久保憲司のロック・エンサイクロペディア

INU『メシ喰うな』・・・これこそパンク。日本ロックベスト・アルバム3に入る傑作

 

日本ロック史に残る名盤INU『メシ喰うな』、これこそパンク。はっぴいえんど『風街ろまん』・フリクション『軋轢』とともに日本ロックベスト・アルバム3に入る傑作です。

パンクですから『メシ喰うな』が歌っていることは『軋轢』と同じことを歌っています。

しかし『軋轢』はベース、ヴォーカルのレックさんとドラムのチコ・ヒゲさんがNYから帰ってきたこともあり海外の目線が入っています。

海外から帰ってきたとあっさり書きましたが、彼らがいたのはNYパンクというか、NYパンクのその後、当時世界の音楽の最先端ノー・ウェイヴ・シーンにいたのです。

ノー・ウェイヴとは何かと一言で言うとロックからの離脱です。ロックが何かというと一言で言うとブルースなわけです。カントリーは、クラシックは、キャバレー・ミュージックはという声が聞こえてきそうですが、ここではひとまず置いておきましょう。でも基本一緒ですけどね。

ブルースから発展したジャズ、ロックン・ロール、ソウルの否定なわけです。他の言葉で言うとロックの王者レッド・ツェッペリンの否定なわけです。パンクがやろうとしたことはビートルズから始まって、レット・ツェッペリンで頂点を極めたロックへの挑戦だったわけです。

でもやっていることはレッド・ツェッペリンと同じ3コードでドン、タン、ドン、タン2泊目と4泊目を強調したブルースなわけです。同じ構造で踊らすわけです。パンクを始めたテレビジョン、ラモーンズ、パティ・スミス、トーキング・ヘッズ、どれもツェッペリンと同じフォーマットを使ってやっているわけです。そういうのを「お前パンクといいながら何も変わってないじゃないか、生ぬるいわ」とやりだしたのがジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ、ティーンエイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークス、DNA、マーズの連中です。この人たちがやったのが白人が認めたブルースの否定、別の言葉でいうと西洋社会からの離脱を試みたのです。

レックさんはティーンエイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークスに入り、ヒゴさんはジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズでドラムを叩いた。二人はNYで起こった新しい音楽パンクというものはどんなものか吸収しに行く気分で行ったら、最先端の音楽を一緒に作ることになってしまったのでしょう。

ノー・ウェイヴという音楽がどういう音楽かはまたの機会に詳しく説明しますが、彼らの思想性がどういうものだったかを、リバプールのネオ・サイケ・バンド、ティアドロップ・エクスプローズにいたジュリアン・コープという人が『クラウトロックサンプラー』『ジャップロックサンプラー』というドイツのロック史の本、日本のロック史の本で、“なぜドイツと日本のロックにはノイズが多いかというとそれは連合軍に負けた敗戦国の音楽だから、自分たちを否定した西洋の音楽を認めることが出来ず、ノイズに走るしかなかった”と書いています。それと同じことがNYパンクの後でも起こったのです。

 

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