『Coloring Book』 チャンス・ザ・ラッパーはレコード会社と契約せずに、これからもフリーでみんなにミックス・テープを配る (久保憲司)
前回の「今週のヘッドハンター」で、今一番若者の間で愛されているシンガーはフランク・オーシャンだと書きましたが、今一番のラッパーといえばチャンス・ザ・ラッパーだ。
というわけで「今週のヘッドハンター」はリリースから少し経ってしまったが、チャンス・ザ・ラッパーの3作目のミックス・テープ『Coloring Book』です。この作品、なんとCDとかでリリースされません。ストーリミングのみです。みなさん、ただで聴けます。僕はitunesで聴いてますが、DatPiff から普通にダウンロードなどできます。一枚目のミックス・テープ『10 Day』2枚目『Acid Rap』もゲットできます。
チャンス・ザ・ラッパーは、今や普通にメジャー・カンパニーと契約できるアーティストなんですが、「ミックス・テープをフリーで配ることがヒップホップの精神だ」と、レコード会社と契約せずに活動をしていくことを決めました。『Coloring Book』に入っている「No Problem」という曲はメジャーに行こうかどうか悩んでいる彼の葛藤が歌われています。エイミー・ワインハウスのドラッグの更生施設に行こうかどうか悩む「リハブ」に匹敵する名曲です。レコード会社と契約しなくっても大丈夫だろとラップするのが泣けます。
チャンス・ザ・ラッパーはレコード産業が産業として成り立って初のレコード会社の力を一切借りずにスターとなった人です。結構画期的なことなんですが、あまり日本では話題になっていないですね。日本からも彼みたいな人が登場するのか、気になります。
フランク・オーシャンも彼を見習って、次作からはメジャーと契約せずにやっていくみたいです。ミックス・テープのみでやっていくんですかね。前回の「今週のヘッドハンター」で『ブロンド』が傑作と書いたんですが、やっぱり彼の本領といえばイーグルス「ホテル・カリフォルニア」やコールドプレイ「ストロベリー・スィング」を完全にパクった、パクったというか替え歌、しかも元の曲を完全にディスっているようにしか聴こえない「アメリカン・ウェディング」「ストロベリー・スィング」のような曲だと思うので、そんなのが有名になった今もストリーミング上では許されるんだろうか、楽しみです。フランク・オーシャンの次のミックス・テープはすごいことになりそうな気がします。
チャンス・ザ・ラッパーとフランク・オーシャンは対になった感じなんです。フランク・オーシャンはOdd Futureの一派なので、本当はタイラー・ザ・クリエイターと対になるべきなんですけど、タイラー・ザ・クリエイターは少し失速気味です。タイラー・ザ・クリエイターが『Goblin』 をリリースした時はニルヴァーナのカート・コバーンみたいな自虐的なやつがついに黒人からも出てきたぞ、こいつはとんでもないことになるぞと思ったんですけど、僕の予想は見事に外れました。ダークすぎたんですかね。
フランク・オーシャンも暗いんですが、ダークじゃないです。暗いって言葉もちょっと違います。落ち込んだ感じっていうんですかね。寝る前にこのまま人生終わっちゃうじゃないかなと感じるあの感じ、でもそれがなんとなく気持ち良いという。分かります?僕は51歳のオッサンなんで、本当にこのまま人生終わるんですが、若い頃はそういう落ち込みをちょっと気持ちいいな、その落ち込みの中を浮遊する感じ、しませんでした?フランク・オーシャンの歌、音を聞いているとそういうのを共有して楽しむ共犯者の気持ちよさがあると思うんです。
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