、スペイン躍進の理由で忘れてはならないのが、国内リーグの充実だ。世界一の市場(年間リーグ運営費 約400万ユーロ-約5億4千万円/2004年12月27日現在)を持つスペインリーグには、よりよいサラリーを求める優秀な人材が、ブラジルをはじめ、世界各国から集まる。彼らによってレベルを引き上げられたリーグは世界最高レベルを誇り、自然とスペイン選手の育成に寄与している。

この組織とリーグというスペインの2つの側面は、日本をはじめ世界各国が目指すいいモデルになる。パス、トラップ、シュートといった基本的な技術の質において、日本はスペインの水準にまだ追いついていないが、基礎の向上はたゆまぬ努力によって身につくものである。あらゆるスポーツにおいて、勤勉さとクイックネスには定評のある日本だ。基礎力に加え、高度に組織化されたフットサルを展開できるようになれば、世界の強豪と肩を並べることは十分に考えられる。

そして、リーグの整備。いまだ、地域リーグが最高レベルという日本フットサルだが、ようやく全国リーグに向けて動きが慌ただしくなってきている。お金を払って見る全国リーグの設立が、国内のフットサル熱を高めるだけでなく、代表の強化につながることはいうまでもないだろう。

勝利か、スペクタクルか

だがしかし、である。大会後のシュマイケル(ブラジル)の言葉が頭から離ればい。「今後のフットサルはスペインの戦い方が主流になるんじゃないかな。守備を第一にして、カウンターや戦術を考えながら攻撃していくっていう」。

勝利を追い求めてあらゆる国々が組織的な守備重視のチームを目指したらどうなるのか。いちフットサルファンとしてここに危惧を感じる。

今大会の開催地・台湾の人々はフットサルに興味がないようだった。ボールが高く上がれば奇声をあげ、観客席まで飛ぼうものなら大騒ぎだ。

そんな台湾の観客も、ブラジルの試合の後には、スタンディングオベーションで彼らをたたえた。勝者になれなかったが、台湾の人々の心に刻まれたのは間違いなくブラジルだ。フットサルを知らない人でも、サッカーを知らない人でも、質の高い攻撃的なフットサルであれば、彼らを虜にするのに1試合もかからない。フットサルにはそれだけの魅力が詰まっている。

スペインの連覇によって、勝利至上主義守備的フットサルが今後の世界の主流になったら、さらにブラジルが今大会の敗戦を機にその流れを追うようになったら、それこそ世界のフットサルスタイルが大きく変わるだろう。ファンにとっては、あまり好ましくない方向に。

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