久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ザ・スミス「デス・オブ・ア・ディスコ・ダンサー」…スミスは負け犬の僕たちに俺たちも生きていく権利があると言ってくれている(久保憲司)

 

 

80年代、スミスという偉大なバンドが登場した。今はライアン・マッギレーの写真に写るモリッシーを崇拝する若者たちのアイコンでしかない。これはこれで美しいし、スミス、モリッシーを崇拝する人たちの気持ちもよく分かる。けれど80年代のスミスはそれ以上の存在だった。70年代のセックス・ピストルズ、クラッシュより明確に若者の気持ちを代弁していた。

ジョニー・マーが自伝でスミスがどういうバンドだったと説明してくれている。

ザ・スミスは政治的なバンドだった。サッチャーが手順通りの冷酷な手段で国内の産業及びコミュニュティの解体に取り組んでいたことは、僕ら新世代のアーティストたちを一致団結させ、戦うべき敵を作った。爆発寸前の若者の不満。反体制の立場に立つことはいつしか許されることとなり、同様に反体制を訴えていた音楽プレスは、バンドにとって反政府発言を展開する全国的なプラットフォームとなった。文字通り、皆〈同じページに載る(つまり、同じ考えを持つ)〉ことになったのだ。

 

かっこいい!これですよ。みなさん、スミスというバンドはこう言うバンドだったのです。僕が3.11以降政治だと思ったのは、ついに日本でもこの状況が起こせると思ったのです。けれど、日本は難しかったですね。イギリスも一緒だったですけど。

一番当時の若者たちの気持ちを代弁した言葉はファースト・アルバム『ザ・スミス』の中の一曲「スティル・イル」のこの一節だ。

 

 

England is mine, it owes me a living

 

「イギリスは僕のもの、僕の生活を保障しろ」 だろう。

 

すいません、変な訳で。イギリスは僕のもの、だからイギリスは僕に借りがあるんだよの方がいいでしょうか?それとも、イギリスがあるのは僕のおかげ、だからイギリスは僕に借りがあるんだよ、でしょうか?ネトウヨが聞いたら、なんでこんなフリー・ライダーの奴のために生活を保障しないといけないんだと大炎上する歌です。ベーシック・インカムを予言した歌ともとれます。イギリスではベーシック・インカムの運動は60年代、シングル・マザーによって始まっていましたが。ゲイの人たちには、こんな国ゲイのためにも何もしてくれないだから、僕が今まで払ってきた税金返しなさいよ、ともとれる。

あの頃の僕がこの歌で感じていたのは(僕はイギリス人じゃなく、ちょっと住んでいただけですけど)、福祉国家だったイギリスがサッチャーによってどんどん権利を奪われていった時代への抗議だと思った。セックス・ピストルズみたいに「未来はない」とか「消費者を利用するんだ」とかじゃなく、スミスは負け犬の僕たちに俺たちも生きていく権利があると言ってくれているような気がした。

今の日本のための歌のような気がする。借金1200兆円というのは資産でしかないの、財政健全化しないと日本の景気は回復しないと嘘をつかれ、本当はこの1200兆円でいろんなことが出来るはずなのに、どんだけ働いても年収200万円にしかならない生活をさせられている。そんな人たちが今こそ、当時のスミスのように“日本よお前は俺に貸しがある、俺を大学に行かせたり、海外留学させたり、お店をやるために500万よこせ”と歌ってもいいと思う。

こんなこと歌っていたモリッシーがいつの間にか、体制側というか、ネトウヨみたいなことを発言するようになってしまったと思っていたが、「スティル・イル」をちゃんと聴いたら昔からそういう人だったというのが分かる。

 

 But we cannot cling to the old dreams anymore

僕たちはもう昔の夢(ゆりかごから墓場までという社会福祉)にすがることは出来ないんだ。

 

と歌っている。あの頃は金融緩和という政策が失業政策になるという意見は弱く、緊縮こそがイギリスの病いを治す唯一の方法だと思われていたのだ。「スティル・イル」には England is mine, it owes me a living に匹敵するもう一つのキラー・フレーズがあるのに。

 

And if you must, go to work, tomorrow
Well,if I were you I wouldn’t bother
For there are brighter sides to life
And I should know, because I’ve seen them

もし君が、明日、仕事に行かないといけないんだったら
僕はそんな事気にしないよ。
人生にはもっと楽しい事があるんだから

 

もう完全にベーシック・インカムを肯定しているような歌です。

 

 

 

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tags: Ken Livingstone Morrissey Niel Kinnock The Smith

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