久保憲司のロック・エンサイクロペディア

スターリン『ロマンチスト』・・・遠藤ミチロウさんが歌った通り、今の若者たちはイストが大嫌いです。「誰も政治から逃れられない」「政治じゃない歌なんかない」と言っても誰も聞いてくれません

 

『バンドやめようぜ! -あるイギリス人のディープな現代日本ポップ・ロック界探検記』の著者イアン・F・マーティンとトーク・ショーをしました。ヒカシューやあふりらんぽなどの変わった日本のロックが好きだから、インディ・オタクな人かなと思ってたら、とっても左翼な人でびっくりしました。

僕がNME(ニュー・ミュージカル・エキスプレス、イギリスの音楽雑誌)で仕事をしていたと言うと、NMEで好きなライターはスティーブン・ウエルズだと言う。スティーヴン・ウエルズというライターは音楽の話は一切書かずに、政治の話しか書かない男として、 NMEでも扱い難い男として有名でした。僕はニール・ティラーのようなC85をコンパイルしたライターが好きと言うだろうと思っていたから面食らいました。

イギリスの音楽雑誌なんか全てリベラルだと思うでしょうが、基本はイギリス至上主義なんです。だから僕みたいなイギリス人じゃないカメラマンにはいい仕事は回ってこない、いや仕事をくれない。仕事を振ってくれるのはスティーヴン・ウエルズみたいなハード・レフトの奴や、ニュージランド出身の編集者(名前忘れてしまった)なんです。僕をNMEに入れてくれたのもニール・スペンサーのような左翼的な人が編集長だったからです。その時の副編集長は右よりの男、すいません、こちらも名前を忘れた。ニール・スペンサーがやめたら自分が編集長になれると思ったけど、なれなかったからので、右寄りで格が下のサウンズの編集長になった人物です。NMEが左翼、リベラルで、サウンズが右寄りなんです。音楽雑誌に思想性があったって凄いでしょう。でもNMEはオイ・パンク(スキンヘッズのパンクです)を取り扱わなかったですけど、サウンズはオイ・パンクを大プッシュしたのです。

多分これを読んでいる人は右とか左とかどっちでもいいと思っている人がほとんどだと思います。僕もそうです。でも1978年生まれの41歳のイギリス人のイアンがまだこういう政治性を持っていたのかと嬉しくなったのです。

イアンが16歳とか17歳の多感な時のイギリスはクール・ブリタリアという動きがありました。それと連動するようにブラー、オアシスというブリット・ポップという音楽があったのです。

ブリット・ポップという音楽についてはまたの機会に詳しく書きたいと思いますが、ブリット・ポップ、クール・ブリタリアの背景に何があったかということを簡単に説明すると、イギリスには保守党と労働党という政党があるのですが、保守党はお金持ちの、労働党は労働者の政党です。昔イギリス人のアーティストが今反トランプと言うように反サッチャーと言うのはサッチャーが保守党の党首だったからです。

マーガレット・サッチャーが何をやったかと言うと、政府による富の集権的再配分によって積極的な福祉政策と弱者救済を行うという福祉国家のモデルの解体です。

今日本で起こっていることが70年代から80年代のイギリスで行われたのです。

そんな保守党を倒して労働党に政権を取らせようと、ポール・ウェラーやスティングといったミュージシャン達がレッド・ウェッジというロックによる選挙運動というか労働党をなんとか勝たせる運動をやり始めたのですが、全然うまくいかなくなっていたわけです。それでみんなもう勝てないやと、エクスタシーをやって踊ったりしてうつつを抜かしていたわけです。

そうやっていると、労働党が勝てる見込みが見えて来たわけです。若い労働党の党首トニー・ブレアの登場です。彼は新しい労働党の方針“第三の道”を立ち上げ、それを旗印に労働党を躍進させ、首相にまでなったのです。この新しい労働党のヒーローにオアシス、パルプのジャービス・コッカーなどがサポートします。今までレッド・ウェッジで上手くいかなかったのに、上手くいったのです。新しい首相はその就任式にアーティスト達のサポートに敬意を評してオアシスなどのメンバーも呼びました。クール・ブリタリア勝利の瞬間です。でもブレア首相が提示した第三の道とはサッチャーの政策とほとんど変わらない新自由主義者の政策でしかなかったのです。労働者の勝利につながると思ってたくさんのアーティストがブレアを応援しましたが、結局新自由主義のモンスターを生んだだけだったのです。

これがイギリスのアーティスト達の一番の政治離れを生んだと思います。モリッシーの一連の発言にはこの歴史の影響もあると思います。

でももちろん、みんながみんな政治離れをしたわけではありません。今もたくさんのミュージシャンが労働党からジェレミー・コービンが新しい首相になることを応援しています。そしてジェレミー・コービンが弱者のために戦ってくれると信じています。僕もイギリス人じゃないですけど、ジェレミー・コービンを応援してます。トニー・ブレアの労働党には失望しましたが、まだまだ労働党を応援しますし、極右政党に答えがあるかのように極右政党のバッジをつけたりしません。

僕は日本の場合だと、自民党を左の政党に変えるのが一番いいんじゃないかと思っています。昔、アメリカの共和党と民主党がガラッと入れ替わったように、自民党をリベラルな政党に変えるのが一番手っ取りばやいと思うんです。経済界より力が強い票をたくさん持っている民衆ですよ。経済界に勝てるに決まってるじゃないですか。自民党は民衆の票を集めて、政権を取って、民衆の喜ぶ政策をしているふりしながら、お金と票を持っている経済界が一番喜ぶ政策をやっているんです。この部分を変えたらいいだけでしょう。もっと民衆の為になる政策をやって、経済界が喜ぶ政策は二番目に持ってきたらいいのです。

話がそれました僕が嬉しかったのは、青春時代をクール・ブリタニアど真ん中で育った中年のおっさんが今も政治に関心を示してくれるのが嬉しかったのです。

僕らの世代のせいでボロボロになったのに、まだ政治に期待をしている。いや、政治以外期待するものはないんですけどね。そんな彼がスターリンの「ロマンチスト」と言う曲は酷い曲だと言うんです。

 

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tags: THE STALIN イアン・F・マーティン ザ・スターリン 遠藤ミチロウ

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