久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ロードのセカンド『Melodrama』にやられました。年寄りはこれを聞いて元気をもらうんです (久保憲司)

 

ロードにやられました。デビューの頃は美しいけど、女の子というより、女性、女性していて、重いかなと思っていたのですが、セカンド『Melodrama』、吹っ切れた感じでいいです。

 

 

 

ロードは自分のことをロード=神様、王様と名乗る人ですから(ロードは男ぽいイメージだからと、Lord にe をつけて女性ぽくしているそうですが)、ステージを見ていると、自分を完全に王のように感じているような気がして怖いです。美少女スターと憧れていたケイト・ブッシュが突然「Babooshka」を歌った時と同じ怖さを感じます。ケイト・ブッシュの方は今は慣れて、これはうる星奴らのラムちゃんかなと思うようにしています。これって一番最初のオタク・アイドルなんじゃないですかね。

日本でこういうタイプの女性シンガーだとどこか巫女さんのような天然の部分があって僕はいいなと思うのですが、西洋の人がやると神がかりというより、ゲーム・オブ・スローンズのような血塗られた王家の歴史、人工的な感じがするのです。てなことをロードに感じていたのですが、『Melodrama』はTVドラマのガールズみたいにすごい下世話な恋歌みたいで、いいなと思ったのです。

『Melodrama』、悲しいけど、聞いていると元気になります。このごろの音楽は暗いのが多いですけど(例えばフランク・オーシャンみたいに金持ちの家で一人寂しくTVゲームをする感じ)、ロードはちゃんと遊びに行ってます。別れるかもしれないけど、男友達とお酒を飲みに行ってます。

『Melodrama』どんなことを歌っているか全曲解説してみたいです。

 

「Green Light」

失恋して、悲しくって、ヨッパラッて、寝て、起きたら、すべて良くなっているかなと思ったけど、でも全然良くなっていなくって(そりゃそうだ)、でも分かるよその気持ち。楽しい音楽の感じと人生ごちゃごちゃという感じが見事にブレンドされた曲、ただただ信号が青になったらいいと願うのです。

「Sober」

恋の終わりをシラフと例える。“ヨッパラッている時は二人はキング&クィーンだったけど、冷めてしまえば… ”恋なんてそんなもの。恋をしている時は世界は二人のためにあるのに。

「Homemade Dynamite」

“恋の達人もどこに飛んでいくか分からない。私も”というベタな出たしから始まる。“恋にルールも夢も全部意味ないというか、全てが危険、私たちの友達も、このお酒も、私たちが影響されるものも、全部お手製ダイナマイトみたいなもの、ちょっとのことで爆発して恋は終わってしまうのよ”これまた分かる。

「The Louvre」

私たちはルーブル美術館を走り回るかっこいいカップル。そんなカップルかっこいいと思う。私の半分の服は、あなたのベッドルームにある。でもきっとこのカップルも別れるんですよ。夏が終われば。

「Liability」

どことなくデヴィッド・ボウイの「ライフ・オン・マース」なメロディですな。この曲はリアーナの「Higher」 をタクシーの中で聞いていたら、涙が出たきて、浮かんだそう。「Higher」がどういう歌かというとアーティストとしてもっと上にいきたいと願う歌。“もっとクリエティブになれたら、もっとポエティックな歌詞が書けたら、でも彼女が本当に望んでいるのは今この部屋の上で、愛している人が待っていてくれて、その人とだけ愛し合いたいと願うこと” 泣けるな、ロードもそうしたいのだろう。そして、彼女は自分がただみんなのおもちゃだということもよくわかっている。“きっとみんなは私が太陽の中に消えていくのを見ているんでしょう”と終わる。

「Hard feelings / Loveless」

3年間付き合った彼氏との別れを歌った歌。

「Sober  Ⅱ (Melodrama)」

外人の女の人って、喧嘩した時、「メロドラマみたいな事はやめて」ってよく言うんですけど、そういう歌ですね。割れたシャペングラスを片付けながら、メロドラマみたいだったらいいのにね。でも現実はホラーなんです。

「Writer in the dark 」

“あなたは出て行く、そして、誰かのいい人になる。

私は違うからね、あんたみたいにいい人じゃないからね” ハハ、最高ですな。キャロル・キングは別れた男に、“これでいい友達が出来たね”と歌ったのに、ロードは知るかボケ、あんたを一生恋してやるぜと歌う。ホラー。“あんたが暗闇で作家(私)にキスしたことを後悔させてやる” 恐怖ですな。“私はあんたの母親だよ、あんたの息が止まるまであんたを愛するんだよ”イタリア人か、結婚しても半分以上のカップルが別れているんですよ、そんなに思いこまなくっても、今の子ってどうなってんでしょうね。いやこれが恋なんですよ。彼氏は“あんたなしでもやれる方法を考える、ベイベー”って言ってますけど、無理ですよね。

「Supercut」

スーパーカットどういう意味かよくわかんないけど、ロードにとって理想はスーパーカットなんでしょう。スパッといくということでしょうか、何があろうと、どんなだけ揉めてようと、スーパーカット、それで解決、それが二人の関係

「Liability ( Reprise ) 」

あんたどうするの という歌。

 

 

最後の歌「Perfect Places」はロードの気持ちだけど、みんなの歌でしょう。

 

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tags: Kate Bush Lorde

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