久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ビヨンセ 『Lemonade』 -なぜレモネードかというとJay-Zのおばあちゃんの90歳の誕生日パーティーのスピーチからきている(久保憲司)

Lemonade

 

すいません、「今週のヘッドハンター」またしても大物です。しかも結構リリースからずれております。でも、なんかあんまり話題になっていないようなので、書かせてもらいます。ビヨンセの6枚目『Lemonade』です。しかも完璧なビジュアル・アルバム。

日本の人にとってはこのアルバムなんじゃということになっているんですかね。スーパーボウルでこのアルバムからの一曲目のシングル「Formation」をブラックパンサーのファッションで決めたから、何か怖いと思われているのでしょうか。僕にはかっこよかったですけどね。

 

 

貴方だけを愛して+3でも、僕も『Lemonade』は政治的なアルバムになるのかなと思っていたのですが、アレサ・フランクリンの名盤『貴方だけを愛して』に匹敵する傑作アルバムだと思います。いや、それ以上でしょう。『貴方だけを愛して』は恋に生きる女性のアルバムだったけど、これは恋も人生もすべて終わった女性へのアルバムでもあるからです。すべての女性に対してへのメッセージですね。女性の強さ、包容力の美しさを音楽にしたアルバムです。

簡単に言っちゃうと「Jay-Z、あんたが浮気してようが、どうでもいいわよ、私は私として生きていくのよ、あんたが帰ってきたかったら、別に受け止めてあげるけどね。私は私なのよ」というアルバムなのです。フェミニズムの人までちゃんと視野に入れたアルバムです。今のディズニーの女性のテーマですよね。もうプリンスを待つプリンセスの時代じゃないのよ。「レット・イット・ゴー」アナ雪ですよ。

今のアメリカの若手、マイリー・サイラス、アリアナ・グランデ、なんかにはできない感じです。彼女らが必死でエロさを出しているのは、今のアメリカの若い女性がすごくエロくなっているから、そのマーケットを狙っているのかなと思っていたんですけど、女性の自立を出したいという気持ちがエロさを出してしまっているんだと思うのです。

分かりにくい例えかもしれませんが、ドラッグ・クィーンの人たちが演技をするとすごくエロくなるじゃないですか、笑わそうという意味もあるとは思うんですが、ドラッグ・クィーンの人たちって、実は乙女で、純情、ステージの袖では寂しく泣いているみたいな感じです。

すいません、余計分からなくなったですか。

今のアメリカの女子はスケベになっているなんて大変失礼なことを書いてしまいましたが、日本だと腐女子や萌えなどだと思います。男女平等だと言われながらも、実はいまだに何も変わっていないこの男性社会、いや、男根社会の中での女性たちの気持ちの表れがアメリカだとエロ、日本だと腐女子や萌え何だと思います。

女性がエロをしても問題ないじゃないですか、今の世の中エロいなと男がいいよっていったらセクハラですよ。まだレイプ裁判で、女性がミニ・スカートを履いていたから、合意の上だったとか弁護するんですかね。そんなこと間違っているすよ。女性がどんな服着てようと自由じゃないですか、その中身の女性が好きか、嫌いかで全部決まるんじゃないですか、そして、その女性の気持ちが全て優先するんじゃないでしょうか、男がこう思うとかどうでもいい話じゃないですか。

今のアメリカの女性論になりましたかね、なってないですね。ビヨンセに戻ります。

ティラー・スイフトはこんな状況についていけないと休業しましたが(恋愛問題でゴタゴタすると予想して、先手を打っていただけかもしれませんが、ティラー恐ろしい)、ビヨンセはこんな時代の中でこれが女性よというアルバムを作ったのです。

アレサ・フランクリンの『貴方だけを愛して』のイメージも彼女の中にあったんでしょう。恋のアルバム『貴方だけを愛して』のラストがサム・クックの政治的な「チェンジ・イズ・ゴナ・カム」で、終わるように、黒人の命を大事にしなという「Formation」で終わるところとかニクイです。

ビヨンセ並みのスーパー・スターじゃないです。よく考えられてます。黒人の人は、本当に鋭いなと思います。カニエ・ウェストとか考えすぎて頭おかしくなってますけど。

このビヨンセのビジュアル・アルバムの元ネタ、絶対、カルト映画「恐怖の足跡」です。「シックス・センス」の元ネタ、ゾンビ映画のジョージ・A・ロメロに多大な影響を与えたカルト・ムービー、よっぽどの映画オタクじゃないと知らないです。映画オタクじゃない人にはシックス・センス、ゾンビ映画というキーワードで「B級ね」って、思われてしまいますが、「恐怖の足跡」、ジョージ・A・ロメロの凄さって、ホラー映画をアート・シネマのように撮っていることなんです。「シックス・センス」はだだのパクリですが。ゴダールやベルイマンと同じ空気を感じるんです。ビヨンセのこのビジュアル・アルバムもそうですよ。

 

 

このビジュアル・アルバムで一番話題になっているビヨンセがバッドで車を壊しまわるシーンなんて現代アーティストのピピロッティ・リストのパクリ、失礼、影響ですよ。ピピロッティ・リストのテーマも『レモネード』と一緒ジェンダー、性、人体ですよ。監督がこれやろって言ったんですかね。それともカニエ・ウェストのように調べまくって「これかっこいい、やりたいわ」ということになったんですかね。ビヨンセが「恐怖の足跡」もピピロッティを知っていたら惚れてしまうわ。

 

 

「恐怖の足跡」のように、亡霊のような黒人女性たちの間を浮遊しながら、ビヨンセは黒人女性の歴史と黒人女性が何なのかということを伝えようとしている。

もちろん、これは黒人女性だけの話じゃないですけどね。それはビヨンセが黒人女性なだけだからです。私を伝えようとしているのです。

なぜ、このアルバムが『レモネード』かというとJay-Zのおばあちゃんの90歳の誕生日パーティーのおばあちゃんのスピーチからきている。

 

続きを読む

(残り 689文字/全文: 3109文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

tags: Aretha Franklin Beyoncé Kanye West Miley Cyrus Taylor Swift

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ