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あそこまで赤裸々に心的な「生い立ち」を吐露すると思いませんでした。最初延々と続くマンチェスターへの呪詛は、読んでいて頭痛が…『お騒がせモリッシーの人生講座』上村彰子インタビュー (無料記事)

 

インタビュアー:久保憲司

 

–上村さん、今日は僕のWEBマガジンの取材に応じてくださって、ありがとうございます。『お騒がせモリッシーの人生講座』発売おめでとうございます。まずは自己紹介をどうぞ!

「こちらこそありがとうございます。フリーでライター・翻訳家をしております上村彰子です。2013年にはモリッシーのライブDVD『モリッシー25ライヴ』の字幕翻訳と解説を担当しました。『かいなってぃー』名義でブログも執筆しています(『かいなってぃーのモリッシーブログ)」

 

–本、売れているんじゃないですか?

 

「予想以上に、モリッシー・ファンじゃない方からも『おもしろい!』と言ってもらえることが多くて嬉しいです」

 

–おーっ、そうなんですか!!モリッシー・ファンじゃない方からもおもしろいと!!上村さんとしては今回の本はどんな人に読んでもらいたいんですか?

 

「スミスは好きだったけど、今はモリッシーは聴かなくなったという人にも読んでもらいたいです。確実に変わったところもあるけれど、かつて自分が好きだったスミスの精神が彼の中でどう生き続けたり、どういう風に増したりしているのか確認してほしい。『あの時のきらめき』を思い出すきっかけにもしてほしいですね。あと、最近ネガティブやセンセーショナルな発言が取沙汰されることが多いので、『モリッシーってどうしちゃったの』って気になっている人にも読んでもらえたらと思います。もちろん、クボケンさんにもすごく読んでほしかったです!」

 

–めっちゃ面白かったですよ!この本で一番言いたかったことって、上村さんとしては何なんですか?

 

「本では、モリッシーの人生というものを通して、スミス時代から一貫する彼の信念など追っていますが、『モリッシーがどんな人か』というのは、実は人それぞれ、思いは違うと思います。ある人にとっては舞台で手を差し伸べる愛に満ちた人、またはクボケンさんの写真の中で歌ってる人、またはヘンなことばっかり言ってる人…。この本によって『モリッシー』を決めつけるわけでも、言動の肯定・否定をしたいわけでもないんです。音楽や芸術ってなぜ必要かと言えば、自分と向き合うためだと思うんですよね。私はモリッシーを好きであることを通して自分と向き合ってきたので、読んだ方の人生や好きなことと照らし合わせて『おお、ここが通じる!』とか『これは使える!』なんて思ってもらえることがあったら嬉しいです」

 

–そういう本ですよね!ところでモリッシーって、なんで人気あるんですかね?

 

「自分に確信を持ってい過ぎて、みんな最初はびっくりして、そして夢中になるんじゃないですかね(笑)モリッシーのファンって、その歌や人生から『自分だけのモリッシー』を見出すんだと思います。今は情けない自分、でも前向きに生きたい自分、もっといい世界を目指したい自分…。そんないろんなエモーションを抱えた自分に、彼の歌や強さを寄り添わせて、励まされるんだと思います」

 

–なんであの人、自分に確信持っているんでしょうか?

 

「やっぱり『歌』があるからじゃないですかね。実は彼は『勝ち組』で、生身ひとつ、歌だけで、あの暗黒マンチェスターを抜けだしたという自負はあると思います。昔は雲の上の人に感じた、ボウイ、NYドールズ、パティ・スミス…あらゆる憧れの人たちと関わることに成功した、「プロ音楽ファン」ですし」

 

–ファン&ゲイの人からぶっ殺されると思うのですが、彼の自分への確信って、「ゲイ」な感じがするんですけど、それは感じられないですか?

 

「感じられないですね。むしろ、意識的に『性差』のしがらみとかセックスに囚われていない『俺スタイル』パイオニアになろうとしている気がします。ゲイでもヘテロでも、『セクシャリティ』って拠り所でもあるけど足枷でもないですか?彼は、そういう性の不自由さを逸脱している自分を、確信的に演出している気がします。あれ、クボケンさんは『モリッシー彼女いたよ、ゲイじゃないよ説』をおっしゃっていましたよね?」

 

–そうなんですよ。ルーダスのリンダーが彼女だとずっと思ってました。その後はロミに惚れて、ジョンとヨーコになろうとしているのかと思ってしまいました。ロミはガン・クラブのギター、ベースで、僕の日本人の友達の中で一番出世した奴です。モリッシーから手紙来たりしてたんですけど、絶対狙われてたんですよ(笑)!僕は『俺スタイルパイオニア』ってのがむっちゃゲイな感じしますよ。ペイパル作ったピーター・ティールとか、モリッシーと性格一緒にしか思えないんですけど。

 

「まあ『ゲイ』であれ何であれ、『俺スタイル』を確立したひとはみんな多かれ少なかれ似てるんじゃないですかね。私はいろんな人の性格や生き方から『モリッシー』探しするのも好きですよ(笑)」

 

–モリッシーの自伝を読んでいて一番の不満は、親密な関係にあった男性をなぜ好きになってなぜ嫌いになったか、全く書いていないことです。自伝を訳されて、どうでしたか?一番知りたいことをあの人何も書いてないでしょ?」

「あまり説明はしないんですよね、詩みたいに、急に自分の心に浮かんだ世界観を描く。ジェイク・ウォルターズ(フォトグラファー、パーソナル・アシスタント)に会った時のことは『突然、人生は時間のない世界になった』そして『ジェイクは頑固なまでに男らしく、色鮮やかな29年間を過ごしてきて、大胆不敵さの味もよく知っている』と書いてました。やっぱり、自分にはない色鮮やかな世界で育った男だから魅かれたんですかね。クボケンさんが自伝で一番知りたいことって、モリッシーがゲイがどうかなんですか(笑)?私が自伝で一番知りたかったのは、『茨の同盟』などで人の書いた彼の生い立ちは読んでいたので、本人からしたらどうなのかってことですね」

 

–あれ、いいこと書いてたんですね。実際に自伝で検証してみたらどうでした?

 

「過剰でした(笑)。 尋常ではない記憶力、そしてマグマのような故郷への怨念や歌うことへの執着…。あそこまで赤裸々に心的な「生い立ち」を吐露すると思いませんでした。最初延々と続くマンチェスターへの呪詛は、読んでいて頭痛が…。アイルランド人の友人が、『英語がネイティブでもあれは読めない』と言ってました」

 

–それに普通自伝では、「このエピソードがこの歌になった」とか書くはずなのにそれがまったくない。それが一番知りたいことなのに。

 

「あ、クボケンさんが知りたいのはそこなんですね。もう、それだけじゃなく、いろいろ不親切な自伝ですよ。私は能動的に『ああ、これが“Rubber Ring” につながるわけだな』とか、頭で解釈して補完しちゃってました。章立てもないし、いきなり話題は飛ぶし、Mさん(イースト・プレス上村さん担当)みたいな編集者がいないんですかね?いても手出しできないのか(笑)。あと、モリッシーはインタビューでは、『歌の解説はしない』と言っています。大いなるインディケーションだけ。だから同じく自伝でも説明はしないんでしょうね」

 

–僕もリンダーに「まだ病気?」と訊かれたエピソードが“Still Ill”につながるのかな、と思ったりしました。あの辺のエピソードすごいですよね。道を歩いていて、突然殴られて、鼻血出しながら歩くところとか。自伝で一番好きなエピソードって何ですか?僕はマイケル・スタイプとの交流が良かったですね。マイケルが歯も磨かずに、普段着のままステージに上がる姿をかっこいいと思いながら、僕には絶対そんなこと出来ないというところが。

 

「マイケル・スタイプをディスりすぎですよね。『マイケルの声はとても田舎じみたジョン・デンバーのようだ。実際彼の本名は『ジョン』だった』(笑)」

 

–そこむっちゃ良かった(笑)

 

「友達だったア・サーテン・レイシオのサイモン・トッピングがNMEの表紙になったのを見て『1000回悲嘆死して森の中に横たわり絶命しようと思った』って表現はかなり好きですね(笑)。私、家族にも友達にもよく『おおげさ!』って言われるんですけど、モリッシーにはかないませんよ。もう言葉じゃ足りないエモーションを、全部表現しようとしてくるのが好きです。そこまで言わなくても『友達が先に成功してショックでした』でいいのに」

 

–でも友達にそんなこと思うのめっちゃあかん人やん!(笑)

 

「あはは!(笑) でも、そこまでの負のエモーションを赤裸々にできるのってすごいなとも思います。歌にまでしてますよ、1992年の“We Hate It When Our Friends Become Successful”。ほんとに良くも悪くもしつこい!」

 

— そんなあかん人がなぜか、ミック・ロンソンには優しいよね。自伝に出てくるのを読むと。

 

「確かに、ミック・ロンソンとのエピソードの語り口は優しいですね。ミックが『“Rock ‘n’ Roll Suicide”のオリジナルは俺が書いたのに法的に何の見返りもなかった』と愚痴っているのに対して、『ミックは昔、世間知らずだったのだ。しかし私は、今現在もまだ世間知らずのままなので、人のことについてとやかく言えないと思った』と、書いています。他の人に対してなら、ディスりまくるとこですよ(笑)。またミック・ロンソンが亡くなり、彼について『ガーディアンに書いてくれとか、BBCレディオ1で語ってくれとも言われたが、慎みのない軽率な行為はやめることにした』とも書いていました。ボウイが亡くなった時『RIP』と言わないとか色々批判されてましたけど、本当に大切な思いとかは軽々しく口にしたくない部分もあるんじゃないですかね?」

 

–本面白かったですが、こうしてしゃべっているのも楽しいです。ほとんど訳を終えていたモリッシーの自伝、なんとか出版出来ないものですかね。もっとモリッシーのこと話したいですし、彼に関連するアーティストの話も面白いですよね。今度はお会いしてしゃべりたいです!

 

tags: Morrissey 上村彰子

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