久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ビリー・アイリッシュ『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』・・・全米・全英1位を獲得のデビューアルバムを全曲解説。やっぱり天才少女現るということですか!

 

ビリー・アイリッシュのデビュー・アルバム『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』が全米・全英1位を獲得しました。現在は全米1位はヴァンパイア・ウィークエンドの新作『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』ですが、なかなか健全な音楽シーンです。

というわけでビリー・アイリッシュのデビュー・アルバム『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?(When We All Fall Asleep, Where Do We Go?)』全曲解説したいと思います。

『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』とはかっこいいタイトルですね。ヴァンパイア・ウィークエンドの『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』といい、僕たちは夜の世界に生きているというか、ネット(幻想)の世界にしか生きられないんだということを暗示しているかのようです。

ヴァンパイア・ウィークエンドの1位は嬉しいことですが、ビリー・アイリッシュの1位はナイン・インチ・ネイルズ、マリリン・マンソン、2パック、ドクター・ドレ、レディ・ガガなどを成功させたインタースコープとしては当たり前のことなんだろうなと思います。

ダークでヘヴィな音楽がビック・ビジネスになると目をつけたジミー・アイヴォンは天才なのです。

その後、ジミー・アイヴォンはドクター・ドレと組んでヘヴィな音とオシャレを楽しめるヘッドフォン「Beats」を作ります。本当に一貫しているんですよね。偉いと思います。

自分がこれだと思ったものをとことん推し進めてビジネスにする才能、しかもアップルなどの新しい会社とも対等に渡り合ったビジネスセンス、すべてのレコード会社がコンピューター会社にひれ伏したなか、勝てはしなかったが、対等に渡り会えたのはジミー・アイヴォンとドクター・ドレだけです。

でもアップルがビーツを買収し、ビリオネアになれる前日の深夜、浮かれたドクター・ドレはアップルの買収を酔っ払って動画配信、契約はご破算かとみんなが思ったのですが、一応滞りなく終わった。この一連の騒動は音楽を一生懸命やってきたドクター・ドレが「俺がビリオネアになるのは音楽ではなくヘッドフォンかよ、しかもアップルに買収、このクソが」という怒りがどこかにあったのだろうと思っていました。

日本だとそんなにビーツが話題になったことはないですけど、海外だとビーツ狩りが行われるほどの大ブームだったのです。

ジミー・アイヴォンの一番の負の遺産は、政治家からギャングスタ・ラップの歌詞の問題を指摘されても、「これはエンターティメントだから」と野放しにしたレイ・チャールズの頃から音楽業界に携ってきた上の世代を、「これはあんたらの世代の頃とは全然違う、本当にヤバい状況だから何とかしないと大変なことになる」と説得出来なかったことです。彼の予想通り2パックとビギーの死を産み、違法ダウンロード問題を解決しようと音楽業界が政治家に助けを求めた時、「俺たちの意見は聴かなかったのに、自分らが困った時だけ助けを求めるのかよ」と真剣に取り合ってもらえない原因でした。これが音楽業界の息の根を止めたのです。

そんなインタースコープだから、18歳のビリー・アイリッシュをカート・コバーンのような状況に持っていかないかと心配することもあるんですけど、インタースコープの体制もジミー・アイヴォンが仕切っていた頃とは全く変わっているので大丈夫だと思います。

「ダボダボの服を着るのは全部見せたくないから」というビリー・アイリッシュはこの辺のことはよく分かっていると思います。

1曲目「!!!!!!!!」このアルバムがどういうものかビリー・アイリッシュは宣言してます。“私に見えないもので作ったのがこのアルバムです”と。私に見えないものってなんなんでしょう。亡霊?自分の生霊?もう一つの自分でしょう。

2曲目「バッド・ガイ」の解説はロック、本当はこんなこと歌ってるんですよに書いたのですが、この曲はニルヴァーナの「ポリー」と同じような曲です。レイプされた女性が鼻血を流しながらレイプした奴に「あんた、自分を強い男と思っているんでしょ」と負け惜しみ言っているような映画のシーンによくあるような歌です。ニルヴァーナの場合はレイプ犯の目線で歌いボブ・ディランに「あいつはガッツがある」と言わしめた名曲ですが、それに匹敵します。でもこの曲が怖いのは最後はビリー・アイリッシュがレイプ犯になっているかのように歌っていることです。バッド・ガイがビリーに憑依して、自分を犯したレイプ犯を殺しているかのような狂気な感じで終わるのです。この曲、普通の3コードなんです。カントリーとかにも出て来そうな。キーがメジャー、マイナー療法で解釈されるのもこの曲のミソです。Am、Cm、 D7というマイナーで弾くとカントリーとかに出てきそうなメドレーに置き換えられそうです。

 

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