久保憲司のロック・エンサイクロペディア

エルビス・コステロ『ディス・イヤーズ・モデル』…ステージ袖で写真を撮っていた僕のところにコステロが来て「ここは俺が初めて大阪でやった時と同じ会場か」と聞きにきました (久保憲司)

 

デヴィッド・バーン不思議な人です。デヴィッド・リンチにも似てます。両者ともすごくノンポリなようで、社会に対する怒りみたいなものを持っています。二人ともスコティッシュ系なので、WASPが支配するアメリカでは「こんな世界、僕の世界じゃない」みたいな疎外感を持っているののかもしれない。

 デヴィッド・バーンの著書『How Music Works』はその題名の通り、音楽がどのような効果を緻密に考えた本です。ダンス・ホールはこういう建物なので、こういう効果があるとか、よく考えるとどうでもいいようなことを真剣に考えている研究書、この本のバックグラウンドは音楽が人をどのように変えるかということです。要するに僕の原稿でよく出てくる言葉ですが革命です。日本の方はこんなこと考えていないですが、結構海外のミュージシャンはこんなことを考えています。

前にエルビス・コステロとツアーした時、朝ごはんを食べに行ったら、コステロが朝食を食べていたんです。今だった、「あ、どうも」と軽く会釈して他の席に座るんですが、その時はまだロック・バンドとのツアー経験も浅かったので、何となく、コステロの前の席に座ってしまったんです。僕はコステロの当時の奥さん、元ポーグスのケイティと仲がよかったので、コステロを僕の友達の旦那さんという感じで親近感を持っていたのです。僕はロンドンに住んでいた時、キング・カートの追っかけだったので、キング・カートの前座をよくやっていたポーグスは自分の弟分のように感じていたのです。

でも一番の理由は、僕の人生を変えたライブがコステロの初来日だったからです。忘れもしません。1978年11月23日御堂会館、その頃の僕はお母さんに連れられてコンサートに行っていました。母親が会場まで送ってくれて、終わったら僕をピック・アップしてくれて、母親と一緒にカレーかお好み焼きを食うか、クリーム・ソーダーを飲んで帰るかというスタイルだったのです。外国の子供みたいなことを僕の母親はやってくれていたのです。14歳になったばかりでした。この日はスコーピオンズかジェフ・ベックのコンサートと重なっていて、僕はそっちのオールド・スクールのコンサートのチケットを買っていたのですが、そのチケットを売っぱらって、パンクのコンサートに行くことにしたのです。

コステロをパンク・バンドと呼ぶのはどうかと思いますが、当時としてはグラハム・パーカー、ブロンディについでの3番目のパンク・バンドの来日だったのです。自慢になりますが、僕は全部見てます。前座はシーナ&ロケッツでした。サンハウスの人がやっているということで期待してみたいのですが、サン・ハウスの「レモン・ティー」くらいしかいい曲がなく、ストゥジーズからは百万光年も程遠いそのサウンドに僕は失望しました。

でも、会場は今まで僕が経験したことがない雰囲気に包まれていたのです。ガラガラだったのですが、お客さんがほとんど外人だったのです。僕の両隣は外人で、その人たちは子供が見に来ているとすごく親切にしてくれました。きっと英語の先生だったんでしょう。今だと「オーストラリア人か、ケッ」と差別的なことを思うのですが、当時の僕は外国のコンサート会場にいるみたいやんと浮かれていたのです。で、始まったらお客さんが全く立たずに(僕の周りは外人さんなので立ってましたが)、コステロが三曲くらいやったところで、ギターをぶん投げて、ステージを去ったのです。場内騒然です。なんでこんなことになったのか、何となくみんな理解してました。10分くらい経った頃でしょうか、コステロが戻ってきて、こう言ったのです。僕は英語が全く分からないけど、コステロの言ったことが理解出来たのです。「なんか契約上やらないとあかんみたいから、やるわ」と一言ボサッと言って、赤いストラト(ジャズマスターじゃなかったんですよね。サブ・ギターだったのか、ダイヤー・ストレィツとごっちゃになっているのか、どっちでしょう)をかきむしり、ドラムがビートを叩いた途端、お客さんが一斉に前になだれこんだのです。僕も前に突進しました。そして、これがパンクやと僕は思ったのです。この公演の前にコステロは銀座でゲリラ・ライブをやって逮捕されていたのです。あの時僕が感じたのは何があろうが、自分の好きなようにやる、それがパンク何だとということなのだと。

ホテル・オークラの日本レストランで日本の朝ごはんを食っているコステロに聞きました。「何で、あんなことしたん?」と。

 

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