久保憲司のロック・エンサイクロペディア

『ザ・モダーン・ラヴァーズ』 世界で一番最初にオタクという人たちのことを歌ったアルバム (久保憲司) <無料>

 

ロック、本当はこんなこと歌ってるんですよ

本当はこんな歌

曲は知っていても、どんなことを歌っているか知らない曲って多いと思うんです、このコラムではそんな曲が実はこんなこと歌っていたんだよということを紹介して行きたいと思います。

町山智弘さんの『本当はこんな歌』 のパクりみたいなんですが、町山さんと同時期くらいに僕もこういうコラムをネットに書き出してまして、僕もびっくりしました。

僕はピーター・バラカンさんのロックの英詞を読むという本を読んで、恐れ多くも俺の方が面白くかけるんじゃないと思って書き出したんですけど、町山さんとドンかぶり。ロックの英詞を読む

「本当はこんなこと歌ってるんですよ」というタイトルは完全に町山さんのパクりなんですが、全然いいタイトルが思い浮かばず、いいタイトルが思いつくまでこれでやらせてください。すいません。

 

 

 

『ザ・モダーン・ラヴァーズ』 ザ・モダーン・ラヴァーズ

モダン・ラヴァーズ(紙ジャケット仕様)

というわけで、みなさんはジョナサン・リッチマンがいたザ・モダーン・ラヴァーズのことをどう思っているでしょうか?「プロト・パンク・バンドだろ」と思われていることでしょう。

またはぼくみたいに70年代後半、80年代頭にパンク、ニュー・ウェイブ少年、少女だった人たちにとってザ・モダーン・ラヴァーズはその字のごとくモーダンな感じだったのではないでしょうか?

「モーダンってなんだ」と突っ込まれそうですが、ポスト・モダンという感じです。これまた「ポスト・モダンって、何だ」と突っ込まれそうですが。簡単にいうと昔あったやつを再利用して新しく見せるというのがポスト・モダンだと僕は思います。子供の頃は全然そんなこと分かっていなかったですけどね。ただ「新しい、かっこいい」 と思っていたわけです。

音楽がパンクによって生まれ変わったように、この頃マンガにも新しい変化が生まれました。その代表が大友克洋で、他にひさうちみちお、奥平イラなどが登場した。奥平イラはそのものずばり『モダーン・ラヴァーズ』という作品集も出していたのです。だからぼくの中ではザ・モダーン・ラヴァーズとこうした動きがリンクしていたわけです。プロト・パンクと言われてましたしね。

パースペクティブキッド オンデマンド版 [コミック] 僕にとって、ザ・モダーン・ラヴァーズは奥平イラより、ひさうちみちおのパースペクティブキッドとリンクしてます。ぼくの中ではジョナサン・リッチマンというのはパースペクティヴ・キッドのような男も女もいけるエッチな人というイメージがついていました。ジョナサン・リッチマン&ザ・モダーン・ラヴァーズの頃のあのヒゲの感じですよ。スケコマシのような人かと思ってました。モノクローム・セットのビドのような人ですね。でも、ジョナサンに会ったら全然そんな人と違ってびっくりしました。お前が勝手に妄想してただけだろですが。「パースペクティヴ・キッド」が今も面白いのか僕は分からないです。興味ある方はググって見てください。

僕は・モダーン・ラヴァーズについてこんな妄想をずっとしていたわけですが、ある日ザ・モダーン・ラヴァーズを聞いているとぼくが思っていたのと違った風景が広がっていったのです。英語が分かるようになって聞いたら、ザ・モーダン・ラヴァーズって、僕が思っていた印象と全然違ったのです。

 

世界で一番最初にオタクという人たちのことを歌ったアルバム

ザ・モダーン・ラヴァーズに登場する主人公はぜんぜんモダーンじゃないんです。どちらかというとダメな人。親と一緒に住んで(これは外国では一番ダメな人のイメージなんです。映画なんかでよく出てくるでしょう。35歳くらいのオッサンがお母さんに「お茶とか持ってくんなよ」と怒鳴るあのシーン)、彼女もいないどうしようもない人が主人公なんです。

 

 

 

ゴーストワールド [DVD]ザ・モダーン・ラヴァーズに出てくる主人公は映画によく出てくる35歳のポンコツ・オタクじゃなく、大学を卒業して、2年くらいな感じですかね。まだポンコツじゃない、これから10年もしたらポンコツになるかもしれないけど、ただ単に気が弱くって、社会にうまく溶け込めない人です。『ザ・モダーン・ラヴァーズ』の曲を聞いていくとこれはオタクの人の歌じゃないかという気がしてくるのです。これは世界で一番最初にオタクという人たちのことを歌ったアルバムという気がします。親と一緒に住んで、古いアメリカのものが好きで、今の社会にコミット出来ない感じ、そして、気が弱いから好きな彼女に電話も出来ないんです。今だと映画ゴーストワールドのスティーヴ・ブシュメが演じたブルース・レコードのコレクターの人ですよ。もしくは「40歳童貞男」のスティーヴ・カレルですよ。

このアルバムが録音された71年から73年はヒッピーの夢は崩れたとはいえ、まだアメリカは新しいアメリカの気持ちが完全に消えたというわけではなかった。フリー・セックスだとかみんな自由勝手にやっていたわけです。でも、それにノレない人たちがいたわけです。そういう人たちの歌なんです。

2曲目「Astral Plane」なんか名前からしてピンク・フロイドみたいな歌かなと思っていたら、これは公園にある遊技の名前なんです。夜一人で寝ている時、好きな彼女がそのAstral Planeに来てくれないかなと願う歌なんです。来てくれないないと気がくるちゃうという歌なんです。「お前は中学生か」と思わずツッコミたくなります。願うだけじゃ来てくれないよ、告白しないと。

僕が一番好きな曲はデラックス・エディションに入れられた「I’m Straight」です。歌はこう始まります。

”今日、三回この番号に電話したけど、怖くって切っちゃた”

どこに電話しているかというともちろん、好きな彼女の所です。でも、ワン・ギリしてたら、キモいって思われるだけですよ。主人公が彼女に何を言いたいかといいますと、彼女の彼氏ヒッピー・ジョニーはいつもトンでいる、そんなやつと付き合うな、僕みたいなシラフ(Straight)のやつと付き合えと言いたい。でも、言えないという歌なのです。うわっーーーーー。でも、泣ける。

 

 

ザ・モーダン・ラヴァーズのこの弱くってオタクな感じって、何に似ているかというとザ・スミスだと思うんです。モリッシーからジョナサン・リッチマンの名前はあまり出てこないですけど、彼がザ・スミスを作るときに雛形にしたのはザ・モダーン・ラヴァーズのこのデビュー・アルバムかなと僕はよく思います。

ザ・スミスの「ガールフレインド・イズ・コマ」はザ・モダーン・ラヴァーズの「ホスピタル」と全く同じ設定です。彼女が病院で大変な状況になっている。どうもそれは主人公の所為みたいだ。何が起こったのかは分からない、ただ病院に向かうという、ドラマのワン・シーンのような歌です。

 

 

 

ザ・モダーン・ラヴァーズとスミスに僕は同じ空気を感じるのです。ジ・モダーン・ラヴァーズやスミスの前には誰もオタクの人の気持ちを歌ってくれる人なんかいなかったのです。

 

 

tags: Jonathan Richman Steve Buscemi Steve Carell The Modern Lovers The Smith ひさうちみちお 奥平イラ

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