久保憲司のロック・エンサイクロペディア

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド『ヘロイン』 「神になりたい」「俺たちを殺した人間になりたい」。普通の感覚を超えた、服従と支配の歌

 

僕はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「ヘロイン」は実に馬鹿げた曲だなと思ってました。

もちろん、ヘロインを打つと“神の子供になったような気分になれる”と言う歌詞はすごいと思う。「ヘロイン」って、実はヘロインをやったような感じを疑似体験させる曲なんです。そんなアイデアバカぽいでしょう。映画なんかでLSDをやった体験を映像化したりするシーンが出てきたらバカぽく見えるじゃないですか、それと一緒です。

でもそんな中でもデヴィッド・リンチの映画『ツイン・ピークス-ローラ・パーマー最期の7日間』のドラッグ・シーンでの音響は、本当にエクスタシーをやったような感じになってびっくりしますが。

「ヘロイン」がゆっくりした演奏から始まるというのは、ヘロインが血液に入っていく感じを表現しているのです。そして、曲が速くなっていくのは、ヘロインが身体中に回ってラッシュ(ハイ)の感じを再現しています。

確かにこの感じはヘロインのラッシュの感じをよく表していると思います。この時に「俺、このまま死んじゃうんじゃない」という恐怖感が快感と一緒に襲ってくるのです。そして、またゆっくりとした感じになって「あー、俺助かった」という気持ちになって安堵していると、またラッシュが襲ってきて「あかん、あかん、またいてまう」という恐怖が襲ってくるのです。そして、またゆっくりとした波に包まれて安らいでいると、また速くなって、そして、最後にポーンと人生どうでもいいわという無我の境地みたいなものになるのです。

ルー・リード言うところの

アイ・リアリィ・ドント・ケア・エニモア

です。

「ヘロイン」はこんなドラッグ体験を疑似体験させようとしている曲です。まっ、すごいんですけど、それがどうしたという気になります。ザ・フーの「ピンボールの魔術師」のピートのチャカ、チャカ、チャカ、チャカという三連のカッコイイ・ギター・カッティングがあるんですけど、それってピンボールの玉がガチャ、ガチャいっている音を再現してるんだと気付いた時のバカらしさと似ているなと思いました。ギターの音で汽車の汽笛の音を再現するのとかと一緒ですよ。バカらしいでしょう。ヴェルヴェットはもっと高尚な意識改革をやっていると思ってたら、ヘロインの体験を音にしようとしてるなんて、笑っちゃいますよね。

でも先日タレント、エッセイスト、ライター、大学講師、出版社経営者、脚本家、 俳優、翻訳家など多彩な顔を持つマシュー・チョジックさんとトーク・ショーした時に「ヘロインは実はそんな歌じゃないんですよ」と教えられました。マシューさんもユダヤ人ですが「ユダヤ人のルー・リードにとって”ジーザスの子供になったような気分になれる”というのは別人になるということを意味しているんだよ」と教えられました。そして、神になるということはユダヤ人を自分たちうの都合で殺していったナチ(神)になると言うことまで歌っているんだと。彼がナチ・シンパのニコと付き合っていたのもまさにそういうことだと。

 

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tags: Nico The Velvet Underground

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