久保憲司のロック・エンサイクロペディア

コナー・ヤングブラッド『Cheyenne』 フェスのシーズンも終わり、夜中一人で音楽を聴くことも多くなっていくことでしょう。そんな時に最適な音楽 (久保憲司)

 

 ジャン=ミッシェル・バスキアのようなドレッド・ヘアーがおしゃれな黒人アーティスト、コナー・ヤングブラッドのデビュー・アルバム『Cheyenne』がリリースされた。イェール大学出身、論文はザ・バンドについて、これはコロンビア大学出身のヴァンパイア・ウィークエンドよりも偏差値高そうです。アメリカに偏差値あるのかどうなのか知らないですけど。音はエレクトリック・アンビエントと言ったらいいのか、単純に雰囲気と言った方が分かりやすいのかよく分からないですけど、今風の感じとアコースティクな同居感が素晴らしいです。

 

 

 彼を聴いて一番比較されるのはボーン・イヴェール、スフィアン・スティーヴンスだと思うのですが、レディオヘッドのトム・ヨークのメロディ作り、ハーモニー、コード進行、テンション・コードの使い方を自分のものにしているところがなかなかおっと思わせてくれます。でも一番びっくりしたのはエヴリシング・バット・ザ・ガールのベン・ワットの歌い方と似ている曲が何曲かあったことです。特に「Red.23」なんか『ノース・マリン・ドライブ』の頃のベン・ワットな感じに涙しました。ボーン・イヴェール、スフィアン・スティーヴンスがアメリカ的だとすると、コナー・ヤングブラッドからはヨーロッパ的な匂いをよりいっそう感じます。

 

 

 

 ベン・ワット今もいけるやん。ワム!なテナー・サックスはあきませんけど。僕はそろそろこの頃のベン・ワットの感じパクり頃ちゃうと思ってたんです。エド・シーランもいいけど、こっちやろと。

 元ガールズのクリストファー・オーウェンズが「とにかくフェルト」と言ってたり、そんなポスト・パンク・バンドをユーチューブでディグしまくっていたザ・ドラムスなどの新しいバンドが、次に目をつけるのはベン・ワットだと思ってました。と思ってから10年経ちましたが。

 どうです。歌い方、エレクトリックの処理とか一緒でしょう。マルコ・デ・マルコが細野さんらの日本のシティ・ポップを掘りまくっているとしたら、コナー・ヤングブラッドは82年のイギリスのインディ・サウンド、のちに日本でネオ・アコと呼ばれるもののルーツを掘っていた感じがします。

 『ノース・マリン・ドライブ』久々に聴いたらディレイのかけ方、一人ハーモニーとか上手いんです。

 ちょっと前の音楽で一番の革新はサンプリングだったと思うのですが、今はループだと思います。エド・シーランの気持ちよさってループなんです。全部一人でやってしまう。でも多重録音じゃなく、その場でループというエフェクターを使って音をどんどんと重ねていくやり方。まずはギターのカッテングでリムズを作り、そこにギターの低音部でベースを入れ、コードを弾いて、そこにリードも入れ、伴奏が出来たら、気持ちを込めて歌を入れる。それも全部まとめてループさせて、それにハモったりする。ブルースのようで一人オーケストラな感じ、この自由な雰囲気にみんなやられたんだと思います。エド・シーランなんてこのスタイルでウェンブリー・スタジアムまでたった一人でやってしまいました。会場が千人、2千人、5千人、一万人とでかくなっていくにつれ、いつサポート・メンバー入れるだろうと思っていたら、ウェンブリー・スタジアム七万人まで一人でやりましたからね。しかも2日間ソールド・アウト。すごいです。

 

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