久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ギャング・オブ・フォーの名盤『エンターテイメント!』 ・・・ワイヤーと並ぶ超重要ポスト・パンク・バンド [全曲解説]

 

ワイヤーと並ぶ超重要ポスト・パンク・バンド、ギャング・オブ・フォーの名盤『エンターテイメント!』の全曲解説です。来日して、このアルバムの完全再現ライブやるみたいですね。

『エンターテイメント!』は何が重要だったかというとパンクの精神でファンクをやったことにあると思うのです。しかもそのファンク・ビートに合わせて過激なメッセージを載せていたのが決定的だったのです。

僕が初めて海外でライブを見たのがギャング・オブ・フォーでした。82年です。ロンドンについて、泊めてもらう知り合いの家に行ったら、「ライブの情報はここから得るのよ」と渡されたのがNMEという週間音楽新聞でした。もちろん僕はNMEという音楽雑誌は知っていて、大阪の旭屋書店というところに何ヶ月か遅れで入ってくるNMEを何時間も眺めていました。

その頃NMEは日本では2000円くらいしていて、買えなかったのです。売れ残ってボロボロになって、セール品として1000円とか700円になったのを買っていました。

イギリス盤のLPが2800円、アメリカ盤が1500円の頃です。為替の関係(なんとその頃は1ポンド450円です。ドルも360円でしたけどね。固定相場の時代です)でイギリス盤はとっても高いんですけど、見開きになっていたり、PP加工(紙にフィルムを貼って加工すること、すごい光沢があったり、渋くマットにしたりしていたのです)が凝っていったり、ポスターや7インチ・シングルとかのおまけがついて、イギリス盤の方が高くってもかっこよかったのです。でも一番の違いはイギリス盤の方がいい匂いがしていたのです。

あれは一体なんだったんですかね。イギリス盤は航空便で来てたのを買ってたからですかね。アメリカ盤は早く手に入れる必要のないレコードばっかりだったからか、いつも僕は廃盤というカット・アウト(レコードのジャケットの端が切られている)のレコードを1000円とか500円で買ってました。だからそのレコードにはもうレコードの匂いがせず倉庫の埃にまみれた匂いがしていたのですかね。

とにかく僕はイギリスに着いた日にNMEを見て、ギャング・オブ・フォーを見に行くことにしました。知り合いの方は日本レストランでバイトがあるということで、僕は一人で行きました。

ギャング・オブ・フォーみたいな政治的なバンドを言葉の分からない僕が見に来たら、周りの連中から吊し上げられるかと思っていたのですが、そんなことはなく、オランダから来たニュー・ウェイブ青年たちと、「クランプス好き?クランプス・イズ・NO1」とか言って盛り上がっていたら、ギャング・オブ・フォーが始まって、ヴォーカルのジョン・キングが蟹のように横滑りで出てきてびっくりしました。「お前ら、こんな世の中クソだぞ、騙されるな」とアジテートすることもなく、とにかく淡々と怒ったというか引き攣ったような顔で歌っていたのです。まさに『エンターティメント!』でした。

 

1.「Ether」

曲名のエーテルって、天空って訳すより催涙ガスって訳した方がいいんでしょうね。ベルファスト近くにあるロング・ケッシュ刑務所に収容されていたIRAの囚人たちが暴動を起こした時にCSガスより強力で発ガン性のある催涙ガスを人間モルモットのように使ったことへの歌と「ロッコール島にオイルが」というサビはなんの意味もない島に石油が出るかもと無理矢理併合したりしていたイギリスの妄想を皮肉っているんでしょうね。安倍ちゃんに歌っているみたいですよね。そんなに憲法変えないと日本が侵略されるかと歌っているような歌ですね。在日は日本を侵略しそうだから、ちょっとくらいきつい催涙ガス使ってもいいんじゃないみたいな。

 

2.「Natural’s not in it 」

“夢は買い物だけ”と「ゴッド・セイブ・ザ・クィーン」で歌ったセックス・ピストルズと同じことを歌っている。タイトルは“健康なものは何も入ってません”と訳せばいいのか。“ノー・エスケイプ・フロム・ソサエティ(社会)”とフレーズがかっこいいですね。今だとアマゾンのクリックから逃れられないってことですかね。アマゾンはアメリカのある地域では注文してから2時間で品物を到着することを実現しているそうじゃないですか。この時代のロイヤル・ファミリーよりも僕らはいい時代に生きているんです。でもなぜか僕らは不幸だという歌。次のアマゾンの目標は、注文しなくっても商品を届けさせることらしいじゃないですか、すごいよね。どういうことかというと顧客が今まで買ってきた物から察知して、こういうのが必要だろうと向こうから勝手に送られてきて、顧客は必要なものだけ取って、いらないものは送り返すというシステムをやろうとしてるそうです。昔でいうと御用聞きというか、富山の薬売りなんですけど、それをネットでやろうとしてるそうです。

 

“みんな善意だけど、それには条件がある”

 

ですね。アマゾンはより良い生活のためにやっているように見せかけて、それは全部利益のためでしかないと。ずっと同じことが歌われているんですね。

 

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