久保憲司のロック・エンサイクロペディア

フィービー・ブリジャーズの二作目『パニッシャー』 若い魔女には希望があると言うことでしょうか。若い女性から熱狂的に愛されているのはそう言うことなんでしょう

 

女性版エリオット・スミスと言っていいのか、新しい魔女と言っていいのか、フィービー・ブリジャーズの二作目『パニッシャー』が心地よいです。ブリジット・バルドーのような金髪が可愛いく、とってもクールな人です。

それでザ・フーのジョン・エントウィッスルなガイコツの服で歌うのがいいんですよ。ジョン・エントウィッスル、レッド・ホット・チリペッパーズのフリーと繋がっていたガイコツ・ファッションを女性が引き継ぐとは、これからのロックは女性がリードしていくんでしょうね。

フィービー・ブリジャーズのガイコツ・ファッションは、昔ギャルがドンキで買ったピカチューのパジャマみたいなの着て歩いていた感じですけどね。ジョン・エントウィッスルも一緒か、カッコよくなりつつあるロックにユーモアを持ってこようとしたことだったので。

 

 

フィービー・ブリジャーズの場合は、みんなが死者になるメキシコの死者の日の祭りみたいなものかな。アメリカで言うとハロウィンか、日本でもお盆ということで一緒ですか。

「日本のハロウィンなんてただのバカ騒ぎだろ」という人が多いかと思いますが、やっぱりあの渋谷のバカ騒ぎもメキシコと一緒で、人間というのはたまに死を感じないと生きていけないんだろうなと思うのです。日本はお盆があるからそんなことしなくってもいいと思うんだけど、お盆をしない若者の家とか増えていってるだろうから、その反動としてあるんだろうなと思うのです。そうじゃないとあそこまで爆発しないと思うのです。それがお祭りの基本でしょう。

フィービー・ブリジャーズの歌にもそういう人間の生理みたいなものが秘められているのです。合理主義の塊のようなアメリカ人ですが、彼らの心の奥底にはアメリカに来る前の呪術的なものと、インディアンを殺したことによって彼らの精霊みたいなものから呪われているという罪悪感がいつもつきまとっているんだと思います。そういうことを忘れていく人はきっと資本主義の地獄に落ちていっているんだと思います。彼女がストロークスなどを「産業ロックよね」みたいな言い方をするのはそういうことなんだと思うのです。

クロコダイル・ダンディみたいな素朴な人しかいないのかと思っていたオーストラリアにも、ヨーロッパのような闇と狂気はあるのだとニック・ケイブが教えてくれたように、フィービー・ブリジャーズはアメリカの新しい魔術を僕たちにかけてくれています。その魔術は決して黒くなく、若くて清々しいのです。

僕は黒魔術と白魔術の違いなんかまるで分からないけど、宮崎駿の『魔女の宅急便』で言えば、若い魔女には希望があると言うことでしょうか。

フィービー・ブリジャーズが若い女性から熱狂的に愛されているのはそう言うことなんでしょう。

 

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tags: Phoebe Bridgers

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