『キャロライン・セイズ 2』 ルー・リードは、最後まで神とい戦い、神様の与えてくれた人生をちゃんと使いきった (久保憲司)
ロック史上一番美しく、悲しく、切ない歌といえばルー・リードの「キャロライン・セイズ 2」でしょう。
たぶん、ほとんどの人がこの意見に賛成だと思います。
どうですか?
でも、誰もこの歌がどんなことを歌っているのか知らないのではないでしょうか?キャロラインは僕たちに何と言っているのでしょう?
子供の頃は「キャンディ・セイズ」「ステファニー・セイズ」「リサ・セイズ」「キャロライン・セイズ 1」「キャロライン・セイズ 2」とタイトルも曲調も似たよう曲が一杯あってややこしいわ、こんなグダグダはダメなアーティストだ、しかもステージでヘロインを打つ真似とかしている写真を見て、ルー・リードというのは2流のアーティストだろと思ってました。
ロック・バーなんかで出会うルー・リードが好きという黒い服とサングラスのロック兄ちゃんがダサいんですよね。いまだとお前ルー・リードのこと何も分かってないと言えるんですけどね。
音楽業界で一番性格の悪い人間と言えば野間易通さんだと思うんですけど、ルー・リードみたいなおっさんです。皮肉屋で。根は一番優しいと思いますが。僕はこのちいさいおっちゃんに『ローデッド』という写真集の発売記念でトーク・ショーをお願いしました。
野間さんは『ローデッド』というタイトルはヴェルベッド・アンダーグラウンドのアルバム・タイトルから来てると思ったみたいで、『ローデッド』の一曲目「フー・ラブ・ザ・サン」をかけて、僕の「いやールー・リードいいですね」という感想を待ってたんでしょうね。僕は「野間さん、『ローデッド』から選ぶとしたら、普通ルー・リードが歌っている曲選びません。これ、ダグ・ユールが歌っているじゃないですか」と普通に答えました。「ルー・リードいいですね」と言おうものなら「これ、ルー・リードちゃうで」とみんなの前で赤恥をかかせようとしたんでしょう。
本物のルー・リード・ファンなら分かりますよ。この頃のルー・リードは自分の若い分身のようなダグ・ユールを入れて、自分のように歌わせて、自分は裏方になろうかと思っていたのです。ルー・リードは自分が嫌で嫌で仕方なかったのです。でも、自分が少し若がえったようなダグ・ユールが好きで好きでたまらなかったのです。倒錯してますね。他のメンバーも「(後から入った)ダグ・ユールとイチャイチャするの気持ち悪かった」と後にネトウヨになるモーリン・タッカーが言ってました。
ロック・バーで「ルー・リード好きやねん」というおっさんに出会ったら『ローデッド』かけて、ルー・リードが歌っていない時に「ルーいいな」と言おうものなら、「これルー・リード違いますよ」とギタギタにやっつけてやりましょう。ちなみにルー・リードが歌ってないのは「フー・ラブ・ザ・サン」「ニュー・エイジ」「ロンサム・カウボーイ・ビル」「オー・スィート・ナッシング」です。すごいでしょう。同じ声だし、たぶん、ほとんどの音楽評論家の人もこれ分からないと思いますよ。
世界初のオタク・ソング、もしくはジョン・レノンの暗殺を予感するような不気味な曲「ニュー・エイジ」をルー・リードが歌ってなかったって衝撃ですけどね。なぜ世界初のオタク・ソングは次回書きます。
「キャンディ・セイズ」「ステファニー・セイズ」「キャロライン・セイズ 1」「キャロライン・セイズ 2」と形を変えながらルー・リードは僕たちにどうしたら彼が言いたいことをうまく伝えられるかと一生懸命考えてきました。
その完成系が「キャロライン・セイズ2」なのです。
何を歌っているかというと死です。ルー・リードは死ぬことはそんなに悪いことかと歌っているのです。とっても危険な歌なのです。
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