久保憲司のロック・エンサイクロペディア

アズテック・カメラの『ハイランド・ハードレイン』 アンファン・テリブル、恐るべき子供たちの燃えさかる炎は今聴いても燃え続けてます

 

奇跡のアルバムと言えるアルバムがあるとすれば、それはアズテック・カメラの『ハイランド・ハードレイン』だと僕は思っています。

フリッパーズ・ギターの一番の元ネタ。元ネタと言っても音楽というより彼らの精神性に一番影響を与えていると思うのです。『ハイランド・ハードレイン』を聴いていていつも思い出すのは小沢くんや小山田くんのあの孤高の精神性です。

 フリッパーズだけではないです、スミスに一番影響を与えたのもアズテック・カメラだと僕は思っています。ジョニー・マーは自伝で“どこかとても明るそうな曲のアイディアとともに目が覚めた。レーベル・メイトであるアズテック・カメラの陽気な曲がラジオでしょっちゅう流れていたことが関係していたのかも、と後で思ったものだ”こうして作られた曲があの「ジス・チャーミング・マン」です。

 「ジス・チャーミング・マン」のイントロはテレキャスターとリッケンバッカーを重ねたギター・リフでスタートする。その鳴り響くギター・サウンドこそ、多くの人が初めて耳にしたザ・スミスのサウンドだ。

とジョニー・マーは続けて書いています。あの世界を変えた音と同じものを『ハイランド・ハードレイン』の一曲目「オブリヴィアス」のアコースティックのギター・ソロに感じたのです。曲の中を飛び出しそうに走りますアコースティックのギター・ソロに感じたのです。それは一言で言うと自由でした。小沢くんだったら「解放」と叫んだんだろうか、そんな陳腐な言葉は使わないか、解き放たれたと言う感じだろうか。パンクのあのディストーションの掛かったリード・ギターとは違った自由さ、「なんでもありさ」とパンクは言っていたけど、3コードというコード進行の中で限定されたありきたりのリード・ギターとは違った何かを感じたのです。いまだとジャンゴ・ラインハルトをやりたかったのかと分かります。そして、本当にジャズをやっている人からは「あんなのジャンゴ・ラインハルトじゃないよ」と言われるのは分かっているけど、そんなの関係ない、この曲を聴いてから35年以上経つけど、今も僕の心を熱くしてくれるのです。

本当のことを言うと、初めてロディ・フレイムの演奏を見た時、弾いていたギターがオベーションで「なんでオベーションなんか弾いているんだ、イーグルスか」と失望しました。あの時代ジャンゴ・ラインハルトが弾いていたようなジプシー・ギターなんて手に入らなかったとは思うんですけど、あの頃オーベションは挫折したクソ・ヒッピーが弾く最低のギターだったのです。ベンジーもオーベションを弾いていて、なんでオーベション弾くの思ったですけど、当時はライブで弾くにはハウらないベストなエレアコだったんでしょう。でもカート・コバーンみたいに“アコーステック・セットやるのか、じゃ誰も弾いたことないエレアコ見つけるか”と誰も弾いてなかった or みんながこんなのクソ・ギターだと思っていたピック・アップの付いたマーティンのようなギター探して欲しかった。それかベン・ワットが弾いていたような古いギブソンのアコースティク弾いていたらもっとカッコよかったのにと思っていたのですが、お金もなかったんでしょう。ベンみたいに大学生をやっていたら生活費は親か政府が出してくれるでしょうけど、ロディ・フレイムみたいなチンピラはインディ・レーベルからの少しの利益など、生活費に消えて、ギターを買う余裕などなかったのです。

ロディ・フレイムは絶世の貴公士というイメージがあるかもしれませんが、実は結構不良なんですよね。僕が初めてこの人は柄が悪いなと感じたミュージシャンなのかもしれません。のちのストーン・ローゼズやオアシスなんかと似ている感じがしました。みんなパンクとか言いながらちゃんと大学とか言っている人が多いんです。僕も学校とか全然行ってないので、すごい共感を持てたのです。ロディ・フレイムを初めてインタビューした時、彼はラフ・トレードまで歩いてきたんです。30分くらい歩いてきたのかな、何分歩いてきたか忘れたんですけど、お金が一銭もなく、レコード会社まで歩いてきて、それでお金をもらって帰るというような生活をしていたんです。ブリティッシュのミュージシシャンは誰もが簡単に失業保険がもらえて羨ましいなとほとんどの人が思っていると思いますが、もらえる額って大体毎週一万円くらいで、政府は餓死しないようにとただ食事代を配っていたようなものです。そんなものみんなもらったその日にパブに行って半分以上使いきってました。当時のアーティストはそんな生活をしていたのですが、そんないい加減な人たちばかりですが、取材日の交通費くらいはセーブしていたものです。ロディに初めて会った時、僕が思ったのはこの人は明日必要な100円もセーブ出来ない人なんだと思ったんです。僕も当時貧乏だったので、彼の気持ちはよく分かるんですけど、明日必要な金くらいはおいているなと、もしくはタクシーで来て、レコード会社に払わせるとかするのにと思うんですけど。彼が一番最初にデモ・テープを作った時にスタジオのお金を払ったら帰りのお金がなくなって、3人で機材を背負ってとぼとぼ歩いて帰ったというエピソードがあるので、彼のネタなのかもしれないですけど。

 

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